自動販売機天国 日本

自動販売機天国 日本

印刷用PDF 

 外国からのお客様をご案内していると、しばしば日本の自動販売機の話題が出る。数や種類も豊富で、屋外にも多い。町中だけでなくどんな田舎にもあり、しかもちゃんと機能している。故障も少ない。メンテナンスもよくされている。自分の国では25セント硬貨だけなど決まった硬貨しか使えないことも多いのに、日本はいろいろな硬貨を使えるだけでなく、お札やICカードも使える、おつりもきちんと出るのが信じられない。温かいものと冷たい飲み物が同じ機械から出てくるのが本当に驚き、などなど。

 販売しているものにも変わったものも多い。飲み物や食べ物だけでなく、帽子、かさ、花、そしてなんと金貨や結婚指輪のキットまである。AI搭載の自販機や省エネなど技術も著しく進歩しており、話題に事欠かない。

 世界的に見ても、日本での自動販売機の普及率は高い。一般社団法人日本自動販売システム機械工業会によると2021年末における飲料の自販機は225万4400台。設置台数を見るとアメリカに次いで世界第2位だが、人口比率では世界一を誇る。同会専務理事の恒川元三(つねかわ もとぞう)さんに日本の自動販売機についてお話を伺った。

 同会は、日本の通貨が使われる機械を製造するメーカーの日本で唯一の団体だ。一般的な飲料や食品の自販機だけでなく、銀行のATMや、駐車場などの精算機、外食産業の食券や電車の券売機、ホテルの自動のチェックアウト機などの機械メーカーが会員企業とのこと。「2024年にお札が新しくなります。お札が変わるとき、当団体が政府との窓口となって、会員企業と調整の上新しい硬貨、紙幣を発行されるときに機械側が対応できるようにするということが、当団体の大きな役割です」

 自動販売機の歴史は古く、紀元前のエジプトまでさかのぼる。世界最古の自販機は、古代エジプトの科学者ヘロンの著書『気体装置』に登場する「聖水自販機」。コインを投入するとその重みで水が出てくる装置で、紀元前215年ごろ、寺院に置かれていたといわれている。「インターネットで調べると近代の自動販売機の歴史は、もともとはイギリスと出てくるんですけれども、日本の自動販売機の本格的な普及に関してはアメリカから、特にアメリカのコカ・コーラ社が自動販売機というツールを使って日本での販売をするために入ってきたのが始まりです」。日本の自動販売機の歴史の映像は同会のホームページで見ることができる。

 自販機の歴史~History of Vending Machine

 「日本の自動販売機メーカーは機械を製造するだけではなく、当初商品補充等をするオペレート会社まで作りました。自動販売機を製造するだけでは自動販売ビジネスは絶対成功しない。共通した機械をうまく運用してオペレーションをしないと日本ではうまくいかないと考え、オペレーターという業種が生まれました。今は、飲料メーカーの系列オペレーターが直接商品を入れ、お金を回収していますが、日本ではそういったルートを自動販売機の創成期からしっかりと作りました」。こうして飲料の補充やメンテナンスがきちんと行われ、飲料の自動販売機は日本全国に広がっていった。

 「屋外に設置してある自動販売機は、世界を見ても日本だけになってしまいました。何十年か前は外国でも屋外に設置してあったのですが、ほとんどが防犯上・景観上の問題から屋内の設置に変わってしまいました。ですから世界の中でも屋外に設置してある国というのは本当に珍しいです。安全安心な国だからです」

 屋外の自動販売機と並んで外国のお客様が驚くのは、自動販売機で暖かい飲み物が買えるということだ。「ホット&コールド、これもまたよく話が出てきます。 四季のある日本だからこそのホット&コールド。日本では寒い冬に冷たい飲み物は屋外にある自動販売機では売れません。そのため、365日販売できるホット&コールドの自動販売機が生まれました」

 こうして日本中に広まった自動販売機だったが、近年台数は一時より減ってきている。「コンビニエンスストアがない時代、飲料メーカーさんが自社製品を売るためのツール(お店)だったのが自動販売機です。コンビニエンスストアが出始めてから、コンビニへ行けば今の売れ筋商品が置いてあり、多くの人がコンビニで飲料を買うようになりました。それからやはり、人手の問題もあります。暑い時期に商品を入れるというのは大変で、なかなか作業員が集まらない。よく売れる自動販売機はいいのですが、やはり売れない自動販売機は撤去されていきます」。コンビニで安価なおいしいコーヒーが飲めるようになったのも台数減少の理由の一つだという。

 しかし、新しい動きもある。「コロナになって飲食店がお店を開けなくなりました。そこでラーメン屋さんなどが、自分のお店の前に自動販売機を置いて餃子とかラーメンを売ることで、改めて自動販売機が見直された、というのも事実です。飲料の自動販売機の台数は増えていませんが、食品の自動販売機、特に冷凍のもの、家に持って帰って解凍すれば食べられる、そういったものはこれからも普及すると思います」
 事実、食品の自動販売機は2021年12月末現在で前年比増加している。最近は変わった自動販売機が増え、話題に上ることが多くなった。以前とは逆に珍しかったり、他ではなかなか手に入らなかったりする商品の自販機の数を絞って限定的に置くことによって話題性が増し、人がそれを探し求めてやって来るということが多くなったように感じられる。

既存の技術からさらに良いものを作る

 「最近は冷凍の自動販売機が増えてきましたよね。でも元々はアイスクリームの自動販売機がありました。新しい自動販売機と言っても、ある技術から発展させる。それが一般の方からすると新しく見えるかもしれませんが、製造サイドからするとそんなに大きく変わったわけではありません。自動販売機の構造が変わっただけです」
 冷凍自動販売機の中でも「ど冷えもん」は今まさにブーム。全国の名店の味を冷凍食品として提供する自動販売機だ。冷凍食品の命である鮮度を保つための仕組みがいくつもある。業務用冷凍庫レベルのマイナス25℃まで冷やせるうえ、庫内の温度が-15℃より高い状態で90分続いたら、アラームが送信され自動で販売中止する機能もある。再現性が高くておいしいと評判だ。自動販売機の値段としてはやや高めだが、全国の名店の味が24時間365日いつでも食べられることを考えたら決して高くない。

 また2022年5月には薬剤師とテレビ電話でつないで薬を売る自動販売機の実証実験も行われた。「その先駆けはたばこの自動販売機なんです。たばこは成人でないと買えないので現在はタスポというICカードをかざして自販機で買います。それ以前に自動販売機でたばこを買うときにはビデオカメラが写って、お店の人が顔を見てちゃんと20歳以上だというのを確認して商品を売るというたばこの自動販売機がありました。ですから、ドラッグストアの中と外をビデオで接続して販売するというのは、発想としては決して新しいことではないんです」。薬局やドラッグストアでは、一般用医薬品は薬剤師や「医薬品登録販売者」(登録販売者)がいないと買えない。今回の実証実験では、実験の自販機を運営する薬局の薬剤師または登録販売者が購入内容を都度、専用の端末で確認し販売の許可を出していた。

ぜひ見てもらいたい日本の技術

 「温かいものと冷たいものが一つの自動販売機の中で売ることができるのは、ヒートポンプが使われているからです。ヒートポンプとは、少ない投入エネルギーで空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術のことです。ヒートポンプは、エアコン、冷蔵庫、エコキュートなど広く使われています」

 そして現在は省エネにも工夫がされている。飲料自販機1台が使う電気は1991年から20年間で70%も削減された。どのようにしてこれほど削減できたのだろうか?

主な技術としては

①学習省エネ (自販機に内蔵されたマイコンが、これまでの売行きデータなどを分析し、その結果に応じてゾーンクーリングなどの省エネ機能を自動的に適切に働かせるという仕組み)

②ヒートポンプ (庫内の冷却装置から出る熱を再利用し、ホット商品を温める。この方式により、消費電力量が大幅に低減される)

③照明の自動点滅、減光 (センサーで周囲が暗くなると点灯し、明るくなれば照明が消えて電気の無駄をなくし、使用する消費電力量が抑えられている。最近ではより消費電力量の少ないLEDも採用され始めている)

ゾーンクーリング(部分冷却・加温システム:もうすぐ売れていく商品だけを部分的に冷やしたり温めたりして使う電気を節約)

⑤ピークシフト (電気が最も使われる夏場の午後には冷却運転を停止して、発電所の負担を軽減し、発電に伴う二酸化炭素の排出を抑える)

⑥真空断熱材の採用 (自販機の省エネでは、庫内の冷たさや温かさをできるだけ逃がさないでエネルギー効率を高めることがポイントになる。このため最近の飲料自販機には保温効率の高い真空断熱材が使われるようになってきた)

「あともう一つ、日本の自販機は入れたお金が戻ってきてしまうということはほとんどありません。これは世界でもトップクラスです。お金を受け入れて選別する技術が高く、優れているというのは自慢をしたい点です」

日本ならでは自動販売機にはどのようなものがあるか

災害対応自販機

 地震や台風など自然災害の多い日本では災害対応自販機というものもある。「災害対応自販機は、例えば新宿区などの地方自治体と飲料メーカーさんが災害契約を結びます。区や市の体育館など公共の場所に設置してあるものを、ある一定の基準の災害の場合には鍵を開けて、飲料水を提供する。無料で配るということもします。大災害の時には、当然電気も来ていないでしょうから、そういう場合には発電機が付いていて、自分で発電をして、電気を起こせるという自動販売機もあります」。 電光掲示板付きの自販機で、災害時の警報や避難指示を表示など災害情報の発信しようという取り組みも始まっている。

見守り自販機

 安全な日本ではあるが、暗い夜道で自販機の灯りが防犯にも役立っていることがある。「自動販売機は、ある意味どこにでもある。そして自動販売機には電源がありますから、防犯カメラを設置できます。ですから、子どもの見守りをすることもできます」。またよく見ると自動販売機には住所のプレートが表示してあることが多い。これは万が一のとき、110番や119番に通報するときにも役立つ。

これからの自動販売機――免税品の自動販売機

 「今までは免税品は対面でしか販売できないということになっていましたが、インバウンドの需要を回復すると言う目的で観光庁と国税庁でその制度が改正されました。いくつか条件があり、例えばパスポートを読み込むことができるもの、かつカメラが接続されていて顔認識ができ、パスポートとその人が合致するのか確認できるというような条件をクリアする自販機であれば、免税で販売してもよくなりました」。実現すれば外国語での対応が難しい地方などでも活用できる。現在、事前に専門のサイトで予約した免税品を受け取る自販機は、羽田空港や成田空港などに設置され始めている。

こんなにコンパクトで薄型の自販機も

最近話題の自動販売機

 最後に、最近話題の珍しい自動販売機はどこへ行けば見られるのか? 都内2カ所をご案内します。(2023年2月現在)

渋谷

 ケーキの自動販売機(アドアーズ3階)で、夜パフェ専門店OKASHI GAKUのケーキが透明の缶の中に入って売られていて、見た目の美しさからも話題になっている。ケーキの自販機のとなりには、その場で作ってくれる綿菓子の自動販売機も!

 SALAD STANDは、京王井の頭線渋谷駅の改札外にあり、コンビニへ行く暇がなくても、新鮮なサラダやコールドプレスのジュースを購入することができる。

 生クリームの自販機「なまくり」は、女の子の聖地SHIBUYA109の地下2階のエスカレーターの所にある。缶の中には9割の生クリームと1割のスポンジケーキ!スプーン付きで、その場ですぐ食べられる。

 バナナの自販機としては、東京メトロ半蔵門線・東急田園都市線渋谷駅に直結するビル(ヴィレッジヴァンガードの地下2階入口の外)に、2010年渋谷区に日本で初めて設置されたDoleのバナナ自動販売機がある。 自動販売機の中はバナナの保存管理に適切な温度となっている。現在はレジスタントスターチが多く含まれる“青め”に熟成させたバナナを販売。

 最近話題の昆虫食も自動販売機で購入できる。場所はドン・キホーテ渋谷店のセンター街側。パッケージはシンプルで分かりやすすぎ? 勇気のある方はぜひ!

 渋谷2丁目のトリュフギャラリー内にある、トリュフの香りがする自販機は世界初! トリュフ塩やトリュフ醤油など、トリュフ関連商品を自動販売機で購入できる。こちらの機械はショールーム内にあり、購入ボタンを押して決済が完了するとトリュフの香りも楽しめる。

珍しい自販機が集まる羽田空港

 羽田空港国内線第2ターミナルにはたくさんの珍しい自販機が集まっている。期間限定のスイーツや世界の機内食、地方で有名なカレーなどがある。
 おみやげを忘れても大丈夫! 各地のおみやげものまで自販機で購入できる。

 話題のフレッシュオレンジジュースの自動販売機を発見!お金を投入すると、その場でオレンジジュースを絞ってくれる。

 また前述の、事前に免税品を専用サイトで予約し、空港で受け取ることのできる自販機も国際線の第3ターミナルのモノレール駅の中に設置されている。事前に予約できるため、免税品を探す手間、空港まで持ち運ぶ労力も不要で、より多くの時間を観光に費やしてもらえる。

 日頃何気なく目にする自動販売機がこれほどの進化を遂げているとは! 今あるものをさらに良くしたいという日本人の職人気質とおもてなしの気持ちが、自販機を独自に進化させていったように感じた。技術がどんどん新しくなる一方、古い自販機を懐かしんで各地に巡礼する方々もいて、改めて日本人の自販機への深い愛を感じる。

 日本の生活に深く根付いている自動販売機、珍しいものを探してみてはいかがでしょうか?

*****************

取材協力
一般社団法人 日本自動販売システム機械工業会
Japan Vending System Manufacturers Association
https://www.jvma.or.jp

English Page →