いつの世でも変わることがない子をいつくしむ親の心 伊豆稲取 雛のつるし飾り

2019-03-04

いつの世でも変わることがない子をいつくしむ親の心

伊豆稲取 雛のつるし飾り

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雛(ひな)のつるし飾りは、桃の節句に女の子のいる家庭でお雛さまの雛段飾りの両脇に飾られる。温かい色使いの飾りの1つ1つは幼児の手ぐらいの大きさ。今では日本の各地で目にするようになったが、伊豆半島の南東に位置する稲取(静岡県賀茂郡東伊豆町)が発祥の地である。伊豆半島を代表する手工芸品を求めて、風光明媚な港町を訪ねた。

願うものが形になっている
 「雛のつるし飾り」は江戸時代末期から伝わる伊豆稲取ならではの風習である。つるされる飾り物は、初節句を迎える女の子の健康や良縁を願って母や祖母が1つ1つ手づくりする。雛人形の段飾りの両脇に飾られるのが本来の形だったが、アパート住まいなど手狭な環境では、つるし飾りだけで桃の節句・雛祭りをお祝いする家庭も増えている。今では、桃の節句に限らず一年中玄関や居間に和風モビールとして飾られ、日常の生活に彩りを与えている。


 “女の子がきれいで幸せに、きれいなものを着ておいしいものを食べて育つように”などと、各家それぞれの思いで作られてきた。生まれた子の干支を取り入れたオリジナルな細工物を飾る家庭もある。人それぞれの願いが込められるので作り方や飾り方に厳密な決まりは無い。ただし、偶数は割れることから、竹ひごの輪からつるされるひもの数は縁起を担いで3本、5本、7本など必ず奇数とし、その1本ごとに奇数個の飾りを付ける。

 つるし飾りの種類は、各家庭に共通するものを合わせると50種類ほどになる。なかでも、<桃>、<猿>、<三角>が代表するもので、稲取のどこの家のつるし飾りにも必ず入っている。

<桃>は邪気、悪霊を退治し、延命長寿の意味もある。早く花が咲き、植えやすく、実が多いので多産を象徴する <猿>は厄が去る、難が去る、の掛け言葉。手を広げた状態でなく、手足をくくった状態になっているのが大事。人間の身代わりに身動きがとれないことが神の罰を表している
<三角>には厄払いの霊力がある。富士山を模したものには、富士山の神を信仰するように、不治の病の治癒、不老不死、富めることが込められている。香袋としても用いられる <金目鯛>稲取港で水揚げされる金目鯛は、全国の食通からの評価が高い。縁起物としておめでたい場には欠かせない

 “かわいい”と人気があるのは、子供を題材とした<這(は)い子人形>や<三番叟(さんばそう)>。

<這い子人形>わが子が這えば立って、立てば歩いて、と子供の健やかな成長を願う親の心が込められている <三番叟>豊年満作を祝う稲取の夏祭りで舞う子供たちは祝い事につきもの。出演後は健康になるといわれる

 
 
稲取の皆さんのアイデンティティー​​
 「田舎の庶民のお母さんたちが作る物だからこそきらりと光るものがある。そういうのを見つけていくと楽しい。」と、つるし飾りの製作・展示活動を第一線でけん引している≪雛のつるし飾り製作体験工房 絹の会≫森幸枝代表にお話を伺った。

<隠れ蓑(みの)>着ると姿を隠すことができることから、災難から守ってくれる <枕>寝る子は育つ、の言い伝えから <巾着>お金に不自由が無いように

 つるし飾りは特別な技能を持った職人が作るのではなく、一般の女性が家庭で作るなかで育まれてきた「民芸品」である。材料は、布と糸、ひも、綿で、全てを手で縫って作り上げる。昔は裕福でなくても、古くなった着物や端切れを使うなど、家庭の中にあるもので作るのが当たり前だった。作る人によって使う素材がさまざまであり、1つ1つに作り手の思いを込めて作っているので、同じものはない。​​

<でんでん太鼓>の皮や<草履>の底なども緻密に1針ずつ縫い進め、まるで接着剤で貼り合わせたかのような仕上がりになっている

 つるし飾りは稲取の皆さんのアイデンティティーである。『お国自慢は何ですか』と問われれば、『つるし飾りを見たことありませんか? これって稲取が発祥なんです』と紹介ができる。「作り手の私たちが思っていたよりも広まっているからこそ、私たちは手抜きの無いものを作ることで、お客様から信用を頂いている。それが一番の仕事の励みです。何気ないものを精いっぱい丁寧に作るのが絹の会の仕事です」

<亀>長寿の象徴 <にわとり>早起きしてまめに働くように <俵ねずみ>大黒様のお使いであるねずみには金運・霊力がある。俵は五穀豊穣の象徴

 
 
すっかり影を潜めてからの復活​​
 江戸時代から受け継がれてきた伝統は、先の大戦によって存続の危機を迎えた。戦中は無用のものとして抑圧され、戦後は皆が疲弊状態から立ち直ることに精いっぱいだった。つるし飾りの慣習は一部の人に限られて廃れしまい、その存在もほとんど忘れ去られてしまった。
 雛人形は、もともと流し雛をして供養するのが定めである。または、古いお札などと一緒にどんど焼きの火に入れて焚(た)き上げる。各家庭で無理をして買ったものを火に納めるのは大変だが、お雛さまはそういう運命で、何年も持ち続ける物ではなかった。昔つるし飾りは「撫でもの」といって、これらを身代わりとして私たちの病や悩みを撫でて移した後、流したり、焚くことで厄払いするものだった。

<子持ち達磨>七転び八起きで福を招く縁起物。赤色には魔除けの特別な霊力が宿る <まめ>まめまめしく、健康であることを願う <七宝まり>仏教で説かれる7種の宝石のことで、庶民の夢を託した縁起物

 戦後も10年経つと、女の子のいる家庭ではお雛さまを買って飾ったものである。以後、お母さんやおばあちゃんが日々の生活の合間に縫ったつるし飾りを雛段の脇に一緒に飾る慣習が徐々に復活した。森さんは平成5年(1993年)に地元の婦人会によるつるし飾りを作る催しに参加し、つるし飾りづくりの魅力にすっかり取りつかれた。稲取の女性の間につるし飾りのブームが湧き上がる中、製造技術を向上させ、基本を踏まえつつ多彩な造形に挑み、展示・販売をする工房を開設するなど、仲間たちと共に活発に活動を続けている。
 25年間ほどで全国に行きわたったのは、「絹の会」が伝統を復活させたことの功績である。「私たちは意地とかは無いけれど、丹精込めて良いものを作って楽しんでいる。粗雑なものは見飽きられてしまう。“見本として皆さんにお見せするのだから、気を入れて作りましょうよ”と私たちはやっている。ただそれだけのこと」と、森さんは謙虚に振り返る。

つるし飾り製作体験スペースと創意工夫に満ちたつるし飾りのかずかず。「絹の会」森幸枝代表が手にするのは<這い子人形>と<七宝まり>。「伝統工芸は大いなるマンネリではあるけれども、どんどん進化していくのです」


雛のつるし飾り製作工房「絹の会」
09:30-18:00 火曜定休

http://www.kinunokai.com/
 
 
 
発祥の地・伊豆稲取には本物しかない​​
 伊豆稲取は古くから漁業の街として続いてきた。海と山の自然に恵まれた風光明媚な街である。地元の方々の手作りのつるし飾りは商店や宿、駅など稲取の街のあちこちに飾られ、この街らしさの演出に色を添えている。毎年春には街を挙げてのイベントが開催される。

 

≪≪雛のつるし飾りまつり≫≫



(2019年は1月20日~3月31日開催)


メイン会場 『文化公園雛の館』​​
 展示されているつるし飾りの数は、日本最大級の約20,000個。数えきれない雛人形にも圧倒される。(7-8月を除いて通年で見学可。開館日要確認)

文化公園雛の館につるされている巨大なつるし飾りは、地域の温泉宿泊施設の女将が11つ手づくりで持ち寄ったものである。高さ7メートルの天井からつるされている
4月からは端午の節句にちなんだ展示も加わる

 

<素盞鳴神社>脇道から上っての眺めもお勧め

『素盞鳴(すさのお)神社』​​
 118段の階段を使って、神社の参道に日本最多の雛人形とつるし飾りが展示される。港を挟んだ漁港からも見られる壮大なスケールの光景は、この地区に観光客を呼ぶ最大の催し物になっている。(伊豆稲取駅から徒歩15分)
 
 
 
 
 
『収穫体験農園 ふたつぼり』​​
 みかん農家の母屋は純和風建築で、その居間に雛段とつるし飾りが飾られている光景はノスタルジーを誘う。樹齢400年という見事な枝ぶりの松のある庭園とキラキラ光る太平洋の眺めも相まって、日本的な風景の趣があると言われる。(伊豆稲取駅から徒歩20分)

<ふたつぼり>母屋の雛段からは、松の枝越しに太平洋が一望できる 「四代目 ミス雛のつるし飾り」に選ばれた3名
――イベント会場で出会えるかも

 
 
――ほかにも、街じゅうでイベントが行われますので、稲取温泉旅館組合Webサイトで詳細をご覧ください。――
 
 
取材協力・画像提供
稲取温泉旅館協同組合
稲取温泉こらっしぇ
(稲取温泉旅館協同組合公式サイト)

http://www.inatorionsen.or.jp/

稲取紹介Webサイト
e-izu東伊豆まち温泉郷情報サイト
http://www.e-izu.org/index.html

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