日本文化の継承:茶道文化の入り口 ~「茶論」の体験稽古~

日本文化の継承:茶道文化の入り口
 ~「茶論」の体験稽古~

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 茶道教室というと、どのようなイメージをお持ちだろうか? 難しそう、正座がつらそう、やってみたいけれどどこへ行けばいいかわからないなど、かつては紹介制が基本だったこともあり、初心者が飛び込むには敷居が高い。忙しい現代では、週に1回決まった時間に習いに行くというだけでも難しいかもしれない。「茶論(さろん)」では、気軽でありながら本格的な道具を用いて茶道文化を学ぶことができる。駅近くの商業施設内にあり、通勤やお買い物がてら、ウェブで予約して自分のペースで通うことができる。日本橋髙島屋S.C.の中にある「茶論 日本橋店」店長・綿貫 望(わたぬき のぞみ)さんにお話を伺った。

 1716年に奈良で創業し、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンとする中川政七商店グループから生まれた「茶論」は、敷居の高いイメージもある茶道文化の入り口を広げ、本来のお茶の楽しみ方を現代に提唱するブランドだ。現在は、東京、大阪、横浜、奈良の4店舗を展開している。

伝統的なイメージを覆す斬新なシステム

 全くの初心者の方でも気軽に始めようと思えるのは、システムがわかりやすく、ウェブで予約をして自分のペースで続けることができる点だ。これまでは茶道を始めるには、どこへ行けばよいのか、流派でお作法や指導内容にどういう違いがあるのか、初心者にとってはわかりにくいことも多く、敷居が高く感じがちだ。茶論では堅苦しさはなく、おもてなしの「心」や、礼儀作法・お点前などの「型」、歴史やルールという「知」をバランスよく学びながら、お茶を愉しみとして、日常として、学んでいくことができる。また、店舗での稽古と並行してオンラインで映像を繰り返し見ることで、予習、復習ができるなど、現代のテクノロジーを上手に取り入れている。「色々な日本文化をつなげてくれる豊かなお茶文化ですが、今、茶道人口は減少の一途をたどっていて、もったいないと思い、今の時代に即したというのがあったらいいのではないかということで生まれました。」と綿貫さんは語る。

「体験稽古」

 店舗の奥にある暖簾(のれん)のかかったエリアが稽古場だ。最初に驚いたのが、畳ではなくテーブルと椅子席だということ。「茶道文化の入り口、茶道の世界に入るきっかけとして自然と楽しめるようにご提案しています。それがテーブルと椅子の環境です。普段は洋服で、洋室で過ごすことが多いと思いますが、そういったライフスタイルの中で気軽に茶道を始められる、新しい楽しみ方というのをご提案しています」
 広いテーブルがある稽古場は落ち着いた雰囲気で、掛け軸や茶花(ちゃばな)、設(しつら)えも季節によって変わるということだ。「茶道というのは、お茶の味を楽しんでいただくためだけのものではなく、この設えなども含めた、場の空気を含めたおもてなしが茶道の文化です」

 体験稽古は講師によるお茶のおもてなしの体験、茶道のなりたちを学ぶ講義の90分間だ。まずは、気持ちを落ち着かせるためにおもてなしされるのが、シソを浮かべた「香煎(こうせん)」というお白湯(さゆ)。お茶会の時も本席に入る前にお客様どうしで、まずのどを潤していただくためにお出しするそうだ。

香煎と主菓子(おもがし)

講師によるおもてなし

 まずは、講師のお点前を拝見するデモンストレーションから。点前道具の揃(そろ)った茶箱がテーブルに置かれ、無駄がない一連の美しい所作でお茶を点(た)てていただく。

 講師によるお点前は、奈良から取り寄せている「樫舎(かしや)」の季節の和菓子と共にいただく。お菓子は月に2回変わり、設えと同様、お菓子からも季節感を感じる。実際のお稽古でも、毎月変わる四季折々のお茶・お菓子・設えを愉しむことができる。本日のお茶碗は黒で、抹茶の緑が映えてとても美しい。体験稽古の一服目では、純粋にお茶を五感で楽しむ。

茶道について学ぶ

 お点前を楽しんだ後はスライドを用いた座学。どうしてこういった独特の文化が育っていったのかを、日本におけるお茶の歴史の流れ、文化的な側面なども含めて学ぶ。初心者の方でもわかりやすい内容だ。「わび」の考え方、室町時代に様々な日本文化が互いに影響しながら発展していったこと、千利休の生涯と茶の湯の確立など、体験稽古だけでもこれまで知っていた名前、言葉や、茶道にまつわるいろんな知識が一本につながり、現在の茶道のイメージが、歴史の中でどのように確立されて来たのかを理解することができた。

実践

干菓子。こちらも「樫舎」謹製

 座学の後、「茶筅(ちゃせん)」の扱い方や持ち方、お茶の量、お湯の温度や量について教わり、実際にお茶を点てる。お茶碗の押さえ方、姿勢、茶筅の振り方などのアドバイスをいただけるため、わかりやすい。流派による違いなどについても触れることで、茶道全体についての知識も増える。自分で点てたお茶は干菓子と一緒にいただいた。一服目は純粋にお茶を楽しんだが、二服目は飲み方のお作法も教えていただき、またその意味についても説明していただいた。自身で点てたお茶をいただいて、体験稽古は終了。

 茶論には、お稽古をする場だけでなく、和菓子とお茶をいただく「喫茶」、オリジナルの茶道具を扱う「見世(物販)」も併設されている。喫茶では、スタッフが点てたお茶や甘味を愉しむこともできるが、簡単な茶道体験もできる。「見世」で扱われているお道具なども本格的でありながら、シンプルで、現代の私たちの生活にぴったりのものが見つかる。家にお茶室がなくても、身近に日常の中でお茶を楽しむ生活を実現することができる。

 茶論の「稽古」は、初めての方向けの体験稽古(90分)と、その後継続的に学びたい方向けに、初級・中級・上級コース(各コース全6回/1回60分)があり、稽古の始まる当日2時間前まで予約ができる。チケット制でウェブから受講予約をして通える茶道教室は、現代に合った形なのかもしれない。

本日の講師、日本橋店 店長の綿貫さんに伺った

Q 他の茶道教室にはないユニークな点はどこでしょうか?
A テーブルと椅子という環境が違うこと、師匠ではなく講師(インストラクター)が一緒に楽しみを伝えるという点、そしてお茶を学びとして体系化しているという点です。稽古の内容は、店舗での実践の前に動画を視聴して知識を学べるという二部構成になっていて、普通のお教室だと写真を取ったり、メモを取ったりもできませんが、知識の定着のために動画を見ていただいたり、稽古内では自由にメモを取ったり、設えなども写真を撮っていただいたりしています。毎月のお菓子の写真を撮るのを楽しみにしていらっしゃる方もいます。

Q そもそも、初心者の方もはじめやすいシステムにしたいと思ったのはなぜですか?
A もっと今の人たちにお茶の面白さに触れてほしいというところがあって、流派という枠からも離れて型を身につけて、なぜこういう歴史なんだろうかともっと楽しんで、気軽に学んでいけるものを作りたいなというところから入りました。

Q 外国の方で習いにいらっしゃっている方はいらっしゃいますか?
A 英語での対応ができないので、完全な外国語でのコースというのはないのですが、留学や日本でお仕事をされている方はいらっしゃっています。

Q 今後、英語でのご対応も考えていらっしゃいますか?
A コース自体の対応はなかなか難しいのですが、「喫茶」のスペースでお茶を一服召し上がるのは英語対応できるスタッフもおり、インバウンドのお客様が戻ってくる頃にはぜひ対応していきたいと思っております。

Q 特にこちらのお稽古で大切になさっていることは?
A 「茶論」というブランド名の由来にもなっていますが、茶論のコンセプトが「以茶論美」(茶を以て美を論ず)なので、お茶を通じて自分の価値観、美意識をそれぞれが磨いていくということを大切にしています。おもてなしをしたいという心と、実現する型と、それを彩る知識、それらを身に付けて自分の見る物差し、考える物差し、目線が変わって、それによって日常が豊かに変化していくというのを目指しています。

Q 今後、新しいアイディアを考えていらっしゃいますか?
A コロナ禍で、ご自宅でも茶道の愉しみを配信したいと考え、インスタライブやZoomでのオンライン講座などを通して、様々なコンテンツを配信しています。近くに茶論がないお客様や、出かけられないタイミングの時に利用していただいたり、茶道具や菓子をつくる職人さんの工房とつないだりしているので、今後力を入れていきたいと思います。

Q 茶道というのは、日本文化の中でどのようなものだと思いますか?
A あらゆる日本文化、生活の軸になりうるものだと思います。衣食住それぞれ関わっていて、生活をより豊かにしてくれるものだと思います。日本人の生き方とか暮らし方を指し示してくれるものかな、と思います。

Q 今回のコロナ禍で、特に感じたことはありますか?
A 改めて相手があっての茶の湯ということを実感しました。コロナ禍では、大きな茶会や茶事などのイベントが開催しにくくなりましたが、ご家族とか、ごく親しい仲間内で共有できるものとして、誰と席を共にするかという茶事・茶会の本質、「一味同心」(皆で同じ味をたしなみ、心を同じくする)という本質に立ち返ることができたのかな、という気はしています。あとは、おうちでの自分の時間を充実させるというところもお茶の楽しいところです。おうちでご自分やご家族のために丁寧に点てた一服、それを味わう時間で心が安らぎます。また、成分的にも、覚醒作用のカフェインと、リラックス作用のセロニンが抹茶には多く含まれていて、リラックスできます。海外でもスーパーフードとも言われています。

 お茶を体験しないのはもったいない。日常に取り入れないのはもったいない。「お茶は一生ものなので、いつでもはじめられ、一度止めても再開できます。」と綿貫さん。まずは、茶道文化へ一歩足を踏み入れてみませんか?

《取材協力》
茶論 日本橋店
〒103-6104 東京都中央区日本橋2-5-1
日本橋髙島屋S.C. 新館4階
電話 03-5542-1144
営業時間
【稽古】 10:30~20:00
【見世】 10:30~20:00
※時短営業中となります
※定休日は施設の定休日に準じる
https://salon-tea.jp/shop/

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