日本茶の世界 ~東京に最も近いお茶の名産地を訪ねて~

2018-06-25

 

日本茶の世界
~東京に最も近いお茶の名産地を訪ねて~

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展望台から見た入間市の茶畑


2018年5月11日、緑茶が最も美味しいといわれる一番茶収穫の時期に、東京から最も近いお茶の名産地である狭山茶生産地を訪ねた。埼玉県西部の入間市、狭山市、所沢市を中心とする狭山丘陵周辺の狭山茶生産地は、都心から電車で1時間ほどの距離にあり、温暖多雨の気候を好む茶の木にとって、大量に生産できる経済的産地の北限といわれている。まず地域で最も栽培面積の広い入間市を訪ね、埼玉県茶業研究所および入間市博物館の協力を得て、日本茶とは何か、またその日本茶の世界で狭山茶はどのような特徴があるのかを学んだ。更に一年で最も忙しい時期にもかかわらず、狭山市の生産農家の方に、一番茶の生産現場を実際に見学させていただいた。

黄緑色に輝く新茶畑

 埼玉県農林部の担当者に最初に案内していただいたのは、入間市の茶畑を一望できる桜山展望台だった。見下ろす と、手前の住宅地と奥の狭山丘陵に挟まれた部分に、目にも爽やかな黄緑色の茶畑が広がっていた。南北1キロ東西4キロと、決して広大とは言えないが、それ故に大規模生産地とは違う特徴や工夫があると聞いて、この日1日の取材がますます楽しみになった。

 埼玉県茶業研究所へ向かう途中、偶然茶葉の摘採作業に遭遇した。20年ほど前に導入されて以来、収穫作業が格段に楽になったという乗用小型摘採機が、驚くほどスピーディーに一番茶を収穫していた。茶樹を跨ぐようにして、表面の新しい葉を摘んでいく。茶葉は摘んだ瞬間から酸化するので時間との勝負だ。摘採機が茶畑の1列分を収穫すると、袋が茶葉で一杯になる。それを直ぐにトラックに積み、荷台が一杯になると間髪入れずに茶工場へ運んで行った。

日本茶の審査を体験

 埼玉県茶業研究所を訪ねて日本茶(*煎茶)の模擬審査を体験させていただいた。審査には見た目の良さを審査する「外観審査」と、熱湯を使って出る茶の質(香り、色、味)を審査する「内質審査」がある。
 *煎茶とは、自然光下で栽培し、摘採した茶葉を蒸して揉んだ一般的な緑茶
 外観審査では、評価の基準として、葉の色とつや、そして形状と摘採の良し悪しを見るという。下の写真では左は緑色が良く、細かくよれているがやや葉が潰れている。中央は色が抜けた感じで笹色だが、葉はよくよれている。右はやや黒みがかっていて、葉が扁平(へんぺい)で茎が目立つという評価になり、順位を決めるなら左が一番良く、後は並んだ順に評価が低いことになる。素人にはなかなか違いが分り難い。

 
 次に内質審査だが、香りの審査は茶碗に茶を入れてそのまま熱湯をかけ、柄の付いた平たく小さな網のような道具で、茶わんの中の茶殻をすくって直接香りを嗅ぐ。清涼感を感じる香りもあれば、素人でも感じる個性的で強い香りもあった。個性的な香りは好き嫌いはともかく、通常の審査では評価が低くなるという。
 続いて水色・滋味審査(水の色と味の審査)を行った。色の審査では、茶こしで茶を淹れ水の色を審査するが、どの色が良いかは説明されても正直言って分り難かった。味の審査は比較的分り易く、これが美味しいと私が選んだ茶は、プロも同じ意見だった。体験してみて感じたのは、視覚的審査より、嗅覚や味覚の審査の方が素人でも分かり易いこと。上のような審査で香りが強烈で、色の評価が低いものでも、味わうと意外に美味しく感じるものもあった。

 「やぶきた」という全国の日本茶栽培面積の約70%を占める優秀品種がある。茶の木は種から育てるのではなく、挿し木をしているため、日本茶の多くは優秀なやぶきた茶のクローンであり、そのため品質も木の大きさや生育の仕方も、ある程度同質性を保っている。
 煎茶の審査は、「やぶきた」を基準にしており、際立ったものを選ぶより、欠点を探して減点法で評価していくようにできているらしい。そのためどうしてもやぶきた茶的な(総合的な)優等生が上位を占めることが多いという。ただし、近年は個性のある品種を評価しようという動きもあるようだ。

 
 

入間市博物館でお茶を学ぶ

 入間市博物館はお茶をテーマとするユニークな博物館だ。「これだけは知っておきたい!」という茶の基本情報を教えていただいたので、以下に紹介する。
 茶はツバキ科カメリア属の植物で、元々亜熱帯の照葉樹林帯原産のため、寒さに弱いと同時に乾燥にも弱い。温暖で雨量が多く水はけが良い場所を好むといわれ、狭山茶生産地は大量に生産できる経済的産地の北限である。
 狭山茶は入間市、狭山市、所沢市およびその周辺地域で生産されているが、この地域は多摩川が上流から運んできた砂や石ころによって作られた扇状地の上に、富士山などから飛んできた火山灰層が積もってできた武蔵野台地である。雨量が比較的に多く、水はけが良い武蔵野台地は茶の生育に適している。
 世界で飲まれている茶の代表的なものは3種類ある。葉を摘み取って直ぐに加熱し、酸化酵素の働きを止めて発酵させずに作るのが緑茶、完全に発酵させるのが紅茶、その中間で半分発酵させるのがウーロン茶などだ。茶には抗酸化作用、抗ウイルス作用、抗がん作用があるカテキンが含まれ、特に加熱によってカテキンの酸化を止めて作る緑茶には多い。また緑茶はビタミンCを含む。このように緑茶は健康増進効果があるといえる。
 歴史的に見ると、茶は3回にわたって中国から違った飲み方が伝えられている。古くは西暦800年頃唐の時代(日本は平安時代)に、釜で煮だして飲む「煎じ茶」が遣唐使によって紹介され、その後13世紀頃宋の時代(鎌倉時代)に抹茶を点(た)てて飲む「点茶(てんちゃ)」が禅宗の僧などによって伝えられ、最後に17世紀頃明の時代(江戸時代)に、急須で淹れる「淹茶(えんちゃ)」がやはり禅宗の僧によってもたらされた。中国では無くなった飲み方もあるが、日本には全ての飲みかたが受け継がれて残っている点がユニークである。
 入間市博物館では狭山茶の歴史だけでなく、日本茶全体の歴史や世界の茶の歴史に関する展示を見ることができる。また国内に残された変わった喫茶の習慣に関する展示や、安土桃山時代に活躍した茶人千利休が、大坂城内に作った茶室のレプリカも貴重な資料である。

 

狭山茶生産者を訪問

 狭山茶の栽培・製造・販売を狭山市で行う茶園「奥富園」の奥富雅浩(おくとみ まさひろ)氏を訪問し、茶製造の工程を見せていただいた。

①まず茶畑で摘み取られた茶葉をコンテナから蒸機(むしき)へ送るコンベアーに載せる。

 
 
 
 
 
 
 
 
②茶葉は蒸機へ自動制御で適量ずつ送り込まれる。蒸機で蒸すことにより、酸化酵素の働きが止まり、葉の緑色を保つことができる。(熱することなく放置すると、葉は茶色く変色する。)

 
 
 
 
 
 
 
 
③蒸しの工程が終わった湿った葉は、粗揉機(そじゅうき)へ送られる。箱型の粗揉機内では、丸みを帯びて軽く開いた金属製の手のようなもので、葉を揉みながら水分を出し、熱風を当てて少しずつ乾燥させる。
粗揉機の工程が終わっても葉はまだ相当湿っている。


 
 
 
 
 
 
 
 
④次の工程では、揉捻機(じゅうねんき)を使って葉をさらに揉み込む。揉み込むことにより、葉と茎の中の水分を均一にしていく。ここでは乾燥は行わない。


 
 
 
 
 
 
 
さらに葉を揉みながら乾かす工程を挟んで、最終的に⑤精揉機(せいじゅうき)にかける。精揉機では加熱された盤上で、茶葉を往復運動させながら、揉み込み乾燥させ、形も細くよれた荒茶に仕上げる。
荒茶はそのまま貯蔵され、販売する分のみ「火入れ」という乾燥工程を施して店頭に並ぶことになる。

 

 

 

 

 

 

「茶園の数だけ違いがある」生産者にインタビュー

 茶工場の中を忙しそうに走り回る奥富さんに、申し訳ないと思いながらも声をかけた。「2つだけ質問よろしいですか?」奥富さんは立ち止まって、にこやかに答えてくれた。

 1つ目の質問は、生産者から見た狭山茶の魅力についてだった。
 「狭山の茶園の特徴は、自園で茶を育て、自分の工場で茶を作り、自ら販売もしているところです。全国的には分業が普通だと思いますが、自園で全て行うことは茶園ごとの特徴を出せることにつながります。これが狭山茶は茶園の数だけ味に違いがあると言われる理由です。また狭山は茶作りの北限で、鹿児島であれば年に 4~5 回収穫できるところを二番茶までしか採りません。茶樹へのダメージを考え、翌年の春への準備をするためです。さらに寒い地域の茶なので葉肉が厚くなり、その分、味が濃厚です。また葉肉が厚いため、『狭山火入れ(びいれ)』といわれる強い火力で乾燥させる仕上工程が可能で、時間がたっても風味が落ちず、味わい深い、良い香りのお茶に仕上がります。」

 2つ目は、狭山茶生産者としての今後の展望と抱負をお聞きした。
 「先ほど言った『自園、自製、自販』は昔からの狭山茶の特徴です。それを日本農業遺産として登録したいと思っています。また、小さい園が多いため、これまでは海外輸出はほとんどしていませんでしたが、今後は輸出にも力を入れたいですね。今年フランスで日本文化紹介のイベント『ジャポニスム2018』がありますが、私達も参加して狭山茶を紹介してきます。ぜひ輸出につなげたいですね。

 

 日本茶の普及活動を行う日本茶インストラクター協会が毎年開催する「日本茶AWARD」という茶の品評会がある。若者や海外への日本茶の普及も視野に入れた品評会であり、審査の方法も、従来の熱湯を注ぎ欠点を出させて減点する審査と違い、消費者が美味しいお茶を楽しむ淹れ方と同じ方法で審査をしているという。これまでの審査方法も、どんな状況でも均質的に平均点の高い茶を作り出していく、という点では正しい方法だと思われる。ただ日本茶の新しいファンやマーケットを開拓していくという観点からは、ワインや日本酒のように、それぞれの地域や生産者、茶の品種によって違いを楽しめる発想も大事だろう。
 今回の取材中に「シングルオリジン」という言葉を何度か耳にした。平均的に無難で美味しい茶ではなく、その土地のその茶園のその生産者でなければ出せない味、個性のあるお茶、ということだろうか。元々茶園の数だけ味に違いがある、と言われている狭山茶だからこそ、そのトレンドを引っ張って行ける。そんな予感のする取材だった。

 

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≪取材協力≫
埼玉県農林部 生産振興課
〒330-9301 埼玉県さいたま市浦和区高砂3-15-1
TEL:048-830-4146

埼玉県茶業研究所
〒358-0042 埼玉県入間市上谷ケ貫244-2
TEL:04-2936-1351

入間市博物館
〒358-0015 埼玉県入間市二本木100
TEL:04-2934-7711

奥富園
〒350-1314 埼玉県狭山市加佐志36
TEL:04-2959-4789

 

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