織物の中でも日本人に太古から馴染みが深かったものは、もっぱら麻であった。綿は江戸時代になってから広まった。もともと絹もあったが一般には手が届く繊維ではなかった。麻織物は全国にわたって普及・多様化し、中でも新潟県塩沢地域では、全て昔ながらの手作業による伝統的な生産技術が今日に至るまで綿々と受け継がれ、高品質の織物を世に送り出してきた。
この地域は、かつては11月から4月にかけて雪に深く閉ざされる土地であった。農作業ができない冬場の半年間に屋内で行える現金を得るための作業として、織物作りは農家にとって大きい意味を持っていた。生活を左右するものであったので、趣味道楽ではなく、命懸けで取り組まれてきた。農作業ができない間に女性が担う家計を支える織物作りは、娘の頃から女性の天職として母親・祖母から受け継がれてきたのであった。