小湊鐵道・いすみ鉄道 彩りの春

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小湊鐵道(こみなとてつどう)
 千葉県市原市の五井駅を起点とする39.1 kmの単線鉄道であり、前身はかつて房総半島で鉄道を運営していた九十九里鉄道である。現在は小湊鐵道株式会社が運営している。房総の住民の足になろうと1923年に起工され1928年に全線が開通。当初は太平洋側の安房小湊駅付近を終着駅にと想定していたが、当時国鉄木原線(現いすみ鉄道)が上総中野まで延伸を進めていたこともあり、また資金難のため上総中野駅で工事を断念したようだ。
 18の駅を有するがそのほとんどが無人駅である。終点の上総中野駅はいすみ鉄道との共同運営となっている。車両は旧型のキハ200型を使用しており、加えて非電化・単線の路線で、首都圏にありながら駅舎や車両などノスタルジックな雰囲気を残しており、鉄道ファンはもちろん、一般の観光客たちからも人気となっている。「小湊鐵道とその沿線の景観」は千葉県によって、「ちば文化資産」の一つに選ばれている。
 乗客は年々減少しており、場所と天候によっては、乗客よりも沿線で列車を撮影する人の方が多い場合がある。2015年に「房総里山トロッコ」列車の運行を開始したが、2020年春の新型ウイルス発生の影響で運休している。また、2019年の房総半島台風による被害では、一部区間の運休を余儀なくされたが、2020年3月現在は全線開通している。

上総三又(かずさみつまた)駅   動画:https://youtu.be/nkBcx2R_BZQ
 住宅街の一角に佇む無人駅で、1日平均100〜180人程度の乗降客がある。五井寄りの海土有木(あまありき)駅から真っ直ぐに伸びる線路が印象的である。沿線には水田や畑が広がり、四季によってそれぞれの景観を楽しむことができそうだ。その向こうには市原の都会の景色が広がる。

上総川間(かずさかわま)駅   動画:https://youtu.be/Qu-aXT74A5I
 田畑の真ん中に忽然と現れる小さな駅である。周囲には住宅は見当たらず、線路と路(みち)、そして小さな駅舎だけがある。駅舎の待合室は6畳間ほどの広さで、雨風をしのぐ場所といった感じである。こちらも真っ直ぐに線路が伸びていて気持ちが良い。

上総鶴舞(かずさつるまい)駅   動画:https://youtu.be/RbCr3RVUt-g
 この駅は関東の駅百選に選ばれ、国の登録有形文化財に登録されている。趣のある駅舎であるが、現在は無人となっている。かつての賑わいを感じさせるような雰囲気がある。上総鶴舞駅から下り方向へ300 mほど行くと、沿線が菜の花で囲まれた場所を発見した。そこをゆっくりと列車が通過してゆく。新緑の緑と菜の花の黄色、そして列車の少しくすんだオレンジ色がのんびりとしたローカルの雰囲気を醸し出している。

上総鶴舞駅 駅舎
上総鶴舞駅ホーム

高滝(たかたき)駅   動画:https://youtu.be/bmy_KOL4DZg
 こちらも国の有形文化財に登録されている高滝駅から400 mほど下った所、高滝湖のすぐ横に見事な菜の花の群落があった。鮮やかな黄色の絨毯の向こうには桜の木を見ることができる。撮影時桜はまだ七分咲き程度であったが、菜の花の黄色とのコントラストが見事で、まさに彩りの春の絵である。

上総大久保(かずさおおくぼ)駅   動画:https://youtu.be/z61M5gbzTek
 ここも無人駅で待合室はなく、ホームの屋根がある部分が待合室を兼ねている。2019年の房総半島台風の被害により、この区間は不通となっていたが、現在は開通している。駅の横にはここにも菜の花の群落があり、桜の花々がそれを見下ろしている。30秒ほど停車した列車は、警笛を鳴らすとゆっくりと駅を離れ、春の日差しを全身に浴びながら進んで行った。

石神の菜の花畑(いしがみのなのはなばたけ)   動画:https://youtu.be/J-Z2dDa_uQg
 養老渓谷(ようろうけいこく)駅の手前にあるのが「石神の菜の花畑」である。広大な面積に菜の花が植えられ、現実のものとは思えないほどの美しさである。鉄道ファンにはあまりにも有名な場所で、列車が通過する時刻になると大勢の方々が三脚を立てたり、カメラを構える。この菜の花は農家の高齢化によって休耕田となってしまった場所に、地元のボランティアによって植えられたという。近隣の企業が広大な駐車場を無料で提供しており、鉄道ファンも利用する。ちょうど通りがかったドライバーが話しかけてくる。「今日は何かのイベントですか?」あまりの賑わいに驚きを隠せない様子。「この季節の晴れた日はいつもこんな様子なのでは無いでしょうか。」応えると、さらに驚いていた。道路脇から菜の花畑を見下ろし、多くの人がカメラを構える様子を目にしてようやく納得した様子だった。

カメラを構える鉄道ファン

いすみ鉄道
 地元の住民の強い要望があり、1925年に着工が承認され、1930年に「木原線」として開業した旧国鉄の路線である。1987年にJR東日本に承継されたが、1988年地元の第三セクター方式で「いすみ鉄道」として転換された。運営はいすみ鉄道株式会社で、沿線の自治体が主要株主となって、中間ほどにある大多喜駅に本社を置く。全線26.8 kmに14の駅があり、そのほとんどが無人駅である。車両はいすみ300型など、比較的新しい車両を運行させているが、週末には、旧型の「キハ28」を使用してグルメ列車「レストラン・キハ」を運行するなど、様々な企画を行なっている。
 本社がある大多喜町は古くから城下町として栄えてきた。大多喜城は徳川四天王の一人、本多忠勝が城主であったことでも知られている。そのせいだろうか、大多喜には古くしっかりとした建物が多く、街並みはどこか品位を感じる。小湊鐵道同様、非電化・単線に加えて質素な無人駅がほとんどであり、ローカル色の強い雰囲気が人気となっている。

久我原(くがはら)駅   動画:https://youtu.be/DcpvkA1TMjY
 2009年に地元大多喜町に本部を置く三育学院大学が命名権を取得し、駅名表記に大学名を冠している。小さな無人駅であり、ホームと風雨をしのげる屋根があるだけである。駅を少し進んだ所に数本の桜の木があった。その横を列車が出発して行く。のどかなローカル鉄道の絵である。

上総中川(かずさなかがわ)駅   動画:https://youtu.be/M_Td_Om-iKI
 大多喜駅を過ぎて2つめの上総中川駅を500 mほど進むと、田園地帯に出る。その真ん中の堤防の上を線路が走る。
 ここも鉄道ファンには非常に有名な場所である。堤防の中頃に警報機の無い簡素な踏切があるのだが、堤防の下から低いアングルでカメラを構えると、堤防に咲く菜の花と青い空だけを画面に納めることができる。雲も美しい青空と一面の菜の花。そこを1両の列車が通過して行く。他には何も無い。いすみ鉄道の車両、いすみ号が黄色に塗られているのは、沿線の菜の花の色だという。全てがバランスの良い絵のようである。

上総東(かずさあずま)駅   動画:https://youtu.be/3y_IAni9mSE
 いすみ鉄道は海側の大原駅を起点としているため、路線の上りは大原駅へ向かう方向を指す。大多喜駅から5駅目の上総東駅周辺は比較的桜が多く、菜の花との競演を楽しむことができる。まずは上総東駅の下り側、ここも鉄道ファンには人気の場所で、水田の横を通る線路の左右が長さ約100 mに渡って、桜と菜の花で埋め尽くされている。桜と菜の花の間を通過する列車にはどこか嬉しそうな表情を感じる。

動画:https://youtu.be/_GQfu6Yil-c
 次に上総東駅の上り方向、水田の脇に桜の木が並んでいるのを発見。ここを通過する列車はスピードを落とし、ゆっくりと進んで行く。乗客にも桜を楽しんで欲しいという、乗務員の計らいだろうか。

西大原(にしおおはら)駅   動画:https://youtu.be/4DGUjW5_oCo
 起点の大原駅の一つ手前の西大原駅から300 mほど下ると水を張った田園地帯に出た。水鏡が美しい。線路脇にはここにも菜の花が群生し、沿線を賑わせている。

撮影後記
 早春の晴れた日に小湊鐵道といすみ鉄道を訪れた。どちらものんびりとした田舎の空気に満ちており、そこを1時間に1本程度の列車が進んで行く様子は、見事なほど地元に溶け込んでおり、鉄道が単なる交通手段ではないことがわかる。およそ100年間にわたって毎日地元の人や観光客を運んできた鉄道。我々が想像もできない苦労も多々あったことだろう。この地方の土地にあっても、人々は力強く生活を営んでいる。
 沿線を歩いて撮影スポットを探すうち、車の移動では発見できないスポットを数多く発見した。1本の路を進んだだけで景色が大きく変化する場所や、夷隅川(いすみがわ)に沿って走るいすみ鉄道では、橋を渡っただけで別世界の景色が現れた。今回は桜と菜の花に囲まれて、まさに「彩りの春」を数多く捕らえることができた。行く先々で必ず現れる鉄道ファンを見ても、この鉄道の人気の高さには驚く。東京からもアクセスの良い房総半島、暖かくなる頃にはまた違った美しさの景色が現れることだろう。

撮影・執筆/松本 新:SHARATA 株式会社アドワイヅ http://www.sharata.info/
《SHARATAでは、日本の絶景を4K映像で紹介しています。たくさんの方々に多くの絶景をお楽しみいただきたいと考えています。》

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