そこで、クローズアップしたいのが、世界で唯一「クロマグロの完全養殖」に成功している、近畿大学水産研究所の取り組みである。
戦後、遠洋漁業しかなかった時代に近畿大学初代総長世耕弘一(せこうこういち)氏は、海に生け簀を浮かべることを考えた。これが、魚の養殖の始まりである。
ハマチの養殖の成功に始まり、マダイやカンパチなどの高級魚の養殖にも成功していった。
この養殖の成功のカギとなったのは、近畿大学水産研究所第2代所長原田輝雄(はらだてるお)氏が開発した小割式養殖法(こわりしきようしょくほう)(海面に網生け簀を設置しその網の中で小さく飼う方法)であった。今ではこの養殖法が世界の主流となっている。
1970年には、水産庁の委託を受けマグロ養殖の研究を開始したが、育成は困難であろうとの見解から、水産庁は3年後にこのプロジェクトから手を引いてしまった。
そこで近畿大学では、自前で養殖をしたハマチやカンパチなどを市場で売り、研究費の一部に充てて研究を続けていった。
そうした地道な研究の結果、2002年には世界初となるクロマグロの完全養殖に成功し、2004年にはこれもまた、世界初となる完全養殖クロマグロの初出荷という偉業を成し遂げた。
成功に導いたものは何かと、水産研究所本部(白浜実験場)で第4代所長の村田修(むらたおさむ)博士に聞いてみた。
「この研究に携わるみんなが同じ思いで、一丸となって研究に取り組み、結果を出していくチーム力。そして毎日、地道に飼育・観察をしていることです。私は、羊飼いならぬ、魚飼いですよ」と言いながら微笑む村田博士の目には、確信を持ってその道に打ち込む研究者の自信が溢れていた。