サステナブルを五感で体感 KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)

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 都心から車で東京湾アクアラインを走り木更津北インターチェンジで降りて15分、緑に囲まれた住宅街を通り抜け小高い丘を登ると目前に広大な農場が広がる。そこにあるのは2019年11月千葉県木更津市にオープンした体験型自然共生施設「クルックフィールズ」。訪れる者に自然との共存を通じてサステナブルの素晴らしさが体感できるファーム&パークだ。この取材では構想から今までの道のりやコンセプト、今後の展開などを紹介する。

次世代のために

 木更津と言えば古くからは港町として栄え、のりやあさりなどの海産物が獲れることで有名であるが、近年は東京湾アクアラインの開通により都心や東京国際空港(羽田空港)へのアクセスが良くなり、大規模アウトレットモールができるなど、流入人口が増え住みやすい街として認識されている。
 海のイメージが強い木更津に山で楽しめる「クルックフィールズ」が誕生した。もともとは閉鎖されていた牧場跡地を音楽プロデュサーの小林武史(こばやしたけし)氏が「次の世代も使い続けられる農地へ」と思いから開墾し農場として2010年に30ha(約90,000坪)の広大な土地に「耕す木更津農場」を開場した。
 それから10年、美味しく、そして安心で安全な食べ物を生産するために有機栽培の野菜を育てるため土壌の改良に取り組んできた。その結果、場内の畑のほとんどは「有機JAS認証(農林水産省が認めている唯一の有機野菜)」を取得している。また、有機野菜の栽培、平飼いの養鶏(平らな地面で放し飼いの状態で飼育する方法)、一般参加者を招いての開墾やここで採れた農産物や地元食材を使用したバーベキューなどの農業体験イベントを行ってきた。

クルックフィールズ全景

全ては一つの環(わ)でつながっている

 東京ドーム(46,755㎡ / 約14,140坪)が6個も入る広大な敷地には、「FARM(農)」「EAT(食)」「ART(芸術)」「PLAY(遊び)」「STAY(宿泊)」「NATURE(自然)」「ENERGY(エネルギー)」の7つのコンテンツがある。この7つのコンテンツは循環という一つの環でつながっていることに気づかされる。
 まず初めに記者の五感の一つに響いたのは、都会ではめったに聴くことのないすがすがしい野鳥のさえずりであった。「この先に見える森は「野生の森」と呼んでいて、房総半島内から様々な種類の樹木1,500本あまりを植樹しています。その森の下の方には人工池の「マザーポンド(母なる池)」があります。水辺があるので野鳥にも住みやすい生態系が形成されています」と話してくれたのは、クルックフィールズで広報やマーケティングなどを担当している新井洸真(あらいこうま)さん。この後もとても分かりやすいガイドツアーをしてくれた

野生の森
クルックフィールズの新井さん
マザーポンド

太陽光の活用

 敷地の中には小山がありその斜面には巨大なソーラーパネル(太陽光発電装置)が設置されている。出力容量は2メガワット(2,000キロワット)を有する。ちなみに一般家庭の屋根にあるソーラーパネルが2~4キロワットなので発電量は約500~1000倍に相当する。
 施設内で使われている上水は井戸水を利用し、施設から出る雑水は飲食施設「ダイニング」の地下にある浄水槽に行き、バクテリア力により分解される。その後、栄養吸収力の高いヤナギやクレソンなどの植物や微生物の力を利用してろ過を行う「バイオジオフィルター」という水質浄化システムを経て、敷地内中心部の一番低い場所にあるマザーポンドに流れ貯まる仕組みになっている。この水質浄化システムでは化学薬品は使われておらず、施設内には公共の上下水道も完備されていない。
 マザーポンドに貯まった水は太陽光発電で得た電力を使いポンプで汲み上げ各施設内に供給される。水質が良いので敷地内にある人工の小川や生物が生息する「ビオトープ(生物生息空間)」にはメダカやドジョウ、ゲンゴロウなどが生息している

ソーラーパネル
バイオジオフィルター
ビオトープ

循環

 FARM(農)には、オーガニック野菜を生産している「オーガニックファーム」や平飼いの「養鶏場」、ハーブやエディブルフラワー(食用花)などを栽培している「エディブルガーデン」、美味しいミルクやチーズを供給してくれる水牛や山羊が飼育されている「酪農場」がある

ストレスなく育つ鶏
オーガニックファーム
エディブルガーデン
場内の雑草を食べて育つ山羊

 場内の雑草は山羊の餌になり、枯草や水牛の糞は発酵させ堆肥となり循環している。肥沃な土で育った野菜でピザ作り体験なども行っている。新鮮な卵と搾りたてのミルクで作ったシフォンケーキや天然酵母で焼き上げたパン、また駆除されたイノシシとシカの肉はハムやソーセージなどに加工され「ダイニング」で食べられる。それらはお土産に買って帰ることもできる

新鮮な素材で作られたシフォンケーキ
オーガニック素材と天然酵母で作られたパン
イタリア製の窯で焼き上げたピザ
場内で採れた野菜やハーブの入ったソーセージやハム

大自然とアートで宇宙に繋がる

 敷地内でひと際目を引いているのが、ゴルフのバンカーの様な形をした池の中に、ひょうたんみたいな形をしたアルミニウムに水玉模様が描かれているユニークなオブジェ。これは前衛芸術家草間彌生(くさまやよい)の作品で、タイトルは「新たなる空間への道標 / GUIDEPOST TO THE NEW WORLD」。もう一つの作品が、宇宙を感じる「無限の鏡の間 - 心の中の幻 / Infinity Mirrored Room – Illusion inside the Heart」。この2つの作品以外にも場内のいたるところに現代アーティストのアートが展示されている

新たなる空間への道標
無限の鏡の間 - 心の中の幻

シンプルの中にある豊かさ

 クルックフィールズでは、最近日本でも注目され始めているタイニーハウスに泊まることができる。タイニーハウスとは約10~20㎡の小さな家で、室内にはベッドとイス&テーブルくらいしかないシンプルな空間である。「タイニーハウスビレッジ」と呼ばれるエリアには、タイヤ付きの牽引可能なタイプのハウスが5棟あり各棟2~4名滞在できる。
 タイニーハウスは米国のポートランドが発祥であるが、昨今の世界的な大規模自然災害から家についても考える契機になり、また行き過ぎた資本主義への反動などから必要以上にモノを持たず、質素に暮らすというミニマルな暮らしを考える人たちの間で広がっている。ここに泊まって真の豊かさについて見つめ直してはどうだろう。
(注意:タイニーハウスは2020年6月現在、新型コロナウイルスの影響等により準備中)

タイニーハウスビレッジ全景
タイニーハウスの室内

農場にサードプレイス

 タイニーハウスビレッジの目の前には、ラウンジのような心地よさを提供してくれる宿泊者専用の「センターハウス」がある。室内はまるで最近人気のサードプレイス(1.自宅、2.職場・学校でもない心地良く過ごせる第三の居場所)のようなカフェの雰囲気で、アンティークのゆったりしたソファの横には本棚があり自由に読むことができる。夕刻にはアナログレコードから流れる音楽を聴きながらお酒を飲むなど、寛ぎのひと時を提供してくれる。
 バーベキューセットもあるので、夕食はタイニーハウスの横で場内産の食材などを焼いて食べたり、焚火をするなどナイトライフも楽しめる。
 また、センターハウス内にはトイレの他に男女別に分かれたシャワーブースが計5つ完備しているので安心して利用できる

センターハウス室内
タイニーハウス前での焚火

地域との連動

 最後、ここまで案内してくれたクルックフィールズの新井洸真さんにいくつか聞いてみた。
 ―ここに来てもらいたい人は、サステナブルや環境問題に興味がある意識が高い人やその家族連れを想定しているのでしょうか?
 「子供や家族連れはもちろんですが、それこそ環境問題などにあまり関心のない普通の人たちで、特にターゲットの設定はしていません。あと、地元の人にもっと周知し気軽に来てもらいたいと思っています」
 ―ここでは何を感じてもらいたいですか?
 「ここでの体験を通じて自然の恵みや循環の大切さを知り、人間の在り方や未来の生活の豊かさを想像してもらえたらと思っています。
 ―これから行おうとしていることは何ですか?
 「今は地域とどう連動して事業をやっていけるかを考えています。農業に対する想いをきちんと持っている近くの農家さんと一緒にプロジェクトなどを行っていければと思っています」

取材を終えて

 近年、資源を枯渇させないサステナブルの重要性はますます叫ばれている。しかしながらほとんどの人は具体的にはどのようなことで何をすればよいのかが分からない。
 今回訪れたクルックフィールズにその疑問に対するヒントがあった。持続可能な生産と消費、食物及び食品ロスの削減、廃棄物の再利用、自然エネルギーの活用など、サステナブルの本質は、ここにある7つのコンテンツに触れることで気づかされるのだ

写真提供:クルックフィールズ
クルックフィールズ
https://kurkkufields.jp/

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