萬祝 大胆な色彩を誇る伝統的染色技術

2011-04-01

大胆な色彩を誇る伝統的染色技術

萬祝 染元 「鈴染」 鈴木幸祐さん

 

pdficon_largetopics_map

 

千葉県房総半島――この地域は昔から漁業で栄え、江戸時代、海に生きる漁師たちの間で、大漁を祝う「萬祝(まいわい)」という文化が生まれました。今回は、祖父の代からその伝統と技法を受け継ぐ萬祝染元「鈴染」の三代目鈴木幸祐さんにお話を伺いました。

◇萬祝の歴史を教えてください。

 もともと「大漁祝い」のことを萬祝と言ったんですけど、それが次第に桁外れの大漁のとき、船主が漁師さんにお祝いの品として配った着物のことをさすようになりました。着物と言っても配られたのは反物で、それを漁師さんの奥さんたちが長着(ながぎ)や半纏(はんてん)に仕立て、お祝いのときに祝着としてみんなそろって着ていました。
 萬祝発祥の地は、千葉県房総半島と考えられていて、青森から静岡までの太平洋沿岸に広く普及していきました。文献によると、1800年ごろにはすでに萬祝の着物を作る風習があったそうですが、昭和30年代には大漁のときに萬祝を配ることも着ることもなくなり、時代とともにお祝いとして配られる品は、ジャンパーなど実用品や現金支給(ボーナス)へと変わっていきました。

◇この道を志したきっかけや経緯をお聞かせください。

 生まれたときから祖父や父が染物をやっていたのでその姿を見て育ちましたが、私は数学や物理が得意で、大学では化学を専攻し教師になろうと思った時期もありました。しかし萬祝のまるで江戸時代の火消し装束のような、男性的な派手やかさが好きで、次第に自分でも染めてみたいと思うようになりました。そして、大学を卒業後、本格的に家業を継ぐことを決めました。

 

 

◇萬祝の魅力をお聞かせください。

 萬祝の図柄は、一般的に背と裾の部分に描かれています。背には家紋、船印や船名を入れ、裾には鶴亀や松、宝船など縁起の良い題材や大量に捕れた魚などが描かれます。色付けには、5原色の顔料に大豆のしぼり汁を混ぜて、一色一色刷毛を使って行うのですが、色と色の境をぼかしてグラデーションをかけることで立体感を出します。そうやって染め上げた萬祝を漁師さんが羽織ることで背中と裾に描かれた柄が力強く映えて、周囲の人に「豊漁」だったことを誇るんです。そんな男性的な華麗さに萬祝の魅力を感じます。

 

◇江戸時代からどのようにして萬祝染めを守って来たのですか?

 祖父は、江戸時代から続く染物工場で修行し、大正14年に鈴木染物店を創業しました。その2年前の関東大震災のときに古い資料をほとんど紛失していましたが、染色の技法は祖父から父、そして私へと確実に受け継がれてきました。残念ながら、鈴染四代目として萬祝染めの技法を受け継ぐ職人はいないのですが、10年ほど前から、地元の学生などを対象に自宅の工房や博物館などで染色体験教室を開いて、萬祝染めを後生に伝える取り組みをしています。

 

◇一人前になるにはどの程度かかるのですか?

 1反を仕上げるのに、型紙作成、色差し、地染めなど、12の工程がありますが、その一通りの作業ができるようになるまでにはやはり10年ぐらいかかります。萬祝の需要は減りつつありますが、自分が作った作品を喜んで着ていただいたり、修理や複製に携わった作品を博物館などに長い間大事に飾っていただいたりすると、やっぱり職人になって良かったと思います。

 

 

◇今後の取り組みや目標についてお聞かせください。

 これまでは長着とか半纏とか着物形式ばかり作ってきましたけど、今は萬祝の技法を応用して、アロハシャツや帽子、かばんなど身近な商品も製作しています。将来的には、これらの作品が外国の人にも受け入れてもらえればと思っています。

 


【鈴木幸祐氏プロフィール】

1954年千葉県鴨川市生まれ。東京理科大学理工学部卒業後、家業である萬祝染めの三代目を継承。1997年萬祝が千葉県指定伝統的工芸品に指定。色彩検定1級、クリーニング師、危険物取扱者、ボイラー技士など資格取得が趣味。

 

萬祝 染元「鈴染」

http://www.awa.or.jp/home/suzusen/

 

写真:君和田 富美夫

 

PAGE TOP▲

Copyright © 2017 IHCSA. All Rights Reserved.