知床の世界自然遺産は人々の心を魅了する(パート1)

2019-06-28

 

知床の世界自然遺産は人々の心を魅了する(パート1)

印刷用PDF pdficon_large

 
 
 
今回訪れたのは日本の最東北端、北海道北東部に位置する知床半島。知床という語源は先住民族のアイヌ語の「シリ」(陸地・大地)と「エトク」(先端・前)を合わせた「シリエトク」に由来し、「大地の突端/大地の果て」を表す言葉。知床半島はオホーツク海に面し長さ約70㎞、幅約25㎞の細長い形をしており冬は流氷で覆われる。知床には872種類の植物、333種類の動物と鳥、303種類の魚が生息している。そこでは食物連鎖がおき、森、海、川が一体となり独自の生態系が築かれている。その生物の多様性が評価されたことで、2005年にUNESCO世界自然遺産に登録された。人々に感動を与える知床の魅力を紹介する。

雄大な知床連山と一湖

 
最初に立ち寄りたい「知床自然センター」​​
 女満別(めまんべつ)空港からレンタカーで約2時間広大な大地を快適にドライブした後、最初に訪れたのは知床の魅力を案内している「知床自然センター」。館内のインフォメーションカウンターでは大自然知床の情報を入手することができる。レクチャーコーナーではスタッフが熊に遭遇した時の心構えや散策の楽しみ方等をレクチャーしてくれる。大型映像ホールでは高さ12 m、幅20 mのメガスクリーンで「四季・知床」など知床の魅力を上映している。またレンタルコーナーがあり、双眼鏡や長靴、そしてクマ撃退スプレー等を貸し出している。
 そんな知床自然センターで知床の魅力をお話してくれたのは、知床の大自然に魅了され東京から移住して約11年間旅行者のお世話をしている公益財団法人知床財団の新藤薫さんだ。

公益財団法人知床財団の新藤薫さん

 「知床半島は、2005年に世界自然遺産に登録されましたが、登録対象は陸地だけでなく沖合3㎞の海域を含み、面積は、緩衝(かんしょう)地帯を含め71,100 haあります。海洋を含む登録は国内では初めてでした。そんなに広くないこのエリアに、海にはシャチやアザラシ、トドにマッコウクジラ、森にはエゾシカ、キタキツネ、ヒグマに絶滅危惧種のシマフクロウやオジロワシなど数百種の生き物が生息しています。流氷が運んで来た栄養豊かなプランクトンを海で食べたサケやマスが秋に川を遡上(そじょう)し、それをヒグマが捕まえ餌にしています。ヒグマの食べ残しや糞が広葉樹や針葉樹など植物の養分になります。この狭い範囲にこんなにたくさんの大型獣が生息しているのは世界でも珍しいのです」と、新藤さんが知床における食物連鎖と多種多様な生き物が生息している話をしてくれた。

インフォメーションカウンター レンタルコーナーにある長靴

 「知床五湖ガイドツアー」に参加する記者は、新藤さんに散策の楽しみ方や気をつけることなどを聞いてみた。「この時期(5月下旬)ですと、森ではミズバショウが咲いています。野鳥がたくさんいるのでバードウォチングもお勧めですね。先日、英国から来られたシニアの夫婦に来訪理由を尋ねたところ、バードウォチングを楽しみに来たと仰っていました。また秋になると紅葉を目当てにいらっしゃる方も少なくありません」
 5月に入るとヒグマの恋の季節に入りますが、ツアー中ヒグマに遭遇することもあるのでしょうか? 「この狭い知床半島に約300頭ものヒグマが生息していると言われています。なので、ヒグマと遭遇することも十分考えられます」
 もし出会ってしまったら? 「走って逃げたりしないことです。ヒグマは背を向けて走るものを追う習性あります。ヒグマが走る速さは時速50から60㎞なので、追いかけられた場合は逃げきれるとは思わない方がよいです。打つべき手段は、熊を見ながらゆっくり後退し、そこから離れることです」

知床五湖のヒグマ(写真提供:松本新(まつもとあらた))

 「そして肝心なのは、ヒグマに出会わないようにすることです。そのために、手を叩いたり、声を出したり音を出して人間がここにいることをヒグマに知らせることです」「ツアーには知床の森を知り尽くしたプロのガイドが同行しますので、緊急時にはそのガイドの指示に従って冷静に行動をしてください」
 「ヒグマ対策用に高架木道が整備されていますので、心配ならそちらだけを歩くという手もあります」「空気の澄んだ深い緑の森の中では小動物との出合いや小鳥のさえずりを聞くことができます。明日は知床の魅力を五感で感じてください」
 海外も含め数多くの世界自然遺産を訪れた新藤さんが知床を惚れ込み移住した理由が、訪れる知床五湖で分かることになる。

 
五感を呼び起こす知床五湖の大自然​​
 朝、天気であることを確認し電話をかけたのは、公益財団法人知床財団が管理する「知床五湖フィールドハウス」。知床五湖ガイドツアーに参加するためだ。ヒグマの活動期にあたる5月は5湖全てを回る一周約3時間の「大ループツアー」と2つの湖を回る一周約1時間30分の「小ループツアー」の2つのコースが設定されている。両ツアーにはヒグマ遭遇時の対処法を習得しているガイドが同行し知床五湖の魅力を解説してくれる。記者が予約をして参加したのは、11:00スタートの「小ループツアー」。料金は大人2,500円。ガイドツアー受付で手続きを終えると知床国立公園利用調整地区内への「立入認定書」が発行される。

知床五湖フィールドハウス 総合案内所・ガイドツアー受付カウンター

 このツアーでガイドを務めてくれたのは、ガイド歴7年で株式会社知床ネイチャーオフィスの自然解説員柴田春馬(しばたはるま)さん。参加者は、記者の他にアクティブシニアのご夫妻3組でこれから始まるツアーに皆ワクワクしていた。

ガイドの柴田春馬さん アクティブシニアの参加者

 フィールドハウス内のレクチャールームで、ヒグマに遭遇した時の対処方法や水とお茶以外をコース内へ持ち込んではいけない等の簡単な説明を聞いた後、外に出ると目の前に「知床五湖地上遊歩道入口」の看板が現れる。「皆さんここから遊歩道に入って行きますが、このタイミングでヒグマが出没し、他のグループで遭遇がありツアーが中止と判断されると、この先進むことはできないのでここで終了となります。運が悪いとこういうことも起こり得ます」と柴田ガイドの話から、ヒグマとの遭遇もあるかもしれないと思いながら歩き始めた。

知床五湖地上遊歩道入口 知床五湖に向かう地上遊歩道

 「ヒグマの視覚はあまりよくないので、その分聴覚と臭覚が優れています。臭覚は犬よりも8倍位優れていると言われています。甘い物が大好きなので、飴やジュースなどをコース内に持ち込むのはとても危険です。匂いで寄ってくる場合もありますが、持ち込んだ飴等を落としてヒグマがそれを食べてしまうのを防ぐためもにも、甘みのついた飲食物は持ち込み禁止にしているのです」
 記者はヒグマが鮭やシカを食べるイメージから肉食だと思っていたが、柴田ガイドの説明からそれは誤りであったことを知る。「知床のヒグマが食べる物は、春はミズバショウやエゾシカ、夏はセミの幼虫やザリガニ、アリ等の昆虫、秋は山ブドウやドングリ、サケやマス等を食べますが、食べ物の約80%は植物です。冬は冬眠するので基本食べません。動物性よりも植物性のものを多く食べている雑食性なんです」
 木々が生い茂る知床の森には、またさまざまな昆虫も生息している。幼虫時期ヒグマに食べられることなく成長したセミが我々を歓迎するかのように飛んで来て柴田ガイドの胸元に止るなど微笑ましい光景も見られた。森をさらに奥へ進むと知床連山を背景に幻想的な二湖が姿を見せた。許されるのであればここにロッキングチェアを置いて座り何時間でも眺めていたいと思った。

ヒグマの好物ミズバショウ(写真提供:松本新) 柴田ガイドの胸元に飛んできたセミ


幻想的な二湖

 
​​森を抜けるとそこに絶景が​​
 森を抜けて目に飛び込んで来たのは、雄大な知床連山とその山々を投影している一湖の美しさだ。
 「一湖は周囲600 mで、最大水深は約3 mです。一湖周辺は1965年頃まで放牧地として利用されていました。皆さんはとてもラッキーです。今日は風がほとんど吹いていないので、こんなに綺麗に湖面に知床連山が映っています。ここが一番のビュースポットです」と言いながら参加していたご夫妻の写真を撮る柴田ガイド。

一湖から知床連山を望む

 「右側に見えるのがオホーツク海です。海から知床半島を眺めたい人には、ウトロ港から日本の最北東端の知床岬まで行く観光船がありますのでぜひ乗ってみてください。ヒグマがたくさん生息している特別保護地域付近ではヒグマを見ることができます。日によっては主に羅臼(らうす)側でシャチの群れに遭遇することもあります。また1月下旬頃から3月上旬にかけてロシアのアムール川の河口付近の水が凍り流氷となりとなりオホーツク海沿岸に到着します。ドライスーツを着用してガイドの案内で流氷の上を歩く「流氷体験ツアー」もあります。最近は特に台湾人などの外国人に人気があります」

高架木道よりオホーツク海を望む 知床遊覧船

​​​ 「知床は春夏秋冬、それぞれ違った景色が見られ、違った体験ができます。オールシーズン楽しめる世界自然遺産知床にまたお越しください。今日はみなさま、知床五湖森のガイドツアーにご参加いただきありがとうございました」柴田ガイドのお別れの言葉を持って、約1時間30分のツアーはアッという間に終わってしまった。

無料で自由に散策できる高架木道

 
 この「知床五湖ガイドツアー」がこんなに素晴らしいとは思わなかった。今度来た時は、5湖全てを回る一周約3時間の「大ループツアー」に参加することは言うまでもない。
 
 
取材協力
 
「知床自然センター」
http://center.shiretoko.or.jp/
 
「知床ネイチャーオフィス」
http://www.sno.co.jp/
 

ページの先頭へ▲

 

EnglishVersion

 

 

Copyright © 2019 IHCSA. All Rights Reserved.