新しい日本文化 ~「カプセルトイ」の世界~

新しい日本文化 ~「カプセルトイ」の世界~

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カプセルトイは日本の日常風景

 一般的にはガシャポン、ガチャポン、ガチャガチャなどと呼ばれるカプセルトイは日本中いたるところにある。スーパー、駄菓子屋、ショッピングモール、ドラッグストア、レストラン、観光地、美術館、高速道路のパーキングエリア……。子どものときは祖父母にねだった。カプセルトイの機械の前で「もう一回だけ」、と泣く子ども。親となってからは外出中に避けることも難しく苦労をした。日本人なら誰もが経験する日常だ。

 カプセルトイは、小型の自動販売機で、ひとつの販売機に同じシリーズの数種類の商品が入れられており、その中のどれかがランダムに出てくる。通称のガシャポンという名前はオノマトペで、「ガシャ」っとハンドルをまわし、「ポン」とカプセルが出てくる音をあらわしている。遊び方は簡単。コインを入れてハンドルを回すだけ。一般的には100円~500円くらいで、200円、300円のものが多い。値段も手ごろで、何が出てくるかわからないドキドキ感から、もう1回やりたい、シリーズを全部そろえたい、とついつい財布のひもがゆるむ。

日本におけるカプセルトイの歴史

 カプセルトイは、日本で独自の進化を遂げてきた。元々、1880年頃にアメリカに存在していたキャンディやガムの自動販売機が原型と言われている。それがガムボールマシンと呼ばれる機械に進化した。機械は改良され、キャンディやガムと一緒におまけも入るようになったが、当初、商品はカプセルに入っておらず、おまけはキャンディなどと一緒にまざっていていた。そのため、故障も多かったという。1956年にアメリカで衛生的で壊れにくいカプセルが開発され、カプセルトイが誕生した。当時のアメリカのメーカーは中に入れるおもちゃを作るために、ハイレベルの職人を日本や香港で探して依頼していたそうだ。

 現地での人気を受け、日本には1965年にアメリカから輸入されて入ってきた。当時はほとんどが安価で軽量な子供向けのおもちゃだった。1970年代には日本全国に広がり、1970年代後半から1980年代にはスーパーカー消しゴムやキン肉マン消しゴムなどが一世を風靡(ふうび)した。中にはキャラクターによく似た(が本物とはちょっと違う)消しゴムや不思議な変身ロボットなどの少し怪しいおまけもあったが、それも含めて多くの子どもたちを引き付けてきた。

 日本ではこれまでもアニメやマンガなど、外国では子ども向けと思われたものが質の高い新しい文化へと変わってきた。カプセルトイも、外国では子ども向けのそれほど高くないおもちゃというイメージがあるが、日本では1990年代以降は子供向けだけでなく、より精巧な、品質の高い大人向けの商品も企画され、作られるようになっていった。

 2012年に、「コップのフチ子」というシリーズが発売された。これはコップのふちにさまざまなユニークなポーズで腰掛けたりひっかかったりする女の子のフィギュアで、シリーズ化され大ヒットとなった。のちに書籍が出版されたり、展覧会が開かれたりしたほどである。この頃から若者~大人向けの面白い、話題になりそうなものが次々と開発された。

 日本は伝統的にもミニチュア化することに長(た)けている。古くは漆芸や金工などによって細密な技術をほどこした印籠や根付、お雛(ひな)様やその調度品、盆栽などがあり、新しいところではトランジスタラジオやウォークマン、プラモデルやフィギュアなどがある。フィギュアで有名な海洋堂が作るカプセルトイには仏像や日本の郷土玩具、恐竜、戦車などがあり、精巧なつくりで人気が高い。子どものおもちゃとして始まったカプセルトイも、今ではむしろ学生や大人がコレクター的に楽しんでいるように思われる。

 2022年5月現在、特に流行しているものの例としては「いきもの大図鑑」シリーズや、猫のペンホルダー、押しボタン、またカプセル自体がフィギュアの一部になる商品などがある。また一つのジャンルとして、企業とコラボしたものなどにも人気がある。例えばレストランや食品メーカーとコラボした食品サンプルやアウトドアメーカーのキャンプ用品のミニチュアなどだ。新しい商品はどんどん開発され、一度売り切れてしまうと新しい商品に入れ替わってしまう。そのため、気に入ったものを見つけたらそこで購入しないと二度と出会えないかもしれない。一期一会だ。最近話題となった変わったカプセルトイには、赤の他人の証明写真、おじいちゃん・おばあちゃんからの手紙など、普通では考えつかないようなものもあり、こういったものが最近はSNSで話題となることも多い。また観光地限定、期間限定のものなどもあり、コレクターにも人気だ。

カプセルトイカルチャーの新名所

 ガシャポンのデパート池袋総本店は2021年2月にオープンした。全国に展開するガシャポンのデパートの旗艦店舗だ。アート、カルチャーの発信地、東京・池袋でガシャポンの新しい楽しみを提案する体験型の売り場で、日本を代表するトイカルチャーであるカプセルトイのカルチャーをアップデートすることをコンセプトとしている。台数は世界最大級の3000面以上を誇り、2021年3月には「単一会場におけるカプセルトイ機の最多数」でギネス世界記録に認定されている。ちなみに「ガシャポン」という呼び名はバンダイの商標である。(ガチャポンもバンダイ、ガチャガチャは複数の会社、ガチャはタカラトミーアーツの商標である。)バンダイは1977年にカプセルトイに参入し今年で45 周年となる。

 入口から、従来のガシャポンのイメージを覆す、遊園地のような楽しさを感じる。展示は時々で変わるが、2022年5月現在ではガシャポンの歴史が展示されている。入口の奥には世界に2台しかない、総製作費1億円以上という「未来のガシャポン自販機のコンセプトモデル」として開発された「ガシャポンオデッセイ」も2023年2月末までの期間限定で展示されており、実際にコインを投入して体験することも可能だ。

 家族連れはもちろん、友達同士で来ている中学生や高校生、デートを楽しむカップル、昔を懐かしむ大人と、幅広い年代の人が訪れている。広い店内にギッシリとガシャポンの機械が並んでいて、まるで迷路のようだ。見て回るだけでも楽しい。実際に歩いてみると考えていた以上にいろいろな種類がある。デパートと呼ぶにふさわしい幅広いラインナップがそろっている。子どものキャラクターやおもちゃ、面白グッズ、アニメやマンガのキャラクター、動物や昆虫、恐竜などの精巧なフィギュア、実用的なものもあり、キャラクターのクリアファイルやポーチ、エコバッグなどもある。変わったものでは押しボタンや信号、電車の座席のミニチュアなど。ちょっと欲しい、なんとなく気になる、と思えるものばかりだ。最近ヒットしたものの1つに「おにぎりん具」というシリーズがある。これはおにぎりの型のケースの中におにぎりの具材の食品サンプルがついた指輪が入っているというもので、SNSで話題となった。

日々のガシャ活を豊かにする新体験!

 店内にある「バンダイガシャポンコーナー」には、他ではなかなか見つけることができない「プレミアムガシャポン」が並んでおり、1個800円~1500円くらいの高品質のカプセルトイも販売。「プレミアムガシャポン」はカプセルの常識を超える驚異的な製品仕様のこだわりのハイクオリティカプセルトイだ。

 また、現在はコインだけではなく、キャッシュレス決済対応の機械「スマートガシャポン」が駅などを中心に導入されている。ここでは、その「スマートガシャポン」を体験することもできる。「バンダイガシャポンコーナー」の商品は、WEBページから在庫の検索ができるので、お店を訪れる前に欲しい商品の販売状況を確認することも可能だ。

100円玉を握りしめて早速体験

 さんざん迷った挙句、バンダイ「ガシャポン」45周年を記念して歴代のガシャポン自販機がカプセルトイとなったガシャポンを体験してみた。歴代のガシャポンの機械のミニチュアが全部で6種類ある。コインを入れて、ハンドルを回す。カプセルを開けるときのドキドキ感。家に帰って組み立ててみて驚いたのは、実際に小さなカプセルまでついていて、小さなハンドルを回すと本当にカプセルが出てくる。ここまで精巧なつくりとは!と驚いた。シールを貼るとまるで本物。ミニチュアが好きな方にもお勧めする。もう1つ、「ニンジャ・キャット」にもトライ。小さなネコの忍者フィギュアが入っていて、付属の小さなお面で変装もできる。こちらも精巧な作りだ。

おみやげにも最適

 ガシャポンは一部の海外の方も注目しはじめている。現在海外の方に人気があるのは主にアニメやマンガのキャラクターグッズだそう。日本では伝統的に小さな物を精巧に作る技術が発展しているので、さまざまなミニチュアグッズや古き良き日本のフィギュア、日本の信号機などもユニークな変わったおみやげによいかもしれない。食品サンプルのキーホルダーなどもある。

 海外からの旅行者の楽しみ方としては、お値段も手ごろなのでお友達へのバラマキのおみやげにも向いている。埴輪(はにわ)のぬいぐるみなどのくすりと笑えるもの、日本の電車の座席や信号機、食品サンプルなど日本の日常が感じられる日本独自のもの、古い車やカセットテープ型のポーチなど懐かしいものがたくさんある。持ち帰りにもカプセルに入れていけば壊れる心配も少ない。また、この施設は屋内なのでどんな天気でも楽しめる。ショッピングモール内にあり、他にも人気アニメキャラクターのショップや洋服店、雑貨店、レストランなどがあるのも魅力。また、通常の博物館や美術館、庭園などは夕方4時半頃に閉まってしまうところが多いなか、ここは夜10時まで営業しており、入場自体は無料。少し見るつもりが、30分くらいすぐに経ってしまう。

 ガシャポンのデパート池袋総本店ではお気に入りのアイテムを楽しく撮影する「ガシャ撮りスポット」も自由に利用できる。背景には東京の風景の写真もあり、良い記念になると思われる。ガシャポン購入時にはコインを使用するが店内には両替機もあるので、1000円~10000円のお札しか持っていなくても大丈夫。

 カプセルは持ち帰ってもかまわないが、再利用できるのでカプセルを返す場所もある。空きカプセル回収のガシャポイントステーションもおもちゃのように楽しいデザイン。子どもも遊ぶ感覚で楽しみながらカプセルのリサイクルをすることができる。

 ガシャポンのデパート池袋総本店の支配人鶴田友亮(ともひろ)さんにお話しを伺った。

Q 海外のからのお客様は多いですか? 
A オープンしたのが2021年のコロナ禍だったため、まだほとんどいらっしゃっていません。日本在住の方が少しいらっしゃっているくらいです。

Q 海外のお客様に向けてガシャポンの魅力を伝えていただきたいのですが、何が一番のアピールポイントでしょうか?
A 自分の好きな物にいつか出会えるんじゃないかというワクワク感かなと思います。バリエーション豊富な商品がそろっているので、どなたでも好きなものを見つけやすく、“好き”に出会える可能性が広がっている場所だと思っています。それをぜひ見つけていただいて、日本の思い出の一つにしていただければと考えております。

Q 外国語のパンフレットやホームページはありますか?
A 今、外国語のパンフレットはありませんが、見て、お金を入れてガシャ、なので、たぶん言葉は不要だと思います。一目で遊び方や商品のイメージがわかる場所でもあるので、自分なりの楽しみ方を考えて回っていただけると思います。まずはぜひ直接来ていただきたいです。3000面以上の台数が置いてあるのは、(世界でも)ここだけなので、自分が想像しえないものが見つかるかもしれないという楽しさを味わっていただければと思います。

Q 対象年齢は?
A 本当に幅広いお客様がいらしていて、小さいお子様を連れたご家族から、ご年配の方までいらっしゃっています。お子様は当然キャラクターものを中心に興味を持たれるのですが、大人の方ですとかご年配の方は昔あったものを懐かしむような、ノスタルジックなものに興味を示されます。しかもすごく精巧なつくりのものがいっぱい出ていて、それを見ながら「昔こうだったよね。」というような楽しみ方もできるので、いろいろなお客様にお楽しみいただける場所だと思います。

Q コロナ禍ということで、現在は外国からのお客様は少ないかと思いますが、コロナ終息後は海外のお客様はもちろん増えると思います。特に海外のお客様へ向けてのメッセージはありますか?
A こういったガシャポンが盛り上がるという状況は日本独自の文化だと思います。思いがけないような商品があふれているので、ぜひ一度実際に見に来ていただきたいと思います。こういったものがあるんだということを親しい方にお伝えいただければ、もっと盛り上がるようになるのかなと思っていますので、心待ちにしています。

 

 ここに来ればあらゆるものに出会える。日本のものづくりに対する情熱とこだわり、小さなものに対する愛情、そして日本の生活の一端が見える。日本人が興味を持つもの、ユーモアの感覚も見える。現在は、日本国内であればオンラインでガシャポンを楽しむこともできるそうだ。これからも時代を超えてますます進化していくカプセルトイから目が離せない。

《取材協力》
ガシャポンのデパート池袋総本店
〒170-0013
東京都豊島区東池袋3-1-3サンシャインシティ ワールドインポートマートビル3F
電話:050-5835-2263
営業時間:10:00~22:00
定休日:年中無休

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※営業日や営業時間の急な変更は、Twitter (@gasha_ikbkr)で告知。

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