日本の原風景と文化を訪ねて――高知県1

2015-08-20

 

日本の原風景と文化を訪ねて――高知県

第1部 自然の恩恵

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四国の高知県は、四季折々の海・山・川の三拍子そろった魅力が豊富だ。太平洋に面して東西に長い海岸線を有する海との関わりが深い地域、そして、温暖多雨の気候のもと日本一の森林率である山の自然が豊かな地域から成り立つ。今回の取材で訪問した中部・西部地域を中心に、自然とその恵み、生活文化などを紹介する。

 


自然の中の清流「四万十川」

 高知県の西部を流れる四万十川(しまんとがわ)は高知県を代表する川で、四国で最長である。その川の流れの清らかさは長良川(岐阜県)、柿田川(静岡県)と並んで「日本三大清流」の1つと賞され、環境省により「名水百選」に選定されている。空の青さと山の緑が水面に映り込むほどゆったりとした流れで、川筋は大きくくねっている。くねっている所には河原が広がり、流れてくる水は川床の石・砂の間を通って浄化されながら下っていく。また、水を淀ませ水質を悪化させる大きなダムがないことも、この川に清流をもたらしている。

 四万十川に生息する魚の種類は多く、約140種類。なかでも、釣りや仕掛けの対象となるのはアユ、テナガエビ、ウナギで、清流に育まれた質の高い獲物を求めて愛好家が足を運んでくる。農業用水に利用し、釣りを楽しみ、自然と触れ合える四万十川の恵みが、流域の文化そのものとなっているように感じられる。当地の料理を食べられる遊覧船も運航されているが、ここの自然を味わうのには、限りなく水面近くに座るカヌーで川下りするのがお勧め。両岸が迫る谷状の部分を進む間は、周囲の人工物が全く見えず、聞こえてくるのは水の音と鳥の声だけとなる。まさに「自然の真っただ中にいるんだ」という感じに浸れるひとときを、1年を通して体験できる。

じゃぶじゃぶ下れるコースでも
楽しめる。
安定板を加えた船底。初心者で
もひっくり返りにくくなっている。
子供も乗れる
家族向けのラフティング


取材協力・写真提供:
四万十・川の駅 カヌー館

〒787-1603 高知県四万十市西土佐用井1111-11
TEL 0880-52-2121 FAX 0880-52-2424

http://www.canoekan.com/


高知の情緒を演出する沈下橋

 高知県は台風による大雨が降ることが多い地域である。普段はゆったりと流れる四万十川も、豪雨の際は水かさが10メートル以上も増えることがあり、そのような川のそばに住んでいる人々の生活の知恵から生まれたのが沈下橋(ちんかばし)である。
 沈下橋は橋げたを低くし、水が増すと川の中に沈むことにより流水の圧力を弱める構造となっている。欄干を設けず、増水時に流木等が流れてきたときでも壊れにくいシンプルな形状をとっている。高知県は面積の84パーセントが森林で、もともとは戦後の高度経済成長期に山から切り出した木材を運搬するトラックを通すために、高知県内の各地に架けられた。コンクリート製で、車両1台が通れるだけの幅しかない。大規模な橋が建設されるに伴い、年月が経って壊れたものから撤去が進められ、四万十川では現存47本が地元住民の日常生活で使われている。眺めるにも、遊ぶにも、四万十川に欠くことのできない風物である。

車両1台が通るのにぎりぎりの幅。
白い部分は、崩落して補修した部分
子どもにとっては結構高いので、
それなりの度胸が要る。


人の手で積み上げられてきた棚田

 高知県は森林率が全国1位で、平地は限られていて、山間部では昔から山の斜面に自然の地形を利用した棚田が発達してきた。その土地に代々暮らしてきた先人たちの手によって組み上げられた頑強な石積みが、山肌に曲線美を織り成している。大小の棚田が幾層にも重なり合った景観の美しさは、日本人の心に訴えかける「ふるさとの原風景」として親しまれてきた。
 棚田での農作業は平地よりも大変な苦労を強いられる。小型の機械しか使用できないための手間や、不規則な形状に合わせて手作業する部分が多く、作業効率を向上させることは非常に難しい。重労働が伴う棚田は日本各地で後継者不足・高齢化がますます進展しつつあり、耕地を放棄する農家が増加していることが深刻な問題になっている。
 今回の取材では、写真愛好家たちが定期的に田んぼを撮影しにくることもある津野町貝ノ川地区を訪ねた。ここでも高齢化により、年々耕作を断念する農家が増えつつあるが、耕作放棄地をなくし美観を保つ努力を集落の皆さんが続けている。

植えられたばかりの苗が青く、みずみずしい。 下部の石垣は鎌倉時代に積まれたと伝えられている。


地域の活力を生み出す棚田での取り組み

 地域の皆さんが協力して田んぼを維持し続けるために、地元の「貝ノ川棚田保存会」が、棚田の維持、集落の結束づくり、交流によるにぎわい、生きがいづくりに取り組んでいる。地域が元気になる成果を上げている「棚田キャンドルまつり」と「貝ノ川棚田オーナー制度」を紹介する。

5000本の「棚田キャンドルまつり」

 「棚田キャンドルまつり」は、2009年に集落の活性化のために始め、その幻想的な美しさに絶賛の声が集まり、毎年10月に津野町を代表する秋の行事として定着している。2リットルサイズのペットボトルを半分に切って組み合わせたろうそく立てを、集落総出で地元児童・生徒と協力して製作する。あぜに立てるキャンドルは5000本。キャンドルまつりは、遠くは県外や高知市、周辺住民、貝ノ川出身者たち総勢4,000人以上が集まる、町で最大規模のイベントである。それをわずか35戸の農家が担っている。このように小さい集落にこれだけ多くの人が集まってくることは、集落の方々にとって大きな励みになっている。キャンドルまつりは決して「観光」目的で行っているのではない。あくまで、集落が結束し、棚田の現状を知ってもらうために行っている。

オーナーには年間を通して自ら作業をしてもらっている。 作業が終わった後のオーナーと農家の交流会

 「棚田オーナー制度」は、集落の景観上からも、集落の結束を示す意味合いからも重要な田んぼが耕作を辞めざるを得ず、その田んぼを耕作放棄地としないために2012年から始めた。この制度は出資した見返りとしての収穫物をもらうだけのものではない。機械を使う作業や普段の手入れは地域の農家が手分けして行うが、手作業の部分はオーナーとその家族に実際にやってもらう。田植えや収穫など農作業の節目となる時期にオーナーと農家が協力して作業を行い、その後は全員で昼食会を催す。オーナーは農家ならではの地元の食事を囲んでの交流会も楽しみにしてここにやって来る。「これがないとオーナー制はおもしろくないと思う」と世話人代表の大﨑さんは強調する。こうした地元農家の取り組みに全オーナーが共感を持って、毎年契約を更新し、軌道に乗っている。オーナーは自然の中のきれいな水と空気、鳥や動物の声、農家の人々との交流など、お金に変えられないものを求めて来ているのである。
 こうした活動はあくまでも集落に暮らす人々が主体となって行動しており、集落の人々が元気でい続けるための取り組みである。ある種、〝高校の文化祭的なノリ〟で、地域内外の人々との絆が強められている。そういう地域の活力に魅せられて人が集まって来ているのである。


取材協力・写真提供:
高知県津野町


かぎりなく清く澄んだ仁淀川

 もう1つ高知県を代表する川「仁淀川」(によどがわ)は、全国一の水質で、比類ない透明度を誇る。神秘的と感じるほどの美しさで注目を引くこの川の水は「奇跡の清流」と称されている。水は青みがかっていて、その独特の色合いは「仁淀ブルー」とも言われる。流域には豊かな自然が手つかずで残されており、仁淀川は、点在する沈下橋と合わせて、日本の河川の清き流れをとどめたかけがえのない川だ。


山と川から生まれた芸術品―土佐和紙

「かげろうの羽」と言われる土佐典具帖紙は、薄さと強さを兼ね備えている。

 仁淀川流域の「いの町」では、地元で採れる原料と清流を用いての和紙の製造が1000年以上前から綿々と発展した。ここを中心として、他の生産地に先駆けて高品質の和紙を増産するための製紙用具の改良や明治時代に入ってきた欧米の文化や技術への対応を積極的に進めたことにより、やがて和紙の製造が高知県各地で地場産業として目覚ましく発展した。明治後半から昭和にかけて、高知県は手漉(す)き和紙生産量日本一を誇った。精巧で円熟した伝統技法に則って漉かれた和紙の味わいは、個性ある日本の美として高く評価されている。
 土佐和紙の特徴として、伝統の技法が継承されながら、新しい和紙作りが探求されてきたことにより、多様な和紙が創作されてきたことが挙げられる。職人たちが長い間培ってきた独自の製法で作る手漉き紙のうち、世界一薄い0.03ミリの土佐典具帖紙(とさてんぐじょうし)は、極限まで薄さと破れにくさを追求した究極の和紙であり、昭和中期までタイプライター原紙として欧米に盛んに輸出された。現在は、ちぎり絵などの美術工芸品の制作や、文化財の修復にも使われる。そのほかにもさまざまな用途に応じて、厚手のもの、表面が滑らかなもの、ごわごわしたもの、色彩豊かなものなど多くの種類の和紙が製造されている。


取材協力:
いの町紙の博物館

〒781-2103 高知県吾川郡いの町幸町110-1
TEL 088-893-0886 FAX 088-893-0887

http://kamihaku.com/

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