島根県~神話と歴史と景観と~松江市

2012-07-20


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『城下町松江』

 松江市のシンボルといえば、もちろん松江城である。堀尾吉晴(ほりおよしはる)が17世紀初頭に築城した城で、現在国の重要文化財となっている。城の周囲には武家屋敷が残り、城下町の風情がある。訪れた人は城の堀を巡る遊覧船から城下町の風景を楽しむこともできる。

 松江城の大手門跡近くの発着場から、堀川めぐり遊覧船に乗った。左に城の城壁を見ながら進むと右手に松江歴史館が見えてくる。堀の周りの遊歩道をレンタサイクルに乗った若い女性観光客が、気持ち良さそうに黒髪をなびかせて走りすぎて行く。宇賀橋を右に見ながら城壁伝いに左に行くと、右手に歴史を感じる屋敷群が見えて来る。今も江戸時代そのままの風情を残す塩見縄手地区だ。茶色の板塀から見越し松の緑が覗き、大きな門には白い提灯がかかっている。松江城の歴史を語る船頭さんの名調子を聞き、左に城壁、右に武家屋敷を見ながら遊覧船に揺られていると、何ともゆったりとした気分になる。いつの間にか、水面に遊ぶ水鳥たちと気分はすっかり同化している。 

 この遊覧船で楽しいのは船頭さんの語りだが、なかなかの人気職種でその倍率は高く、島根県内に限らず全国から応募してくるという。「高い倍率を勝ち抜く秘訣はなんですか」と船頭さんに聞いてみた。「顔」(笑)と「歌が歌えること」が条件だそうだ。「では一曲歌わせていただきます」と松江舟唄を船頭さんが歌い始めると、ちょうど長い橋の下にタイミングを計ったように通りかかった。味のある歌声が橋に反響して、素晴らしい音響効果を発揮する。乗客は拍手喝采である。橋といえば、ここならではの趣向がある。いくつかの橋は水面からの高さがとても低く、そこを通るときは船頭さんが遊覧船の屋根を下げなければならない。電動で下がる屋根に合わせて、乗客全員が頭を下げ小さくなる。その時奇妙な一体感が湧くのが不思議だ。

 1時間弱で松江の城下を通常は見られない角度から見ることができる船の旅は、ぜひ体験していただきたい。

 

 

 

 

 遊覧船でゆったりとした気分になった後、お堀沿いの松江歴史館に立ち寄り、地元の人が「イチオシ!」という喫茶「きはる」で和菓子と抹茶を頂いた。「きはる」には和菓子バーがあり、現代の名工に認定された伊丹二夫氏自らが、創作和菓子の実演販売をしている。

 カウンターに並んだ繊細で色彩豊かな創作和菓子はすべて美味しそうで、どれにしようかと決めかねていると、伊丹氏が自信満々に、とにかくこのわらび餅を食べてみて、と勧められた。

 

 畳の喫茶コーナーで腰をおろし日本庭園を眺めていると、お姉さんが、笑顔と共にお抹茶と緑あざやかなわらび餅を運んで来てくれた。きなこが絡みあった粘りのあるわらび餅を一口口の中に入れてみると、噛まずとも瞬時に溶けてしまった。何と上品な逸品だろう。この瞬間、名工伊丹氏のあの自信あり気な態度が納得できた。ふと窓の外に目を移すと松江城の天守閣がこちらを見下ろしている。

 

  松江には本物という上質な時間が流れていた。

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