相差の海女の優しさとたくましさに触れる

身一つで海中に潜りアワビやサザエなどを採る海女は、世界的にも類まれで、その姿は日本と韓国だけでしか見ることができない。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の人気もあり、注目を集めている海女であるが、現実の海女の世界に目を向けてみると、高値で取引されるアワビの数は減り、若者の成り手はなく、高齢化が進み、海女人口は、現在約2,000人と最盛期(1940年代)の10分の1まで減ってしまった。
そんな状況の下、三世代にわたり海女をしている中川寿美子さん、早苗さん(娘)、静香さん(孫)が、三重県鳥羽市の相差町(おうさつちょう)で頑張っているというので、海女漁の魅力ややりがい等をたっぷり聞いてきた。
また、現役の海女の話を聞きながら焼きたての魚介類を食べることができる「観光客向けの海女小屋」や、女性の願いをひとつかなえてくれる、神明神社(しんめいじんじゃ)の参道にある「石神さん」(石神社)等を訪ねたてみた。

左から母早苗さん、祖母寿美子さん、娘静香さん

海女漁が楽しくて仕方がない

 相差町の漁師や海女の多くは、漁と農業や民宿等との兼業で生計を立てている。親子三代海女の中川家も、「民宿 なか川」を営みながら海女漁を行っている。
「若い頃はとにかく楽しかったさ」と、16歳のときから潜り始めたこの道58年のカリスマ海女の祖母寿美子さん(74歳)は言う。「仲間6、7人と一緒に海底に潜り、網いっぱいにアワビやサザエを獲って陸に上がってさ、かまど(海女小屋)では、暖をとりながら、みんなんで屈託のない話をしたもんさ。昔ほどアワビは採れなくなってしまったけど、今でも潜るのは楽しいよ」寿美子さんが今も現役で海女を続けられているのは、海女漁が本当に楽しいことと、可愛い孫娘、静香さんがいるからであろう。

お客さんの喜んでいる顔をみたくて

 「自分が採ったアワビやサザエなどをお泊りいただいているお客さんにお出しするんですけど、みなさんとても美味しいと言って食べてくれるんです。そのお客さんの喜んだ顔を見たときが、海女そして民宿をやっていて良かったなと思える瞬間です」と話してくれたのは、娘の静香さんと姉妹かと間違われるくらいに若々しい若女将の早苗さん(41歳)。結婚当初は、民宿だけに従事していたが、結婚6年目あたりから自分が獲った魚介類をお客さんに食べてもらいたくなり、海女になったという。「海女漁は、自力で覚えました。経験や勘に頼るところが大きいですね。一度だけ、1回の漁で50キロ、サザエを獲ったことがあるんですよ。それが海女をやっていての一番の思い出かな。静香には、楽しんで海女をやってもらいたいですね」と話すその目には、海女の誇り、若女将の和み、そして母親としての優しさがあふれていた。

相差と家族が大好きだから

 「高校1年生のときに俳優の梅沢富美男さんから高校生海女でアピールしたらどうかとよく言われてはいたのですが、その頃は、海女になろうとは全く思いませんでした。海女になろうと決心したのは、大学進学が決まった高校3年生の冬の頃でした」そう話し始めたのは、趣味は友達と行くカラオケで、歌手の倖田來未(こうだくみ)とモデルのローラが好きという皇學館大学に通う女子大生の静香さん(22歳)。
「人口が少ない相差では、保育園から高校まで1クラスしかなく、みんな一緒だったんです。でも、高校を卒業したら、進学や就職でみんな名古屋や大阪等に行ってしまい離れ離れになってしまう。そう考えると寂しい気持ちになってしまいました。そこで、何かしなくてはいけないと、思い至ったのが海女だったんです」
静香さんは現在、大学の授業、民宿の手伝い、海女漁、そして第57代ミス伊勢志摩としてのPR活動と忙しい毎日を送っているので、生活はさぞ大変ではないかと思いきや。
「相差の女は、みんな本当によく働くんです。漁に出掛け、家事をして、農業や民宿の仕事をしたりしています。そんな環境で育ったせいか、今の生活がハードだなんて思ったことはありませんね。逆に充実していて楽しいですよ」
海女として、妻として、母として休む間もなく働く母や祖母たちの姿を見て育った静香さんには、大変という思いはないようだ。
「来年、就職が控えているんですけど、できれば、モノやサービスなどの価値を伝えるPR系の仕事に就きたいと思っています。でも、三重県を離れたくないんです。だって、自然が豊かで、美味しい魚介類やお肉がたくさんあって、人間が大らか、こんな良い所は、他にはありませんよ。なによりも家族が大好きだから、近くにいたいんです」
郷土愛、家族愛に満ちあふれた静香さんのような若者が増えていけば、地域そして日本の未来は明るい方向へ進んで行くに違いない。
大昔から営まれてきた“海女文化”を世界無形文化遺産にという動きもでてきている。登録されるのも、そんな遠い先の話ではないであろう。

民宿 なか川

 

〒517-0032 三重県鳥羽市相差町480
TEL:0599-33-6868

E-mail: toba.1991_58@plum.ocn.ne.jp
http://www.toba-nakagawa.gr.jp/

相差を歩いてみる

海女小屋体験

 海女小屋とは、板やトタンで作られた簡素な小屋で、海女たちが海に潜り冷えた体をたき火で温めたり、休憩や昼食をとる場所として使われている。中央にかまどがあることから地元では「かまど」と呼ばれている。
 かまどは、採った小魚や持参した弁当などを食べながら漁や家族のこととかを話す海女同士のコミュニケーションの場にもなっている。
そんな海女文化の魅力を味わえるのが、観光客向けの海女小屋として人気のある「相差かまど」。現役の海女さんの話を聞きながら食べる焼きたてのアワビやサザエの味はまさに格別。
海女小屋は、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで一つ星に格付けされるなど、外国でも海女文化の価値が認められている。

相差かまど(前の浜)

アワビやサザエ等をいただきながら海女さんたちと語らえる

相差かまど
問い合せ先:相差観光協会
TEL:0599-33-6411

神明神社・石神さん

 最近、パワースポットとして若い女性に人気があるのが、海の女神である玉依姫命(たまよりひめのみこと)を祭る神明神社の参道にある「石神さん」。御利益は、“女性の願いをひとつかなえてくれる”と言われていて、海女たちも昔からお参りをしている。
 石神さんをさらに進むと、本殿の神明神社が現れる。ここは海女たちが漁の安全祈願に参る神聖な場所となっている、
TEL:0599-33-6873

石神さん

神明神社本殿

セーマン・ドーマン

 海女さんたちが海の中で魔物から身を守るためのお守り。星のマークのセーマンは、一筆書きで元の場所に戻ることから、海に潜っても必ず戻ってくるとう意味で、格子型のド―マンは、出入り口が分からないので悪魔が入りにくいと言われている。
 石神さんのお守りをはじめ、ハンカチやストラップ等にも描かれている。

セーマン・ドーマンの印

古民家 海女の家 「五左屋」

 神明神社に向かう途中にある築80年の古民家を再生したレトロなショップ。1階には、セーマン・ドーマンをあしらった商品や鳥羽と相差の特産品等が並ぶ。2階のカフェでは、女性に大人気の、きな粉がかかっているわらび餅風の“手作りところてん”を食べることができる。
TEL:0599-33-6770

古民家 海女の家 「五左屋」

相差海女文化資料館

 海女のジオラマや漁具等が展示され、相差の歴史等も紹介されている。駐車場(無料)もあり、レンタサイクル(無料)も行っているので、ここを拠点に動くと便利である。相差の観光の始めにぜひ立ち寄りたい。
TEL:0599-33-7453

海女のジオラマ

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