『京・古美術のまち(鴨東古美術街)の楽しみ方』

インタビュー 古美術商「やかた」 舘 義孝氏

 京都市内を南北に貫く鴨川。この鴨川よりも東にある地域を鴨東(おうとう)と呼びます。鴨東地域で、有名な知恩院から鴨川に向かって西に伸びる古門前通と新門前通の間、そして南北に鴨川と並行する大和大路通と、祇園の花街を南北に結ぶ花見小路通に囲まれた地域には、骨董・古美術品を扱う店が軒を連ねています。古都にある古美術街というととても魅力的に聞こえます。しかし一方で、素人にとっては敷居が高く感じられます。
 そこで、この鴨東古美術街の古美術商「やかた」を訪問して、店主の舘義孝(たち よしたか)氏に「古美術のまち」を楽しむ方法について教えていただきました。

1. この地域の古美術商は鴨東古美術會としてまとまっていますが、この會の特徴をご説明いただけますか?

 鴨東古美術會は50年ほど前に設立されました。この會の会員が扱う古美術は多種多様ですが、それぞれの店は専門分野を持ち、独自の特色を備えています。扱う作品の質が高く、また狭い地域に集まった店舗の多さは全国でも例を見ません。そのため常に国内外の収集家より注目されています。京都の情緒が残る地域性も相まって、全国屈指の「古美術のまち」という自負を持っています。

2. 同じ古美術商でもそれぞれ特徴があると思いますが、貴店およびその他特徴的な美術商の例をご紹介ください。

 私の店「やかた」の特徴は、品物の70%以上がお客様から直接買ってきたものだということです。京都の名家の蔵には多くの良質な古美術品が眠っています。それをお売りになることを「蔵だし」といい、世間に出回っていない骨董品が入手できます。このようにあまり出回っていない品のことを「うぶ荷」といい、収集家の間でとても喜ばれます。私は蔵だしの際に、美術品だけでなくその御宅が代々使っていた器などの小物も買います。良い骨董品をお持ちのお客様は、日常品の食器なども良い物をお持ちです。うぶ荷が多いことから、私の店には同業者も買い付けに来ますし、珍しいものを求めて収集家の方が定期的に見にいらっしゃいます。

 扱う品物の種類が違うお店を紹介します。まず「ちんぎれや」は古代裂(こだいぎれ)を専門とするお店です。古代裂とは歴史の古い織物の断片のことで、その時代により飛鳥・天平時代の「上代裂(じょうだいぎれ)鎌倉・室町時代の「名物裂(めいぶつぎれ)」、そして江戸時代ごろまでの「時代裂」などと呼ばれています。例えば古い絵画を表装する際はその時代の古代裂を使うのが理想です。「ちんぎれや」は国内外に有名で、海外の美術館からも東洋美術の1つとして、あるいは展示する絵画の表装用として買い付けに来ます。販売されている品物には、江戸時代の時代裂で作ったお手頃な価格のお財布などもありますが、店の奥には正倉院から出た「上代裂」もあるらしいですよ。

 次は日本画と掛け軸を専門とする「鉄斎堂(てっさいどう)」です。店の看板は武者小路実篤の筆による文字で、その昔この有名な小説家が顧客であったご縁によるものだそうです。店に入ると床から天井まで棚にぎっしり並べられた細長い箱には、数知れぬ日本画の名作が収められています。「鉄斎堂」が他と違う特徴としては、有名な日本画家の作品に関する鑑定の窓口になっていることで、例えば池田遥邨(ようそん)、小野竹喬(ちっきょう)、秋野不矩(ふく)など、いずれも文化勲章受章者である有名画家の作品の真贋(しんがん)を定める鑑定の窓口となっています。
 最後に「今昔西村」をご紹介します。こちらのお店は着物および着物の裂で作った作品を専門としています。現代では作れないような素材や技術を使った着物や古代裂を扱っており、知る人ぞ知る名店です。名前は言えませんが、有名な女優さんたちが買いに来られるのをよくお見かけします。

3. 高価な品を扱っておられるので、店内で古美術品を鑑賞・購入する場合のタブーがあるかと思います。初めて古美術商を訪れる場合の注意点を貴店の品物を例としてご教示ください。

 古美術商は皆古美術・骨董品が好きで長い時間とお金をかけて品物を集めています。私の店は私の好きなものを集めた個人の家だと思っています。いうなれば店主の個人の家に入って、収集品を見せてもらう、そして店主の集めたものがお好きなら買う、という感覚です。
 ですからお店に入る時は、まず「見せていただいていいですか?」と声をかけるのが礼儀です。もちろん嫌とは言いません。(笑)
 その次に大切なことは、手に持ち、肩にかけている荷物は、最初に店の者に預けていただきたい。と言うのは古美術商の店には所狭し、と品物が並んでいることが多く、中には非常に高価な物や陶器のように割れやすい物があります。荷物をぶつけて壊したら取り返しがつきません。店員はお客様の荷物を安全なところに置いてから応対します。
 品物を見るだけでなく手に取る時は、店主や店員に断ってください。
 また手に取る時は必ず両手でしっかり持ちましょう。
 品物によっては金属などで傷がつくものがあります。指輪や腕時計は外して頂いた方が安全です。また袖口で引っ掛けることがないようまくること、長いネックレスは屈んだりするときに品物に当たる恐れがあるので、外すか注意をしていただきたいです。
 古美術・骨董品がお好きで良くご存じのお客様は、お帰りになる時「ありがとう」と言われます。お買いにならなかった場合でも店主も「おおきに」とお礼をいいます。先ほども言いましたように、お客様としては「見せてもらってありがとう」の意味ですし、店主としては「見てくれてありがとう」という気持ちなのです。
 品物の質にしても、値付けにしても信頼できるお店でなければ、鴨東古美術會のメンバーにはなれません。また私個人の場合、品物を買い取った際に、売値をいくらにするかを売主に伝えます。それでも恥ずかしくない正当な値段で売っています。ですから私に限らず、鴨東古美術會のメンバーのお店で、値段を値切ることは失礼にあたります。フリーマーケットやただのお土産物屋などとは格が違うことを理解して来ていただきたいと思います。
 この辺りの古美術商の中には、プロのバイヤーや見る目がある本物の収集家しか相手にしない店もあります。ただ私の店や先ほどご紹介したお店には、高価な品物もありますが、同時に2,000円から3,000円ぐらいの小品もご用意しています。初めての方でも、お話しした幾つかのルールを守っていただければ、お買い物を楽しんでいただけると思います。  

4. 記者のように古美術の知識がない者が、この古美術街で買い物をする場合どのように選んだら良いでしょうか?

 もちろんご予算があると思いますので、ご予算の範囲で無理をなさらずお気に入りを探して頂ければ良いと思います。
 見ていますと、お客様は自分に関係のあるものを最終的に選ばれることが多いですね。例えば干支に関係がある、あるいは猫が好きであれば猫の画が付いたものなどです。せっかく買っていただくので、日常生活で使っていただきたい。ですからお酒がお好きなら、徳利やお猪口など、日々楽しんでいただくと私どもとしても嬉しく思います。

5. 最後に鴨東古美術街を訪れる際、街並みや歴史的景観という意味で、見るべきというお勧めのスポットを幾つかご紹介ください。

 鴨東古美術街の南側には、新橋通と白川南通の間に重要伝統的建造物群保存地区があります。町屋茶屋様式の建物が連なり、祇園の中で最も祇園情緒を感じられる街並みとなっています。




 鴨川へ向かって穏やかに流れる白川周辺の景観、白川に架かる巽橋は観光客の撮影スポットになっています。巽橋近くの辰巳大明神は祇園の芸舞妓さんからの信仰を集める伎芸上達にご利益があると言われる神社です。



 古美術を楽しまれる前後には、ぜひこの祇園で最も祇園らしい、つまり京都で最も京都らしい地域を散策していただきたいと思います。

≪取材協力≫

古美術商 「やかた」
〒605-0088 京都市東山区大和大路通新門前上ル西之町197番地
TEL:075-533-1955
FAX:075-571-8648
HP:http://www.kyoto-yakata.net/
HP(骨董品買取):http://art-yakata.jp/

古代裂工芸 「ちんぎれや」
〒605-0089 京都市東山区大和大路通三条南入元町372番地の1
TEL:075-561-4726
FAX:075-531-6709

新古書画 「鉄斎堂」
〒605-0006 京都市東山区大和大路通古門前下ル新五軒町195
TEL:075-561-3056
FAX:075-531-5403
HP:http://www.tessaido.co.jp/

古代裂・衣装 「今昔西村」
〒605-0086京都市東山区大和大路通三条下ル弁財天町36番地
TEL:075-561-1568
FAX:075-561-1569
HP:http://www.konjaku.com/

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