来館者殺到の「都城市立図書館」

来館者殺到の「都城市立図書館」

――元ショッピングモールが市民の読書と憩いの場に

地方都市で役割を終えたショッピングモール。その建物が明るく開放的な市民図書館へと生まれ変わり、大成功を収めている。開館から8カ月を過ぎて来館者数は延べ85万人を突破。居心地の良さだけでなく、大人も子供も本を好きになる仕掛けの数々が人気の秘訣(ひけつ)だ。

 宮崎県で2番目の人口を誇る都城市は、鹿児島県に隣接し、農業や農産加工業が盛んな街だ。その中心市街地で新たにオープンした図書館が話題となっている。
 「都城市立図書館」はJR西都城駅から歩いて15分程度の場所に立つ。交通手段は主に車や自転車、国道を走るバスだ。ここへ平日、休日を問わず老若男女の市民が、遠くは鹿児島県からも訪れる。2018年4月に開館し、同年12月末時点で延べ約87万2,000人が来館。19年3月末までに延べ100万人を達成する見込みだという。

宮崎県都城市の中心市街地に立つ都城市立図書館の外観(写真:菅原 由依子)

 人気の理由の1つは、図書館としては珍しい開放感あふれる空間構成だ。実はこの図書館、元ショッピングモールを改装してつくられている。2004年に完成した建物で、かつては北側中央に時計塔のある吹き抜けのホールがあり、南側には専門店などが軒を連ねる通路が続いていた。

2階通路から見たホール広場の吹き抜け(写真:菅原 由依子)

 それを改装し、ホールの開放感をそのまま生かしつつ、通路は専門店が並んでいたように、産業や芸術などカテゴリーごとの書棚が続く構成へと変えた。コンセプトは「歩いて楽しいストリート」。通路沿いの棚を店先のショーウィンドーに見立て、各カテゴリーでお薦めの本を置き、奥の書棚へと誘うように工夫している。

改修前のショッピングモール外観(写真:都城市提供)

ホールを1階から見る。時計塔は既存のまま残し、エスカレーターを二股の大階段に変更した(写真:菅原 由依子)

元は専門店が並んでいたスペース。1階は産業分野の書籍などが並ぶ。ショッピングモールのときの幅広な通路や、トップライトから光が差し込む吹き抜けなどを生かした(写真:菅原 由依子)

1階平面図(資料:都城市立図書館のパンフレットから抜粋)

2階平面図(資料:都城市立図書館のパンフレットから抜粋)

会話OKで活気あるホールが人気

 建物の広さは延べ面積約9,200平方メートルで、ホールの天井高は約18メートルに及ぶ。天井のトップライトからは日の光が降り注ぎ、ゆったりとしたぜいたくなつくりとなっている。新築の図書館ではなかなか生み出せないだろう。​

2階から見渡したホール。天井には膜天井が下がっており、柔らかい光が下へ差し込む(写真:菅原 由依子)

 図書館内は騒いではいけないが、会話してもよいルールとしていることも特徴だ。ホールには子供たちの声や、キーボードを打つ音、歩く音などが入り混じり、穏やかな活気を感じる場となっている。集中したい人は、会話やパソコンの利用も禁止されている「静かな部屋」というスペースに入り、静かに読書することもできる。

2階の円弧形に続く書架には、年代順に歴史の本を並べている。下段が世界、中段が都城市周辺、上段が日本。市民がプレススタジオでつくった街の歴史に関するコンテンツは、ここにも並べる予定だ(写真:菅原 由依子)

 建物の再生は、市や地元の商工会議所などが連携して計画を進め、整備することを決定。約1.2ヘクタールに及ぶ敷地と建物を使って、図書館や子育て支援施設など合計8施設をつくることとし、その総称を「都城市中心市街地中核施設」、愛称を「Mallmall(まるまる)」に決定した。
 その後、ショッピングモールの改修については、地元の益田・大協・建人・アトリエ匠委託業務共同企業体が設計、東京のアイダアトリエが空間デザイン総合監修を行った。
 そして全体のプロデュースを務めたのがマナビノタネ代表の森田秀之氏だ。森田代表は、これまで宮城県仙台市の「せんだいメディアテーク」や、東京都武蔵野市の「武蔵野プレイス」などに携わってきた、いわば図書館づくりのプロ。いずれも爆発的な人気で、多くの市民が活用し、建築としても評価の高い文化施設だ。

大人も楽しめる数々の仕掛け

 都城市立図書館の人気のもう1つの理由が、従来の図書館にはあまりない仕掛けが数々用意されていることだ。森田代表は、「図書館は地域の記憶を残し、伝える場となることも1つの使命。一般的に本が好きなのは市民の2割といわれるが、少なくとも6割から8割ぐらいの人が訪れるようでなくてはいけない」と語る。
 大人も楽しめる仕掛けとはどんなものか、主な内容を紹介しよう。1つは、エントランスから入ってすぐの場所にある、「プレススタジオ」だ。都城市立図書館では、本を読むだけでなく、市民が自ら表現できることもコンセプトとしている。市民が大事だと思う地域のことを編集・印刷して、オリジナルの冊子などを制作できる。成果品は書架や、宮崎県産の杉板でつくられたCLT(直交集成板)を組み合わせた展示台の上に並べられる。​

1階の「プレススタジオ」。中央に置かれているのが、CLTを使った展示台。右の黒板には、都城市全体の地図と、図書館周辺の地図が書かれており、チョークで地元の情報を書き加えていく(写真:菅原 由依子)

市民が制作した冊子の例。高校生が土木女子の作業服をスタイリッシュにするという企画で、デザイン、製作、ファッションショーまでを行ったイベント内容をまとめたもの(写真:都城市)

 そしてプレススタジオと通路の間には、「インデックス[さくいん]」コーナーがある。ここには「アウトドア」や「おみやげ」「会話術」などのインデックスワードごとに2次元バーコードが付いたスタンプが並べられていて、来館者は気になった言葉を選びノートやメモ用紙にポンと押す。言葉を収集すると同時に、2次元バーコードを館内にあるタブレット端末や、手持ちのスマートフォンなどで読み込むと、館内にある本へと案内されるシステム。言葉の数は、来館者の要望に応じて、これから増やしていく予定だ。​

柱の周りにスタンプが並ぶ「インデックス[さくいん]」。既存の柱の太さを隠す意図もある(写真:菅原 由依子)

インデックスワード1語につき、1個のスタンプを用意。市民の要望などに応じて、言葉を増やしていく予定だ。右に写るのは、都城市商工政策課の横山哲英副課長。「広場の活用や子育て世代活動支援センター等との相乗効果もあって来館者増につながった」と話す(写真:菅原 由依子)

 ホールへと進むと、脇に設置されているのが「ショーケース」。杉角材フレームと強化ガラスに囲まれた展示ケースで、幅約2メートル、高さ約2メートル、奥行き約6メートルの規模。「見計らい本」という、図書館が購入する前の見本の本が並べられている。
 市民はケース内に入って見計らい本を手に取り、しおりを挟むなどして投票する。図書館はその人気ぶりを参考にしながら購入する本を決めていく。アイドルの“総選挙”のような感覚で、市民が楽しみながら書籍を自分たちで“推す”ことができる。​

ガラスで囲まれた「ショーケース」。受付のカウンターで、ショーケース内に入りたいと伝えると、中に入れる(写真:菅原 由依子)

 「まずは見計らい本があって、図書館が選書しているシステムを市民に理解してもらう。そしていずれは、予算上購入できなかった書籍を、市民が自ら書店で購入し、またそれを図書館に寄付してくれるような気持ちも出てくれれば、街全体で本の循環ができていくかもしれない」と森田代表は話す。

2階に10代しか使えない居場所

 2階の南側奥は元々フードコートだった場所で、改修後はテーブルと椅子を並べ、「ティーンズスタジオ」とした。10代だけが使える青少年専用スペースで、同世代の人たちと譲り合い、助け合い、成長していくための居場所だという。
 10代だけで集まると騒がしくなりそうなものだが、実際に訪れると、学生同士で宿題を教え合ったり、調べものをしたりしていて、それぞれ読書や作業に熱中している様子だった。

「ティーンズスタジオ」では皆熱心に勉強や調べものをしていた。奥に見えるのが「Fashion Lab.」(写真:菅原 由依子)

 さらに「ティーンズスタジオ」内には、「Fashion Lab.」というガラス張りの工房を設置している。実際にあるファッションブランドが全面協力し、子供たちがTシャツやワンピースなどの洋服づくりを体験できるスペースとなっている。作業に使われていないときには、中に入っておしゃべりすることも可能だ。

「Fashion Lab.」の内部。服飾に限らず、他のイベントにも活用できる(写真:菅原 由依子)

「Fashion Lab.」イベント時の様子(写真:都城市)

 「図書館になぜラボが必要なのか疑問に思う人もいるかもしれない。でも、本物の活動を仕掛けることが必要だと思った。自分の身に着けるものを選ぶということは、まさにアイデンティティーを形成するのに重要なこと」と森田代表は説明する。
 さらに、こう続ける。「僕自身も、田んぼで農作業をするときによく本を読む。でも、本のとおりにはならない。だからもう一度調べ直す。本を読み、実践して、うまく行かなければまた調べる。1つの本やスマートフォンだけでは完結しない、行ったり来たりする体験を子供たちに伝えることが大事だと思う」

2階通路。ショッピングモールのときの通路幅やトップライトをそのまま生かしているので、一般的な新築の図書館ではあまり見られない開放感がある(写真:菅原 由依子)

 図書館は本を静かに読む場所、という考えはもう古いのかもしれない。読書だけでなく、市民が集まって街の最新情報を発信し、自己表現する場でもあり、またそれを図書館や行政が受け取って実際の生活に反映していくコミュニケーションの場でもある。そうした地域のハブとして、図書館は進化し続けている。

(執筆=日経アーキテクチュア/日経クロステック 菅原由依子)
 
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