港町の昭和モダンな銀行建築をホテルで再生―北海道函館市「HakoBA 函館」

2017-06-29

 

港町の昭和モダンな銀行建築をホテルで再生

――北海道函館市「 HakoBA 函館 」

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港町の情緒あふれる北海道函館市で、築85年の建物と、築31年の建物を一体的に改装したホテル「 HakoBA 函館 (ハコバ ハコダテ)-THE SHARE HOTELS- 」が登場した。新感覚の「シェア型複合ホテル」をコンセプトとし、昭和モダンの銀行建築や、地元の工芸品、アート、食などを楽しめる。
 
 国内外から多くの観光客が集まる北海道函館市。函館山から市街地や海を見渡せる眺望は、旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三つ星を獲得したほど。函館山から北の函館港に向かい、一直線に伸びる「八幡坂(はちまんざか)」も観光スポットとして人気の高い場所だ。

「HakoBA 函館 –THE SHARE HOTELS–」。有名な八幡坂の角地にある(写真提供:リビタ)

 その八幡坂を下った角地で2017年5月26日、新たに「HakoBA 函館 -THE SHARE HOTELS-」がオープンした。海側に立つ赤レンガタイル張りの建物と、山側に立つ元銀行建築の2棟をつなげ、一つのホテルとして営業している。

 海側の建物は1986年に建てられ、「テディベアミュージアム」として使われていたが、2012年に営業を終了した。設計者が函館港を意識したのか、全体的に船をモチーフとしたデザインになっている。新ホテルでは「DOCK棟」と名付けた。

海側から見たDOCK棟。1階には、レストラン「PIER H TABLE(ピア エイチ テーブル)」を併設している(写真提供:リビタ)

 一方、山側に立つのが1932年に安田銀行函館支店としてつくられた建物で、市の景観形成指定建築物にも指定されている。1968年に「ホテルニューハコダテ」として転用され、2010年まで営業していた。クラシックホテルとして人気が高く、定宿として利用する著名人も少なくなかったという。こちらは新ホテルで、「BANK棟」と名付けた。

築85年のBANK棟。元銀行の意匠を楽しめる。左に見える建物はDOCK棟(写真提供:リビタ)


リノベーションを得意とするリビタが開発

 HakoBA 函館として2棟を一体的に開発したのは、京王電鉄グループのリビタ(東京都目黒区)だ。これまで中古マンションのリノベーションや、シェアハウスの開発などを数々手掛けてきた。HakoBA 函館では、これまでのリノベーションのノウハウを生かし、建物を診断、検査し、安全性などを確認したうえで新たなホテルとして改修を手掛けた。

もともと2棟は近接して立っており、接続しやすい状況だった(写真提供:リビタ)

 企画から携わっているリビタホテル事業部の金子啓太プロジェクト推進担当は、「ホテルは毎日100人近くの人々が行き来する。情報発信の場として、地域の人々にも活用してもらえる空間を目指した」と説明する。

 同社は、ホテルのコンセプトに「シェア型複合ホテル」を掲げる。館内には、道南の工芸品などを販売するショップを置き、階段室には地元出身アーティストの作品を展示した。将来は、地元住民と一緒にホテル館内を使ったイベントなども企画していく考えだ。

1階ロビーの脇にある道南の工芸品などを販売するショップ(写真提供:リビタ)

階段室に展示した地元出身アーティストの作品。八幡坂から函館港を見下ろした風景(写真提供:リビタ)

 DOCK棟の最上階にはシェアキッチンを配置した。シェアキッチンは、宿泊客なら誰でも使うことができる。ホテルの近くに漁港の朝市があるので、食材を買ってきて、宿泊する仲間同士で調理や食事を楽しめる。

DOCK棟の最上階に設けたシェアキッチン(写真提供:リビタ)

 さらに、シェアキッチンの窓を開けると屋上のルーフテラスにつながっており、函館港を見渡しながら爽やかな朝食を摂ることもできる。「他のホテルでこれほど開放的なテラスはないはずだ」と、建築ディレクションを担当したリビタ建築統括部第一グループの伊藤 太グループリーダーは胸を張る。シェアキッチンでは、宿泊客だけでなく地域住民が料理教室を開催することなども想定している。

函館湾を臨めるDOCK棟のルーフテラス(写真:日経アーキテクチュア)

 「これまでのホテルは、料理を提供されることで地元の食材を味わうことが多かった。HakoBA函館では、自分で食材を選び、調理するのも地元体験を楽しむ1つと考え、シェアキッチンをつくった」(金子氏)。


2棟の魅力を引き出した客室設計

 DOCK棟とBANK棟には異なる歴史と空間的な特徴があり、それぞれ客室にもこだわった。例えばDOCK棟は、船のようなデザインを生かし、家族旅行や女子会などの目的に使いやすいように、グループで泊まれる2段ベッドタイプの客室もあり、船室を彷彿(ほうふつ)とさせる色、照明を施している。

DOCK棟の2段ベッドタイプの客室(写真提供:リビタ)

 また、天井高の低いロフトは、クッションなどを置くことでむしろ居心地の良い空間となり、宿泊者が仕事やくつろぎの場所として使えるフリースペースへと変えた。

DOCK棟のロフトにつくったフリースペース(写真提供:リビタ)

 BANK棟の内装は、実は当初の予定とは大きく変わっている。工事の際に、「ホテルニューハコダテ」時代の壁や天井を取り除いたところ、銀行時代の意匠が残る巨大な梁や木製の窓枠などが現れ関係者を驚かせた。

BANK棟の工事中の様子。天井の上に巨大な梁や木製の窓枠などが現れた(写真提供:リビタ)

前の写真の場所を改修した後の様子。ライブラリとし、函館や旅に関する書籍を並べた。宿泊者だけでなく、地元の人々もイベントなどに活用できる(写真提供:リビタ)

 それを見た金子氏らは銀行時代の意匠を残す方向で設計プランを大幅に変更した。「構造も再検証し、事業費は予想以上に膨らんだ。だが、建物の持つ歴史を生かすことで、意匠的な魅力を増すことができた」と金子氏は言う。

 ドミトリータイプや家族客・グループ客向けの客室を配置したDOCK棟と異なり、BANK棟はクラシカルな印象を強調するような落ち着いた雰囲気の個室が並ぶ。階段室には、「ホテルニューハコダテ」のときに掲げていた看板を館内モニュメント照明として再現。家具もメンテナンスをして、再利用している。

BANK棟の客室。旧銀行時代の意匠が残る梁や、窓枠を生かしている(写真提供:リビタ)

BANK棟の階段室。「ホテルニューハコダテ」時代の看板を照明に再利用した(写真提供:リビタ)

 

DOCK棟からBANK棟へ入る部分。円形の石段は、旧ホテル時代にも使われていたもので、美装して継続利用している(写真:日経アーキテクチュア)

 
 リビタの都村智史代表取締役社長は、「日本のツーリズムは、2020年の東京五輪後どうなるのか不安視する声もあるが、私はまだまだ伸びしろがあると思っている。全国には数多くの使われていない価値ある建物が眠っており、私たちは事業的にもエリア的にも拡大するためにホテル事業に注力していきたい」と語る。

リビタの都村智史代表取締役社長。「旅行者と地域の方々がつながる場になってほしい」と語る(写真:日経アーキテクチュア)

 
(執筆=日経アーキテクチュア 菅原由依子)
 
■「日経アーキテクチュア」について
「日経アーキテクチュア」は1976年の創刊以来、一級建築士や建設会社、行政関係者など、建築界に携わる約3万人の読者に、意匠・構造・施工などの専門領域をはじめ、建築界を取り巻く社会・経済動向から経営実務までの情報をお届けしてきた建築の総合情報誌です。雑誌のほか、「日経アーキテクチュア・ウェブ」(
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