日本旅館の若旦那になって
タイラー・リンチさんは米国西海岸シアトルで貿易会社に勤務し、日本人の奥様と家族で暮らしていたところ、100年の歴史がある建物を中心に配された奥様の実家の旅館が廃業の危機に見舞われた。この日本旅館のたたずまいは彼にとって大変あこがれの場所であった。跡継ぎがいなくて取り壊されると知り、これほど古い木造の貴重なものは壊してしまうと二度と作れないので、絶対に守るべきだと心が揺さぶられた。
2005年、何をすべきか全く分からない状態で旅館の仕事に飛び込んだ。家族で全てをこなさなければならない中、まず布団の上げ下げから始まった。この作業は当時からずっとタイラーさんが日々作務衣姿で担当しているものの1つである。もともと屋内の浴場だけだったが、お客にもっと寛いでもらいたいとの強い思いから、自ら工具を操って露天風呂を3カ所に新設したり、1階の客室それぞれに特徴を持たせた坪庭を作ったりするなど、自分で作業ができるリフォームは全て自らDIYで手掛けてきた。