おいしさの魅力を創造する――那須高原

2014-08-01

おいしさの魅力を創造する――那須高原

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首都圏近郊の人気のリゾート地である那須高原(栃木県)は、今も火山ガスと蒸気を噴出する火山や緑深い高原の自然の雄大さ、動物との触れ合い、テーマパークでのレジャー、工芸品の製作体験、奈良時代から湯治場としての歴史を刻む温泉郷でのリフレッシュなどの魅力が多くの旅行者をひき付けてきた。別荘を建てて那須での生活をエンジョイする人々も多い。皇室の避暑地でもあることから、この地域の環境の良さはお墨付きである。当地の多くの魅力の中でも今回の記事では地元産の「食」について取り上げる。地元の産物のおいしさを最大限に引き出して提供している施設を訪ね、那須高原の「おいしさ」を演出する方々にお話を伺った。

 

本州随一の酪農王国で好評の牛乳

 那須高原は、夏には避暑地として涼を求める人々でにぎわう。牛ややぎは暑さに弱く、涼しい所の方が乳質が良く、乳量も多い。第二次世界大戦後に大規模な開墾が始まったこの地域は、酪農製品の生産に大変適しており、北海道に次ぐ生乳の生産量を誇る。

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 観光客向けに整備されている牧場が数多くある中でも記者が訪ねたのは、牧場内で生産する牛乳と酪農製品の人気が高い「南ヶ丘牧場」。昭和23年に入植して以来、本物の味にこだわりたいという思いを受け継いで営まれてきた牧場は、馬ややぎなどの動物や自然との触れ合いの場として入場無料で開放され、多くの人々が足を運んでいる。代表取締役社長岡部拓也さんにお話を伺った。
 日本で飼育される乳牛の主流はホルスタイン種であるが、この牧場の乳牛は日本に全部で200頭ほどしかいないガーンジィ種で、約40頭が飼われている。1頭当たりの採乳量は非常に少ないが、乳脂肪分が4パーセント以上になるとても濃い乳を出す牛である。搾乳から瓶詰めするまでを一貫して牧場内で行っている「ガーンジィゴールデンミルク」は、ほんのりと黄色みがかっていて、香りが高く、飲むとコクと甘みが感じられる。“砂糖が入っているのか”とよく質問されるそうだが、もちろん成分無調整の牛乳で、何も足したり、引いたりしていない。普通に市販されている牛乳の殺菌は、温度120度で2~3秒であるのに対して、ここでは75度で15分間かけて行い、おいしさの成分を守っている。クリームシチューやお菓子など牛乳をたっぷり使う料理に用いると、おいしさの違いがてきめんに表れるそうだ。

最高金賞を受賞の牛乳とヨーグルト

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 アジア最大級の食品・飲料専門展示会FOODEX JAPANにおいて、昨年は「ご当地牛乳グランプリ」でガーンジィゴールデンミルクが最高金賞を受賞、今年は「ご当地ヨーグルトグランプリ」でガーンジィゴールデンヨーグルトが最高金賞を受賞。その味に対する評価はこうした受賞によっても裏付けられている。
 ここのヨーグルトが持つ特徴は味の濃厚さで、コクと深みを感じることができる。これと比較すると、普通の牛乳から作ったヨーグルトはコクがなくて、なんとなく透き通っているような色合いがする。牧場内で食べるとき添えられるフルーツソースは、牛の堆肥を使っている有機農家で収穫されるりんごやいちごを加工して作っている。
 また、多いときには1日に数千個売れる人気のソフトクリームも同じ牛乳から作られていて、口当たりの柔らかさやクリーミー感が絶妙である。牛は冬には非常に濃厚な乳を出すが、夏はやや薄めの乳になってしまう。原料乳を調整しないで使っているので四季によって風味が微妙に異なってくるが、それが本来の姿であって、逆に違いがあることを楽しめる。

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乳製品の本物の味を
提供しています。

 

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搾りながら作る牧場ならではのチーズ

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 那須高原で飼育される牛ややぎから作られるチーズは、当地を代表する酪農品であり、これを買い求めに来訪する観光客も多い。中でも、「那須高原今牧場」で製造されるチーズは、その品質の高さと繊細な味わいが認められ、日本航空国際線ファーストクラスの機内食に選定された名品である。チーズ工房担当高橋雄幸さんにチーズの製造についてお話を伺った。
 この牧場では牛300頭、やぎ40頭を家族で飼育しており、牛・やぎそれぞれの半数からの搾乳は毎日朝・夕2回行っている。牛からの生乳は1日当たり4,000キログラムになり、そのうち300キログラムをチーズ加工用としている。やぎからは50キログラムになり、全量をチーズへ加工している。生乳はチーズに加工されると約1割の重さになり、20グラムのチーズを食べると、牛乳1本分の栄養分が摂取できる。
 

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 7種類の定番製品の中でも一番の人気は牛乳から作られるフレッシュチーズで、イタリアで習得した製法をもとに独自に開発した製法で作っている。毎週月曜日・金曜日の朝5時半に搾乳した生乳から作られ、10時には店頭に並ぶ。この極めて新鮮な製品を求めて、この時間に合わせて来店する常連客も多い。お昼には那須圏内のレストラン、ホテル、売店などに配達して、その日のうちに食べてもらうようにしている。

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“チーズを作るならミルクを運ぶな”

 「那須高原の牧場産チーズ」というブランド化を目指し、農林水産省の六次産業総合化事業計画の認定を栃木県で最初に受けたここのチーズ工房には、天皇、皇后両陛下も視察で訪れたことがある。工房の設計には、チーズ職人としてミルクを大切に取り扱うための綿密な配慮がされている。

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世界に発信できる那須の
チーズを作っていきたいです。

 搾乳後最短の時間で工房のタンクまで送れるように、チーズ工房は隣接した場所に配置し、そこから直接にパイプラインでつないでいる。パイプラインには緩やかな傾斜を付けて、タンクまでミルクを極力静かに導いている。というのは、普通の工場のようにミルクがエアポンプで噛まれながら送られてくると、成分が壊れてしまうからである。「搾りたての最高に新鮮なミルクを使って作れることが、おいしいチーズ作りで一番肝心なところです。仮に30分~1時間かけてミルクを常温状態で運んでしまうと、空気中の雑菌に触れることも多くなりますし、移送中の振動で脂肪球が結合してしまい(バター状になってしまう)、どうしても乳質が落ちてしまいます。」と鮮度にこだわる高橋さんが説明してくれた。 また、作るチーズによって乳酸菌が異なり、四季によりミルクの成分も異なるので、これらに応じての温度と湿度の管理が大変な作業で、1度の誤差も許されない。生きている乳酸菌の活動をコントロールするためにデリケートな微調整を行う職人技が、地域の顔となる「おいしさ」を生み出している。

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那須高原の自然と食材の豊かさを盛り合わせ

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 那須高原は日本有数の観光地であるとともに、米、野菜、肉、生乳などの生産が盛んな農業の町でもある。「食材の宝庫」である当地を訪れる旅行者に、地場の産物をおいしく味わってもらうことを願って地元の有志が開発した「なすべん(那須の内弁当)」が人気を呼んでいる。そのメンバーの中心で活躍されている那須の内弁当地域活性化協議会の鈴木和也会長に、なすべんの魅力と開発のご苦労などを伺った。
 なすべんは、那須高原のおいしさを凝縮した地産地消のランチプレートで、那須に伝わる「九尾の狐伝説」にちなんで9種類の食材を使い、9つの品が、那須の杉から作られた特製プレートに載せられて提供される。おむすびはコシヒカリ(または地元ブランド米のなすひかり)を用い、地元産のにら、ねぎ、なす、旬の野菜、フルーツ、牛乳などが9種類個別の器に盛られている。プレートの中心には、各提供施設がそれぞれに工夫して那須和牛を用いたメインの料理が配され、シチューやミートローフなど施設ごとの創意工夫がアピールされている。提供施設は現在8軒であるが、近々念願の9軒目のなすべん提供店が仲間入りする。それぞれに洋食風、和食風、お母さんの味風など、各施設の特徴を表したメニュー構成となっていて、旅行者の食の楽しみの選択肢を広げている。メニュー構成には一定のルールを設けているので、8軒どこでも内容・質のばらつきがない。食べ歩きするリピーターも多いという。使用食材とメニュー名、調理内容を記載した「おしながき」を必ず付けて提供し、食事中の会話も弾むようにされている。

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農業と観光の連携が実を結ぶ

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 那須高原の食材の良さをしっかりと伝えるためには、“しっかり手の込んだものを作ろう”というのが最初の発想であった。お昼時の忙しい調理場でこういう手間が掛かるものを提供することは、実は各施設の負担になっている。メニューは、地元の関係者を広く巻き込んで行われる検討会での協議や試食会を経て毎年更新している。良い意味での競争が行われていることによりお互いの刺激になっているのだが、観光客においしいものを提供していくため、そして、そのおいしさを求めて那須に来てもらうためには必要なことで、レベルを向上するのは欠かせない。そもそも、なすべんで儲けようという発想はないのである。

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 地場の食材のみを使用するということは、実はかなり厳しいルール設定である。5年前になすべんを立ち上げるときに一番ネックになったのは、地元の食材をどうやって安定して各施設に供給するか、とういうことだった。例えば直売所に行って購入することもできるが、毎日仕入れるとなると、どうしても不足する食材が生じてしまう懸念が大きい。また、地元産のブランド野菜は、商標登録されてブランドの価値を維持するために全て首都圏に出荷されてしまい、地元では買えないという流通構造になっていた。“那須でせっかくおいしいものがとれるのに全部東京に行ってしまったら何の意味もない。観光で那須に来た人に食べてもらうのがいい。”と賛同する関係者の輪を広げていくことから取り掛かった。当時の農協の担当責任者が熱心に働き掛けてくれ、仕入れの目途が立ち、なすべんがスタートできたが、流通構造が変化したことによって、今ではなすべん提供施設以外でも地元の食材を用いて特色を出すことができるようになり、地元のブランド野菜もスーパーで誰でも買えるようになってきた。

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 なすべんを契機とする地元の産物を生かした取り組みで実績を積んできたから、だんだんと農業と観光が連携して地元が活性化される仕組みが出来てきた。今後さらに多くの地元の人々を巻き込んで、地域連携の輪が広がっていくことだろう。

 


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 今回取り上げたほかにも、那須ではさまざまな形でおいしいものが生み出され、訪れる人々の舌を喜ばせている。郷土料理・洋食・アジアン飲食店の数々、個性豊かなベーカリーやコンフェクショナリー、さわやかな風が吹き抜けるカフェテラス、もぎたてのフルーツを味わえる果樹園などなど……那須の豊かな良質の食材が多彩な食文化を育んでいる。

 

取材協力:

南ヶ丘牧場
http://www.minamigaoka.co.jp/

那須高原今牧場チーズ工房
http://www.cheesekobo.com/

那須町観光協会
http://www.nasukogen.org/

 

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