東京・銀座にMUJI HOTEL、オフィス計画一転させてユニーク客室

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衣類や雑貨、家具などで、シンプルなデザインとナチュラルな素材使いが人気の「無印良品」。海外では「MUJI」として知られ、いまや国内外で975店舗を構える(2019年2月期時点)。同ブランドを展開する株式会社良品計画は2019年4月4日、東京・銀座に世界旗艦店となる「無印良品 銀座」や「MUJI HOTEL GINZA(ムジ・ホテル・ギンザ)」などをオープンした。

 MUJI HOTELは、良品計画が手掛けるホテルブランドで、同GINZAは2018年に開業した中国・深圳(しんせん)や北京に続く世界3カ所目、国内では初出店となる。「アンチゴージャス、アンチチープ」をコンセプトに、ちょうど良い価格で眠れて、旅先であっても生活の延長のようなリラックスした気持ちで過ごせる旅の拠点を目指す。無印良品の世界観を体感できる新しいホテルの形を紹介する。

東京・銀座で開業を迎えた「読売並木通りビル」の外観。建物には、「無印良品 銀座」「MUJI HOTEL GINZA」が入っている(写真:日経アーキテクチュア)

 1980年、無印良品は大手スーパー西友のプライベートブランドとして生活雑貨9品目、食品31品目の40アイテムでスタートした。「わけあって、安い」をコンセプトとし、無駄を省き、シンプル、ナチュラルといったキーワードで、安くて良い品を開発し続けてきた。1989年に西友から独立した良品計画は、現在では、家具や衣類なども含め7000品目を超える商品を提供している。

 MUJI HOTEL GINZAでは、室内の備品やアメニティの一部は無印良品のアイテムを使用しており、宿泊しながら無印良品の世界観を楽しむことができる。気に入った商品は、帰りに「無印良品 銀座」で購入できるのもうれしい。 

シンプルだからこそディテールが命

 建物の名称は「読売並木通りビル」。地下1階~地上6階の一部が店舗、地上6~10階がホテルだ。店舗面積は無印良品単独では世界最大の3,981 ㎡を占める。

読売並木通りビルの断面図(提供:竹中工務店)

 発注者は読売新聞東京本社で、当初高層部はオフィスビルとして計画を進めていた。その後に良品計画の入居が決まり、低層部は店舗、高層部はホテル客室へと用途を変更。建物全体の基本設計は石本建築事務所、実施設計・施工は竹中工務店、ホテルの内装設計と運営をUDS、店舗の内装をスーパーポテトが担当した。​

左が良品計画生活雑貨部企画デザイン担当部長の矢野直子氏、右が無印良品 銀座の齊藤正一店長(写真:日経アーキテクチュア)

 ホテルの内装設計は、「シンプルだからこそ、ディテールが重要だった」と、良品計画生活雑貨部企画デザイン担当部長の矢野直子氏は言う。そこで生きたのが、UDSのホテル設計のノウハウだ。

ホテルの企画、内装設計、運営を担うUDSの梶原文生代表取締役会長(写真:氏家 裕子)

 一方で、UDSの梶原文生代表取締役会長は、「細長くなった間取りが、新しい空間の味を出していくと考えている」と言う。

 左右隣り合う客室の水回りを互い違いに配置するほか、浴室の扉を動かすと収納の扉を兼ねるような建具をデザインするなどして、空間を有効に活用した。多くの客室の間口はわずか約2.1 mだが、元々オフィスフロアとして計画されていただけあって天井高は約2.8 mと高い。その天井の高さが、快適な空間演出に一役買っている。

ホテルの客室は9タイプで、全79室。タイプCの客室内観。小上がりにベッドを置き、洗面を通路に配した。広さは24~25㎡で、1部屋1泊2万9900円。最大収容人数は2人(写真:日経アーキテクチュア)

天井の高さを生かして2段ベッドを置いた客室(タイプG)も4室用意した。客室の広さは25㎡で、最大収容人数は3人。1部屋1泊2万9900円。ベッドは据え付けにせず、「家具」の扱いとした(写真:日経アーキテクチュア)
10 階に1 室だけ用意した最も大きな客室(タイプI)。広さは52 ㎡、1 部屋1 泊5 万5900 円(写真:氏家 裕子)
タイプI の部屋の奥には和室の部屋を設置。畳の部屋でのんびりと本を読んで過ごせる(写真:氏家 裕子)

 ホテルの内装設計を担当したUDSの伊東圭一COMPATH事業部ゼネラルマネージャーは、こだわりをこう語る。「シンプルな客室ではディテールが目立つ。人が触れる部分の素材には、無印良品がこだわる『木・金(鉄)・土』に加えて、布を提案し、それが温かみにつながっている」と話す。

シーツは、店舗で販売している家庭用ではなく、ホテル用として新たに作られた。「気持ちのいい、綿100%のものを作ることができました」と、良品計画生活雑貨部企画デザイン担当部長の矢野直子氏は話す(写真:氏家 裕子)

シャワールームの洗面台。歯ブラシ、ドライヤーなど多くが無印良品の商品。気に入ったものは下の店舗で購入できるからうれしい(写真:氏家 裕子)​
パブリックスペースにもこだわり。6 階のホテルフロントのカウンターの後ろの壁は、100 年以上前に東京を走っていた路面電車の敷石を利用。「銀座という古きと新しきが交わる街とリンクするアイコン的な役割を果たしている」と、UDS の梶原会長は言う(写真:日経アーキテクチュア)
フロントの隣にある和食レストラン「WA」。壁には船の廃材を再利用した(写真:氏家 裕子)
6 階のバーカウンターは樹齢400 年のくすの木を使用(写真:氏家 裕子)

「ホテルには1980年代の創業の頃から意欲的だった」

 MUJI HOTEL出店の経緯について、良品計画の松﨑曉代表取締役社長は「無印良品が誕生した1980年からアドバイザリーボードの多くのメンバーがホテルの出店について意欲的だった」と語る。
 約40年たった今のタイミングに出店した理由は、「『生活の基本となる本当に必要なものを、本当に必要なかたちでつくること』が無印良品の考え方。80年当時はまだホテルに泊まることが日常生活の延長とはいえなかった。旅が日常生活の延長、生活の一部となった今だからこそ事業をスタートした」と説明する。

 そのほか、良品計画が力を入れているのが食の提供だ。「2018年には冷凍食品も開発してきた。食の領域は、我々の生活の基本であり、全世界で拡大していきたい」と松崎社長は話す。
 具体的には、地下1階に朝食セットや日替わり定食を提供するレストラン「MUJI Diner(ムジ ダイナー)」をオープン。1階では、青果売場、弁当・サラダ、ベーカリーなどの売り場を展開する。

地下 1 階で、朝7 時30 分から22 時まで営業するレストラン「MUJI Diner(ムジダイナー)」(写真:氏家 裕子)
入り口を入ってすぐの場所に位置するのが朝7 時半からオープンするベーカリーコーナー。コーヒーと一緒にイートインも可能(写真:氏家 裕子)
1階の青果コーナーでは関東近県の農家を中心に仕入れた有機栽培や減農薬の野菜や果物などが並ぶ (写真:氏家 裕子)

 今後は、年間230 万人の来店を目指すため、来店動機となるようなイベントの実施を、年間300 回予定しているという。

(執筆=氏家 裕子・ライター/日経アーキテクチュア)

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