料理屋としての蕎麦を

味の外交官

料理人 江川

オーナーシェフ 江川 ひろし さん
(元在米日本国大使館公使公邸料理人)

東京大学のシンボルとして知られる赤門のすぐ近く、本郷通りを少し入った閑静な路地裏にある「料理人 江川」は、厳選された山形県と宮城県の2種類の蕎麦粉から作る店主こだわりの手打ち蕎麦と会席料理が味わえるお店です。在米公使の公邸料理人として勤務した経験を持つこのお店のご主人江川ひろしさんにお話を伺いました。

ワシントンでの公使公邸料理人としての体験をお聞かせください。

 ワシントンはお客様が多く、海外のVIPのみならず日本の総理大臣など日頃お会いできないような方々に自分のお料理を召し上がっていただいたことは、本当に貴重な体験でした。
 また、私にとって忘れられない事件もあります。日本らしさの工夫として、青竹を削って箸を手作りしていたのですが、ある日、竹を取りに竹林に出かけたところ、突然2台のパトカーが自分の方へやって来たんです。私有地の竹だとは知らずに取ってしまったのを誰かに通報されたようです。事情を説明して無罪放免になりましたが、さすがにあの時はビックリしましたね。

海外での経験で学んだことはありますか?

 アメリカといえども、築地のようにレベルの高い食材が何でも揃っているわけではありません。お刺身にして本当に美味しく食べられる魚の種類は正直少なかったですね。でも、食材は現地で調達しようと思っていたので、かつお節と昆布以外は日本からの輸入に頼りませんでした。お米や野菜を作っている日本人の方々と知り合いになり「ふきのとうやたらの芽が取れたよ」と声を掛けてもらってはそれらを譲っていただきました。そういう意味では、いろんな方のおかげで自分が料理を作らせていただいていることをとても実感できました。そして、よりいっそう食材を大切にする気持ちが強くなったように思います。

江川さんにとって蕎麦の魅力は何ですか?

 私は蕎麦どころ山形県の出身で、蕎麦好きが高じて本格的に学びたいと、仙台のホテルで料理長をしている間に蕎麦塾に1年間通いました。東京の蕎麦は量や質の割に値段が高いという印象があり、値段に合ったクオリティで蕎麦を提供したいと思いました。でも、蕎麦はやればやるほど難しいんです。料理と少し違う点は、形のないものから作るのにそのときにしか味わえない味が出せるということです。つまり状態によって味や風味が変わるっていう微妙な感じがすごく面白みがあって魅力ですね。

店名に「料理人」と付けられた理由は?

 お客様が食べたいものを作れることが理想の料理人だと思っています。幸いなことに今は蕎麦も打つし、会席も振る舞う。かつてはカウンターで天ぷらを揚げ、ふぐやスッポン料理も作っていました。こうしたさまざまな経験を生かしたいという思いもあって「蕎麦屋」という名前にもしたくなかったし、「日本料理」というカテゴリーを決めつけるのも嫌だったんです。お客様が「これが食べたいんだけど」と言われたときに応えられる料理人になりたいという思いから「料理人 江川」と名付けました。

今後の抱負をお聞かせください。

 2009年11月にお店をオープンしましたが、まず2、3年は土台を築きたいですね。お店を大きくしたいという思いはありますが、人が育たない限りお店の拡大はないと思っています。また、ホームページをはじめとする広告掲載を一切していません。それでもいろんなご縁があっておかげさまで口コミで広まっています。本当に感謝しています。今後も今のペースで続けて行きたいと思っています。

1966年生まれ、大阪のあべの辻調理師専門学校に学び、帝国ホテルとホテル西洋銀座の吉兆を経て、その後も東京都内のお店で修行を積む。1995年8月から1997年7月の 2年間、駐米日本国公使の公邸料理人として勤務。帰国後は茅ケ崎グランドホテルや銀座Leとよだ(現在「銀座とよだ」、仙台のホテルモントレで料理長をした後、2009年11月に文京区本郷に「料理人 江川」をオープン。

料理人 江川 
TEL :03-3818-3575
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-11

営業時間:
昼(火)~(金) 11:30-14:00 手打ちそばのセットメニュー、予約制会席
夜(月)~(土) 18:00-22:00 コース料理のみ
定休日:日曜日、祝日

アクセス:東京メトロ 丸ノ内線および都営地下鉄 本郷三丁目駅より 徒歩5分

写真:君和田 富美夫

English Page →