「食のワンダーランド」大阪

2014-06-09

「食のワンダーランド」大阪

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 大阪は食の都と言われる。
 英国人フードジャーナリスト マイケル・ブースは、辻調理師専門学校の創設者辻静雄の著書“Japanese Cooking: A Simple Art”を読んで、料理は「シンプルであること」「素材そのものに語らせること」「旬の素材を使うこと」など、現代の西洋料理の潮流が1980年に書かれたこの和食の紹介本の中に生き生きと語られていることを知って驚いた。そのため日本の食に深い興味を持った彼は、家族と共に日本を3ヶ月にわたって縦断する「食べ歩きの旅」をした。その旅の様子を描いた本が「英国一家 日本を食べる」(日本語版:亜紀書房から2013年4月発行)である。
 その本の中でブース氏は、大阪の食について「レストラン批評家として名高いフランス人、フランソワ・シモンは、世界のなかでも大阪は特に好きな食の街だと言っていたし、インタビューを受けたヨーロッパやアメリカのトップシェフたちが、インスピレーションを求めて訪ねる街として大阪の名前を挙げているのを見たこともある」と書いている。
 そして彼自身も、高級なレストランだけでなく、庶民の食であるお好み焼き、串カツなどを食べ歩く様子を本の中で楽しそうに紹介している。ブース氏の本を読んだ記者も、「大阪を食べる」決意を固めた。

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 お好み焼きの起源は安土桃山時代に千利休が茶会で出した茶菓子にまでさかのぼるという。その後主食の代わりとして水に溶いた小麦粉を焼いて何かを挟んで食べる料理は、江戸・明治・大正といろいろな形で存在した。しかし卵やキャベツ、その他の具材などを入れて焼く現代風のお好み焼きが広まるのは、戦後の昭和30年代以降のことだったようだ。
 安くて美味しい大阪B級グルメの代表「大阪風お好み焼き」の名店を訪ねて、その人気の秘密を探してみた。

きじ(本店):北区角田町9-20新梅田食道街1F 2F

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 地下鉄御堂筋線梅田駅の上でJR東海道線の高架下にある新梅田食道街は、1950年に設立された飲食店街だ。創設当初から続く店も残っているためか、昭和の面影を感じさせる雰囲気が懐かしい。この食道街の人気店の中でも、お好み焼きの『きじ』は特に行列ができることで有名だ。

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 1954年創業当時はバーだったというだけに、けっして広い店ではない。実はマスコミで取り上げられるのはあまり歓迎しないそうだ。「(紹介してもらえることは)ありがたいことですが、ドッと押しかけられてもこんなに狭い店なので……」と創業家の1人である店長の木地一平(きじ いっぺい)さんが、照れ笑いをしながらつぶやいた。

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 ネットの口コミ情報で人気が高い「モダン焼き」と「牛スジのお好み焼き」を食べてみた。麺の入ったモダン焼きは、広島のお好み焼きを少し薄くしたように見える。聞いてみると、生地に小麦粉は入れず卵だけを絡めたところが特徴だという。女性1人でも食べられそうなボリュームで、ご飯のおかずにも良さそうだ。

 

 もう1つの牛スジお好み焼きは、ふっくらとしてボリュームがある。山芋やふくらし粉を絶妙な量で生地に混ぜている。焼くところを見ていると、野菜も豊富に混ぜた生地の上にシソの葉を1枚乗せ、その上に青ネギをたっぷり盛り、最後に牛スジを乗せていた。

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 モダン焼きと牛スジ焼きを2人でシェアーすると丁度良い量だ。ソースには秘伝のスパイスが利いていて、ランチでなければビールと一緒に食べたいところだった。

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福太郎(千日前本店):中央区千日前2-3-17

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 もう1軒大阪在住の方に紹介され、口コミサイトの評価も高いお好み焼き・鉄板焼きの『福太郎』に行ってみた。ホームページによると店の自慢は、最上級神戸牛や鹿児島産の上質な豚肉、大阪中央市場の魚介類など良い材料を使っていることと、ベテランの焼き手の手さばきだという。

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 鉄板焼き用のヘラを持ったキャラクターシールにもなっている『福太郎』の社長であり、千日前本店の店長でもある中西保夫さんに会って、その華麗なヘラさばきを見たかったが、残念ながら取材当日はお休みだった。

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 『福太郎』の創業は1996年で老舗という訳ではない。それでも人気がある秘密を電話取材で中西さんに聞いてみた。まず生地作りには昆布出汁を利かせているという。また薄力粉は特にきめの細かいものを使っている。関西風のお好み焼きと違い、生地にキャベツなどの具材を混ぜないで、焼きながら何回も生地をかけて作るので、広島風お好み焼きに近いと言われるそうだ。お好み焼きを焼く鉄板は30ミリと厚く、強火で焼き上げるので、中がふんわりトロっとしている割に表面は香ばしくしっかり焼けている。

 今回食べてみたのは豚ネギ焼、牛スジネギ焼とスペシャル焼きそばパート2だった。ネギ焼のソースは醤油ベースで、これまで自分が食べてきたお好み焼きの常識を覆すものだった。
 外国人のお客さんも多く、英語のメニューを用意しているという。世界的な旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」には外国語の口コミも投稿されており人気のほどが伺える。

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 たこ焼きはお好み焼きのように小麦粉で生地を作り、タコを入れて直径3~5センチの半球形の窪みのある鉄板で球形に焼き上げる。1935年(昭和10年)に、大阪西成区「会津屋」の初代遠藤留吉が始めたといわれている。
 

やまちゃん(本店):阿倍野区阿倍野筋1-2-34

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 2014年3月近鉄大阪阿倍野橋駅(JR及び地下鉄御堂筋線天王寺駅隣)に、日本一の高さ(300メートル)を誇るビル「あべのハルカス」がオープンした。大阪で今最も注目を浴びているこのビルのすぐ近くに、たこ焼きの人気店『やまちゃん 本店』がある。やまちゃんのたこ焼きの特徴は「カリ・トロ」感と言われる。その秘密を本店店長の古志谷慎吾さんに聞いてみた。

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 こだわりの1つは生地を作る時の出汁だという。毎朝4時から鶏ガラをベースに玉ネギ・キャベツ・ニンジン・セロリ・青ネギなどの野菜と、パイナップル・バナナ・リンゴなどのフルーツにカツオを加えて4時間煮込んだスープを作り、それに昆布出汁を加えて出汁を作る。これに小麦粉を加えた生地は、一般の生地よりも緩め(水分が多い)という。
 2つ目のこだわりは特注の分厚い鉄板。緩めの生地を高温で時間をかけて焼くという。鉄板上の窪みの直径は4.5センチと大きく、普通は4~5分で焼くところ15分近くもかけて焼いている。その為表面はカリカリ、中身はトロトロになるという。

 出汁が利いているので、お勧めの食べ方は何もつけないでそのまま。試食ではソースなしの他、ヤングBと呼ばれるマヨネーズ+醤油や、ごま油+塩も食べた。ごま油も香ばしくて美味しかったが、個人的には醤油とマヨネーズの絶妙なコンビネーションが光るヤングBがとても気に入った。古志谷さんによると常連客は皆好みが決まっていて、それぞれいつも同じものを選ぶという。

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 千日前は道頓堀の南東に位置し、演芸場や映画館などがある娯楽街。裏通りは老舗のキャバレーなど古くからの店も残る一方、バブル崩壊後は空き店舗が目立つようになった。しかし、2010年頃より、古臭い雰囲気と安い賃料が魅力となり新しい飲食店が相次いで出店し、「裏難波」と呼ばれる注目のスポットとなっている。

丑寅:中央区難波千日前15-19

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 こちらも地元の方お勧めのお店で、レストラン口コミサイトでも評価が高い。しかし口コミサイトの『丑寅』トップページに何やら但し書きが……「丑寅は長居無用の立呑みです。~わいわいと盛り上がる居酒屋のような使い方は馴染みません。どうぞひとりかふたりでお越しください」とのこと。少々不安を胸に3人で呑みに行った。

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 場所は南海本線のターミナル難波駅近くの路地を入った小規模なビルの1階。広く開け放った入口には、暖簾と透明なビニールシートがかかっていた。雨の月曜日だったが、定員22名の店内はほぼ満杯状態。メニューを見ると日本酒の種類が豊富だ。好みに合った会津の酒を注文した。酒の肴も種類が多く、ツマミ3種盛が500円、ショウガ天が180円など信じられないほど安い。その上全て美味しくて大満足だった。ちなみに我々は丑寅で酒類4杯を飲み、食べ物3種類を食べたが、支払いは合計3,200円ほど。ひとり1,000円で満足できる究極の立ち呑みと言えるだろう。

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 長いカウンターを見渡すと、結構カップルが多い。店長の吉田真子(まこ)さんに聞くと女性だけで来る人もいるらしい。木のカウンターに裸電球の照明、それにビールケースに板を乗せただけのテーブルしかないが、立ち呑みでもどこかセンスが良く小奇麗な店だ。

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 吉田店長に「口コミサイトの但し書き」について聞いてみた。「この店は騒いで呑むところではなく、1日の疲れを癒してもらう場所だと考えています。ですから周りの迷惑を考えない人には帰ってもらうこともあり、5名以上のグループはお断りしています」とのことだった。

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 『だるま』の串カツが昭和4年に大阪新世界の一角で、百野(ももの)ヨシエによって初めて世に送り出されてから85年が経つ。新世界という象徴的な名前が示すように、この地域は20世紀の初頭はパリやニューヨークを真似て、搭や遊園地、劇場、映画館、動物園などが集まる一大エンターテインメントセンターだった。その後敗戦を経て20世紀末には衰退し、時代に取り残されたような治安の悪い地域となった。しかし最近では昭和レトロな街の雰囲気が観光資源となり、通天閣を中心に、この地域が発祥の地である串カツの店などが観光客の人気を集めている。

だるま(通天閣店):浪速区恵美須東 1-6-8

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 この食べ歩き取材をするきっかけになった英国人フードライター マイケル・ブース氏の本に、串カツ『だるま』の話が出てくる。ブース氏は串カツのことを「これも大阪の素晴らしいファストフードで、天婦羅や焼き鳥と同様、日本を代表する料理として世界中に広める価値がある」と絶賛している。また「フェラン・アドリアもつい最近この店に食べに来た」と店の人の話を引用している。フェラン・アドリアとは、世界で最も予約が取れないレストランと言われたスペインの「エル・ブジ」の料理長で、世界最高の料理人の1人と言われている。今年の4月に安倍首相が『だるま』を訪れて串カツ「通天閣セット」を食べたことが話題になったが、フェラン・アドリアが来たことの方がもっと大ニュースと言えるのかもしれない。

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 『だるま』の店先にはいつも順番待ちの行列が続く。「取材は店が始まる前にしてください」と『だるま』通天閣店の川端清昭(かわばた きよあき)店長に指示されて、開店1時間前に伺った。まだシャッターが下りたままの店内で、厨房を覗いてまず目に入ったのは、整然と並べられた具材。何だかそのまま食べても美味しそうな気がするほど綺麗だった。衣についてはピューレ状にした山芋、小麦粉、水の他に多くの秘密のスパイスを特別にブレンドして作る、という情報を得ていたが、川端店長は「ソースと衣は昭和4年からの秘伝で企業秘密です」と笑った。油も牛脂で作ったこだわりの油を使っているのでくどくないのだという。

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 串カツ発祥の店であると同時に「ソース二度付け禁止」ルールもこの店が発祥。周りの人と一緒に使うソース入れの隣には、日・英・中・韓の4カ国語の注意書きが置かれている。
 写真を撮り終って、少し冷めた串カツを食べたが、「サクッ!」「モチッ!」の食感は変わらず、最高に美味しかった。

 

 

 今回の「大阪食べ歩き」取材では、大阪観光局のご協力をいただき、1日半でお好み焼き2軒、たこ焼き1軒、串カツ2軒、立ち呑み2軒を回り(数が合わない?そう串カツ1軒と立ち呑み1軒は取材と関係なく勢いで追加体験)、すっかり食べ疲れた。「もう粉ものは当分いいです」と言いながら、次回はどこに行こうと既に考え中。
 この記事を読んでいる皆さんにもぜひ「大阪食べ歩き体験」をお勧めしたい。

 

取材協力:大阪観光局(公益財団法人 大阪観光コンベンション協会)
参考書籍:『英国一家日本を食べる』(マイケル・ブース著、寺西のぶ子訳、亜紀書房発行)

 

≪取材店舗のホームページあるいは口コミサイトのURL≫

■ お好み焼き『きじ』

 ● 食べログ:http://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27000297/

 ● トリップアドバイザー:http://www.tripadvisor.jp/Restaurant_Review-g298566-d1700918-Reviews-Kiji-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

■ お好み焼き『福太郎』

 ● ホームページ:http://2951.jp/

 ● トリップアドバイザー:http://www.tripadvisor.jp/Restaurant_Review-g298566-d3610195-Reviews-Fukutaro-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

■ たこ焼き『やまちゃん』

 ● ホームページ:http://takoyaki-yamachan.net/shop/honten/

 ● 食べログ:http://tabelog.com/osaka/A2702/A270203/27002750/

■ 立ち呑み『丑寅』

 ● 食べログ:http://tabelog.com/osaka/A2702/A270202/27017138/

 ● トリップアドバイザー:http://www.tripadvisor.jp/Restaurant_Review-g298566-d6591796-Reviews-Ushitora-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

■ 串カツ『だるま』

 ● ホームページ:http://www.kushikatu-daruma.com/tenpo_tsutenkaku.html

 ● トリップアドバイザー:http://www.tripadvisor.jp/ShowUserReviews-g298566-d1681413-r178704787-Gansokushikatsu_Daruma_Tsutenkaku-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

 

 

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