「お客様と手配に係わった人みんながハッピーになれる喜び」
― コンシェルジュとして日々心掛けていることとは何でしょう。
お客様からはいろいろな要望がありますが、無理難題を解決することだけがコンシェルジュの使命だとは思っていません。
基本的な案内や手配でもただ伝えるのではなく、どう相手に伝えるかが重要になってきます。例えばレストランの予約1つとってみても、まずはお客様の欲していることをつかみ、最適なお店を選び、レストラン側にはお客様のご要望をしっかり伝える。そのことによりお客様には、よりおいしく、もっと楽しく感じていただけるのです。
その結果、お客様はもとより手配に係わったみんながハッピーな気持ちになれるのです。
コンシェルジュは、そのときのお客様の様子を見て、何を望んでおられるのか、何をして差し上げたら喜んでくださるのかを常に考えています。
「19世紀中頃、ヨーロッパに現れたコンシェルジュ」
― コンシェルジュの歴史を簡単に教えてください。
コンシェルジュの原型は、中世ヨーロッパの旅籠みたいなところでお客様のお世話をする者や、貴族の屋敷で門番や、夕暮れになれば各部屋を回り、ローソクに火をともす者だったといろいろな説があり、定かではありません。
フランス国王ルイ16世の王妃マリー・アントワネット(1755-1793)も幽閉されたコンシェルジュリー(かつて宮殿で、牢獄として14世紀後半から20世紀初頭まで使われていた)の扉には、ここに住んでいる人たちの世話をしている係りを「コンシェルジュ」と呼んだ、という明記があります。
ホテルにコンシェルジュが現れたのは19世紀中頃のヨーロッパで、仕事はグランドホテルと呼ばれる大きなホテルの玄関でお客様をお迎えし、お部屋の鍵をお渡しすることでした。
20世紀に入ると貴族をはじめとするVIPから頼まれるあらゆるリクエストに的確に応えることで、信頼を得て仕事の質と社会における地位が向上していきました。
「外の世界にも目を配り情報網を構築する」
― 外国と日本のコンシェルジュとでは何か違いはありますか。
100年を超える歴史あるヨーロッパのコンシェルジュと、その職種が現れてからまだ30年足らずの日本とでは、歴史も力も全然違います。それが世間における認知度にも表れています。
欧米のコンシェルジュは裁量も与えられており、仕事の幅も広いので、各業者は自分たちの商品やサービスの内容を知ってもらおうと演劇やコンサート、レストランなどに招待します。
コンシェルジュは、招かれたレストランのサービスが良く味もおいしければ、お客様をどんどんご案内します。
残念なことに、日本の社会ではコンシェルジュの役割や重要性がまだまだ知られていないので、業者さんたちは招待どころか、なかなか協力もしていただけません。
コンシェルジュは劇場やレストランなどの情報をたくさん持っていれば、お客様の要望にも的確に応えることができます。
今の日本では、コンシェルジュが積極的に、外の世界に興味を持ち、日ごろから劇場、レストラン、フラワーショップなどの関係者とも広く良い関係を築いておくことが肝心です。
「また来てもらうための最高のおもてなしを求めて」
― 今後の抱負をお聞かせ下さい。
コンシェルジュとは、お客様の気持ちを読み取り、お客様の期待を超えたおもてなしをすることだと思っています。
お客様には、素の自分ではなくそのホテルの一コンシェルジュとして接しなければなりません。そのためには、ホテルマンとしてプロの意識を持ち、常にその役柄を演じる必要があります。
私は、お客様に”あの”コンシェルジュがいるグランド ハイアット 東京にまた泊まりに行きたいと言っていただけるようなおもてなしを心がけています。そして本当にまた来てくださったときに喜びを感じます。
ホテルの国際的なサービスと日本旅館の女将が持つ伝統的な日本独特のおもてなしを融合させたような、日本ならではのコンシェルジュを確立し、その質を向上させ、世界にもアピールしていきたいと思っています。