世界も注目! 新幹線の運行を支える清掃現場のおもてなし力

2013-12-13


日本のOmotenashi シリーズ第8回

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世界も注目!


新幹線の運行を支える清掃現場のおもてなし力
 

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新幹線劇場――東京駅で新幹線の清掃業務を担う彼らは、自分たちが日々取り組む現場をこう名付けています。そこでは、車両が折り返して出発するまでに与えられた7分以内に、次の利用者のために快適な空間を提供する作業が完璧にこなされており、その仕事ぶりは国内外から多くの注目を集めています。
JR東日本が運行する新幹線の車内と東京駅構内の清掃を実施する株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)を訪ね、ほかには例がない清掃作業の実態や、チーム作りなどについて取材しました。
 

毎日130,000人の快適空間

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 毎日東京駅にはJR東日本の新幹線(東北/上越/長野/秋田/山形行)が、4つの番線に4分間隔で入ってくる。到着後折り返して発車するまでは12分間。乗客全員が降車し終わってから、次の乗車案内を始めるまでの間に車内清掃ができるのは7分間しかない。
 新幹線利用者の多くが興味深げに窓越しに外から眺めているこの作業は、17両編成の場合2チーム44名が担当する。普通車両は1両当たり100席あるが、TESSEIの作業員は1人で1車両全ての作業をこなす。(グリーン車には3名を配置している。)トイレ・洗面所は別の担当者がピカピカにする。全てが完璧になされているので、利用者からの感謝の言葉も数多く寄せられている。
 乗降口で「お疲れさまでした」と声を掛けながら、降車する乗客からゴミを受け取り、全ての乗客が降車したことを確認してから作業に取り掛かる。集中力と瞬発力が凝縮された7分間の「新幹線劇場」が各持ち場で繰り広げられる。

①大きめのゴミを集めながら車両の状況を把握する
②椅子を進行方向に回転させる
③全20列100席1つ1つのテーブルと窓・窓枠を拭きながら椅子の汚れをチェックする
④床を掃く
⑤カバーを交換する
⑥忘れ物がないかなど最終チェックを行う

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 普通車両内での作業はこのような流れで構成されている。新幹線が東京駅に到着するたびに、次の乗客のために快適な空間がてきぱきと整えられていくのである。運行状況によっては時間の短縮を余儀なくされるが、作業員の技量はこれら一連の作業の出来栄えを損ねることなく最短4分間でこなせる能力まで高められている。

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 1日当たり120本の新幹線を東京駅で清掃し、東北・上信越方面に出発させ、その乗客は約13万人に上る。ピーク時に特別ダイヤが組まれると1日に168本まで増えることもあるが、450名のスタッフがフル稼働でこれに対応し、どんなにダイヤが混雑しても同質のサービスを提供し続けている。

 


支え合うチームのメンバー

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「『新幹線劇場』」で
『魅せる清掃』を心掛けています。」(佐々木さん)

 TESSEIがJR東日本から受託しているのは列車運行に合わせた清掃作業であり、どんなに車内が汚れていても定時運行は守らなければならない。不測の事態を乗り越えるのはチームの力である。22名から成るチームの1人1人が協力し合って、与えられた時間内で対応するしかない。
 「作業を行うに当たって、1分でもお客様を必要以上にお待たせしたくないから、どうしたら効率よく、しかもきれいな車両が提供できるかということが一番のポイントになります。」
 清掃の現場で作業員を指導するTESSEI東京サービスセンター佐々木俊彦主任に、チームのメンバーに対して心掛けていることを尋ねた。
 「必ずメンバーの間で漏れなくコミュニケーションができるようにしています。仕事に関しての知識やコツなどを個別に話し合ってもらい、各自が自分から課題に取り組み、向上できるように工夫しています。実際、作業をする時間よりも、こうしたことにより多くの時間を割いているのです。」
 チームには年齢や前職がさまざまな方々が集まっているからこそ、進むベクトルの方向は同じでなければならないことが強調される。1人1人の考え方がバラバラでは良いおもてなしはできない。乗客および東京駅の利用者に心地よい空間を提供するためのTESSEIの業務は、個人の技量の高さと、チームでの取り組みが相乗的に機能しているから成功できているのである。

 

お互いの良いところを引き出す

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 「気が付いたチームメンバーの良いところ、気配りのこもったお客様への対応、進んで取った素敵な行動、仲間に助けてもらったことへの感謝の気持ちなど、どんなに小さなことでもメンバーそしてリーダーからどんどん書いて提出してもらっています。」
 たとえ小さなことでも、日々のキラリと輝く行為や地道にこつこつとがんばっていることを従業員が相互に引き出して、顕在化させるのである。毎月これらをまとめたものは「エンジェルリポート」として全従業員がいつでも閲覧できるように掲示され、社内で横断的に共有できるようにしている。併せて、スタッフの頑張りに対して会社からの感謝の気持ちを表して、毎月チームと個人の表彰を行うことによりモチベーションを高めている。
 「お客様から感謝されることはなによりですが、会社も1人1人をしっかりと見て、きちんと評価してくれているということで、皆がやりがいを更に実感してもらうようにしています。やればやるだけ、工夫をしたらしただけ、それは常に誰かが見ていて、ちゃんと認められるということを分かったうえで、日々の業務に取り組んでもらうのです。」

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 全員が整列して礼をする礼儀正しさに、
東京駅の利用者も目を見張る。

段取り、作業内容の確認は念入りに、
コミュニケーションは活発に行われている。

 

お客様の期待値を越えたところ

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「1分1秒単位で運行される列車の清掃を行っています。」(中田さん)

 TESSEIはホーム、通路、構内のトイレなど駅施設の清掃も行っている。行先を迷っている方や荷物が多いお年寄りなどを見かけたら、清掃員は担当部署に関わらずに誰でも積極的に声を掛けて手伝ってあげ、東京駅の利用者が気持ち良く過ごせ、円滑に旅行ができるようにと心を配っている。
 「お客様が『ありがとう』と声を掛けてくれたり、一列に並んで礼をすると拍手をしてくれる、『すばらしい』と言ってくれる。こういうことで皆のモチベーションが上がるし、それが継続できることがなによりだと思います。お客様からの反応があってはじめて、『やっててよかった』と心から実感できます。」
 チームのリーダーなどの指導者をまとめて取り仕切るTESSEI東京サービスセンター中田清正次長にお話を伺った。
 「私たちは決して単なる清掃のおじちゃんおばちゃんではなく、皆が『おもてなし創造会社』を目指しています。掃除が早くて車内が快適であることは、お金を払って乗ってくるお客様にとっては当たり前のことです。『私たちはお客様の期待値を超えたところのことをやっている』と全員に認識してもらうようにしています。現場からの発案で、私たちが夏にアロハシャツで業務を行ったり、帽子に桜やハイビスカスを挟んだりという演出もしています。」
 必ず1日に1回は、チームごとにミーティングの場が持たれる。どんなに些細なことでも徹底的に議論され、日々の課題への解決策をメンバー自身が考え、まとめあげるようにさせている。彼らの自主性を尊重し、チームの裁量を大きくして、チームが決めた方針を実行できるように、会社は彼らの提案がどのようなものであっても好意的に受け止め、あらゆる支援を行っている。

 

安定しているからこそ変革を

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「二流、三流の戦略でもいい!
一流の実行力を持とう!」(矢部さん)

 TESSEIの皆さんが現在生き生きと活躍しているのは、8年前に取締役経営企画部長として矢部輝夫さん(現在はおもてなし創造部長)が、着任以来さまざまな取り組みを行ってきてからのことである。矢部さんに当時の様子や従来の業務を一新させた取り組みを尋ねた。
 「以前は、仕事はJR東日本から自動的に回ってきて、収入は非常に安定して、その上にあぐらをかいた姿勢で取り組まれていました。そうした中で収益を出そうとして、清掃員のパート化をどんどん進めていったのですが、そうしたら、けがは多い、事故が多い、クレームが多い、列車を遅らせるという事態を招いて、極めて評判が悪かったのです。そういう環境で働いている人が悲惨でした。コストダウンするとともに、従業員の定着率も落ち、お客様からの信用・信頼が失墜していったのが明らかでした。そこで、どちらを取るかといったら、信用・信頼を取ることが当然でした。安定している企業だからこそ、活性化させ、新しいことに取り組まなければならないのです。」
 収益を向上させる目的での取り組みは世の中にたくさんあるが、TESSEIはそうではない方向へ大きく舵を切ったのであった。

 

さわやか あんしん あったか

 6年前にTESSEIの存在価値について全社的に再定義が行われ、「清掃業」ではなく「サービス業」として利用者の満足度を向上させることに力を注ぐ方針を採用したが、実はこれだけでは不十分であった。従事する人々の充実感を向上させることも大事であることに気付いたのであった。従業員がサービスを提供して利用者に喜んでもらうという、他社でも試みられる一方通行的な流れを作るのではなく、利用者の喜びと従業員のやりがいは常に一緒の空間で相互に作用しているものとして見て、現場を中心に置いて何をするべきかを考えるように変えていった。

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「清掃中」という紋切り型の表示は、現場からのアイディアで
「ご乗車準備中」に置き換えられた。

グランクラス(ファーストクラス)の担当者は特別なユニフォームを着用

 「TESSEIの商品は何か――以前は『清掃』だと思っていました。でも、お客様は清掃を買いにきているのではないのです。お客様と私たちがシーンを共有するステージである『新幹線劇場』で、『さわやか あんしん あったか』を絶対の理念として、「思い出」をお土産に持ち帰りいただくようにしました。」

 

思いやりの心から人づくり

 従業員の自主性を尊重して彼らからの提案を実現させる力を会社として高めてきた一方で、「早くて 正確で 完璧な 車内整備」を絶対に変えてはならないTESSEIの最大の使命として貫徹している。最高のおもてなしは、「笑顔を作る」ことなどに走ってしまうことではなくて、利用者に「さわやか空間」を満喫してもらい、「あんしん」してご利用いただくことに尽きるのである。温かい心を持つことと同時に、清掃の業務を徹底して遂行する厳しさも要求されている。課題とその改善策を最もよく知っている現場のスッタフからのボトムアップを生かしつつ、明確なトップダウンの規律も隅々までに行き渡っている。

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整理整頓された清掃用具を見ても、
仕事に対して細心の丁寧さが
込められていることが分かる。

業務に対する使命感が、
ほこり1つないまでに手入れされた
用具にも表れている。

 「従業員教育において大切なのは、仕事の中に喜び、楽しさ、誇りを持ち続ける人づくりを行い、こういう人でTESSEIをいっぱいにすることです。従業員がこつこつと一生懸命やってくれていることを会社もきちんと見ることによって、我々も今のような形として作り上げることができてきました。
 おもてなしができるのは、まごころと思いやりがあってこそで、これはお客様に対してだけでなく、チームの仲間に対しても必要なことなのです。加えて『大事にしなさい』と言っているのが、自分への思いやりです。特にこういう厳しい掃除の仕事なので、自己犠牲しても長続きはしません。」 

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  新幹線の魅力は、流れるフォルムの美しさや車両性能が優れていることだけではない。極めて正確で安全な運行が維持されていることも高い評価を得ているが、それはきちっと仕事をこなす多くの人々の働きに支えられているからである。清掃を担う彼らは、利用者に快適な旅をしてもらうことを常に心に抱きながら働いており、1人1人の業務に対するひたむきな姿勢からは、きめ細かい日本のサービスの心持ちが利用者にも伝わってくるのである。 

写真:君和田富美夫

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