越後上布 雪国で育まれた伝統の布

2015-04-20

 

越後上布 雪国で育まれた伝統の布

 

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本州有数の豪雪地帯において1200年以上前からの伝統的な名産品である織物の製造が綿々と受け継がれてきている――平成21年にユネスコ無形文化遺産リストに登録された「越後上布(えちごじょうふ)」である。日本が世界に誇る無形文化財の織物について、伝統工芸の継承と公開、後継者育成を行っている「塩沢つむぎ記念館」の南雲正則館長にお話を伺った。

 

雪国で発達した織物文化

 織物の中でも日本人に太古から馴染みが深かったものは、もっぱら麻であった。綿は江戸時代になってから広まった。もともと絹もあったが一般には手が届く繊維ではなかった。麻織物は全国にわたって普及・多様化し、中でも新潟県塩沢地域では、全て昔ながらの手作業による伝統的な生産技術が今日に至るまで綿々と受け継がれ、高品質の織物を世に送り出してきた。
 この地域は、かつては11月から4月にかけて雪に深く閉ざされる土地であった。農作業ができない冬場の半年間に屋内で行える現金を得るための作業として、織物作りは農家にとって大きい意味を持っていた。生活を左右するものであったので、趣味道楽ではなく、命懸けで取り組まれてきた。農作業ができない間に女性が担う家計を支える織物作りは、娘の頃から女性の天職として母親・祖母から受け継がれてきたのであった。

麻から糸へ

 越後上布の原料は苧麻(ちょま)という麻の一種である。苧麻以外の麻は丈夫で、ロープや麻袋には向いているが、苧麻は色が薄くて衣料用に適している。
茎の皮を剥いで除き、板の上で金具でこすると、柔らかい組織と硬い繊維(筋の部分)が分離する。繊維をさらに爪で髪の毛よりも細く割いて、つないで長い糸を作る。「越後上布」では割いたそのままの太さが糸となり、より合わせない。どれだけ細く割かれているかによって、織物の価値が左右される。
 出来上がった糸をまとめて、雪の上で太陽光にさらすことによって他のどの産地よりも白度の高い糸が得られてきた。

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柔らかい組織を取り除く。
さらに爪で髪の毛よりも細く割いていく。
2本の繊維をつないで、
長い糸にしていくところ。
この細さの糸が織り上げられる。

文様に合わせて糸を染色

 織物を彩る文様は、図案に合わせて前もって染色し分けた糸を使用して織り上げられている。こうして織られたものは「絣(かすり)」といわれる。越後上布の最大の特徴は「くびり」という文様づくりの技術である。「くびり」の技法では、糸を染色する前に図案から白くしたい部分に合わせて糸に印を付けて、その部分を別の糸でしっかりとくびって、染料が染み込まないようにする。糸全体を染料の中に漬けた後、くびった糸をほどくとその部分が白く残り、それを織り上げると文様になる。

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染色前の糸の束。染めない
箇所が白い綿糸でくびられて、
毛羽立って見える。
くびった糸を染色後にほどいた
糸の束。束を解いて糸に戻し
て、横糸として織り上げる。
横糸は文様に合わせてくびられた部
分が染め残されている。これを1本
ずつ織り進めて、文様を作り出す。

 白地の織物の場合は、色を付けたい部分のみにへらで色を刷りこんで染色する。へらで刷り込んで色を付けた部分以外の生地に色を付けたいという場合は、刷り込んで色を付けた部分を糸でくびって染料が染みないようにしてから、糸全体を染める。使用する色が多ければ、それだけの色を手作業で刷り込み、色を残したい部分をくびってから染料に漬けるのである。気の遠くなる細かい作業が続く。

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白地の織物に多色で文様を付ける場合は、
文様に合わせてあらかじめへらで色を刷り
こんだ糸を織り上げる
さらに生地に色を付ける場合は、へらで染色
した部分を糸でくびって覆ってから、糸全体を
染色するという手間を掛ける

 1尺(38センチメートル)幅で織る織物の長さは13メートルある。横糸は、1分(ぶ)(3.8ミリメートル)の間に9本の糸がある。細かい文様であるか、文様に含まれる色数が多いか、文様のサイズが大きいかによって織物が評価され、価格にも反映されるのである。

ひたすら精緻に機織り

 織る際には「居座機(いざりばた)」が用いられる。床に座り、経糸(たていと)を腰当で引っ張って織り進める。経糸がずれてしまうと調整が困難なので、常に腰で張力を微妙に加減する。麻糸は乾燥すると切れやすくなるので、糸に潤いを与えながら機織りの作業は進められる。

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居座機 水を含んだ綿で潤す。

 越後上布はパタパタと小気味よく織られるものではない。染め分けた部分が寸分たがわず正確に文様と合うように、横糸を1本通すたびに念入りに調整を加えていくことによって、図案どおりの文様が織り上げられる。1反(和服1着分の布地)を織り上げるのに、毎日早朝から始めて夜なべしても3カ月から6カ月かかり、基本的に一冬に1反が作られる。
 越後上布を織るのに最適なのは真冬である。この地域は現代でも毎年約2メートルの雪に覆われるが、昔はもっと積もった。こんこんと降り積もる雪にうずもれる家屋の1階は低温多湿状態になり、屋外作業ができない時期に家内での生産作業として乾燥に弱い麻糸を織ることは、土地の風土に大変適していた。

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足裏を使って糊落とし

 織り上がった後は、糸に含まれる糊を落とす。糸の滑りを良くして作業しやすくするために、麻糸には糊が付けられており、お湯で揉んでから、冷水に浸して足で踏みつける。「足踏み」作業には経糸と横糸の目を詰まらせて生地を安定させる役目もあり、足の裏から伝わる微妙な感触により生地の出来上がりを予測しながら全体に均一に行われる技量が求められる。

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雪の上で日光にさらして漂白

 最後の工程として、雪の上に生地を広げて漂白する。雪の表面に紫外線が当たることによってオゾン(O3)が発生する。このオゾンの漂白作用によって、植物繊維にある色素が漂白される。白いものはより白く、色物はより鮮やかになる。春先にまだ雪一面に覆われた田畑の雪の上に、冬の間に織り上げた布を広げ、天日に1週間から10日間さらす。

守っていきたい匠の技

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 こうして出来上がった越後上布は、通気性に富み、さらりとした着心地の夏の着物に用いられる最高級の麻織物である。透けるほどに薄い麻布は、表面はさらっとして、ひんやり感があるが、その触感はとても柔らかい。精緻な作業による雪国の織物は、将軍・大名など広く全国の権力者へ献上される品として高い評価を得られた。
 麻糸の手績(う)み、「くびり」による模様付け、居座機での織り上げ、足踏みによる脱糊(だっこ)、雪ざらし、という手作業による工程の技術力が結集して、今日のレベルの高さに至った。江戸時代以前は、全ての工程を各農家で行ってきた。その後、麻の栽培や染色などの分業が始まり、織物としての完成度はさらに高まった。
 “これらの技術は、雪国としてこの地方の文化の特質を有するとともに、原料から加工技術の全般にわたって純粋に古法を伝えていて貴重な存在である。”――昭和30年、こうした5つの伝統的な工程を経る越後上布は、国の重要無形文化財技術として指定された。半世紀後、古代から変わることなく受け継がれてきた製造技術が世界にも認められ、近接する小千谷地域が生産地である「小千谷縮(おじやちぢみ)」と併せて、ユネスコ無形文化遺産リストに登録された。

伝統の継承と革新

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 「何でもお尋ねください。」
親切な南雲館長

 塩沢で作られる絹織物の「塩沢紬(つむぎ)」「本塩沢」「夏塩沢」も評価が高く、近年には麻と絹や綿を交織した織物も生み出されている。「伝統というのはどこかで変革をもたらさないと、廃れていってしまう。変化を求めないと、ただの古ぼけたものになってしまい、死んでしまう。織物に限ったことでなく、全てがそうである。守るためにこそ変革が必要である。いくら良いものを作っても、着る人や使う人がいなくなったら成り立たない。変革しないと若い人もやりたがらない。」こうした館長の言葉には、伝統を維持していくことの難しさと、古来の製法を守りつつ新しいものを取り入れていくことの大切さがうかがえた。

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取材協力・写真提供
織の文化館 塩沢つむぎ記念館
〒949-6408 新潟県南魚沼市塩沢1227-14
TEL.025-782-4888 FAX.025-782-1148
http://tsumugi-kan.jp/

写真提供
塩沢織物工業協同組合

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