『ギア-GEAR-』 “日本発・日本初”のノンバーバルシアター

『ギア-GEAR-』
“日本発・日本初”のノンバーバルシアター

印刷用PDF 

 皆さんはノンバーバルシアター『ギア-GEAR-』をご存知だろうか?「京都のへそ」(中心地)といわれる三条エリアにある、昭和初期に建設されたレトロなビルで12年間*もロングランしているノンバーバルエンターテインメント。マイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリング、それぞれの分野のスペシャリストが、ロボロイドとしてドールを中心に楽しくも感動的なストーリーを展開する。言葉を持たないロボロイドとドールが、何も語ることなしに「人間とは何か?」というテーマに観客を引き込んでいく。プロジェクションマッピングやLEDドレスなどを駆使した視覚効果も素晴らしい。既に2回、個人的に体験している私だが、3回目は取材として上演後のフィードバックミーティングにまで特別に参加させていただいた。以下にその魅力を紹介したい。
*2024年時点

ストーリー
 人間がいなくなり忘れ去られた廃工場。そこには、何も知らずオモチャの人形を作り続けている人型ロボット「ロボロイド」がいた。ある日、商品の人形「ドール」が人間のサイズになって現れる。好奇心の強いドールに翻弄(ほんろう)されながらも、ロボロイドはドールの不思議な力で個性的なパワーを発揮し始める。ドールも一緒に遊びながら段々と人間に近づいていく。そして……。

キャラクターとキャスト
 キャラクターは子供が大好きな戦隊もののように、その能力によって衣装が色分けされている。ロボロイドの赤はリーダーでマイム、黄はブレイクダンス、青はマジック、緑はジャグリング。そして、ドールは白。それぞれのキャラクターを5~7名のキャストが交替で演じている。
 今回の取材ではキャストにもお会いしたので、写真でご紹介するとともに、一言ずつ『ギア』について見どころやメッセージを頂いた。

キャストコメント

兵頭祐香 (HYODO Yuka):ドール 「国も性別も年齢も関係なしに一緒に楽しもう!」
大熊隆太郎 (OKUMA Ryutaro):マイム 「廃工場の美術が凄(すご)い!」
達矢(TATSUYA):ブレイクダンス 「心躍るステージをお届けします。」
松田有生 (MATSUDA Yuki):マジック 「物語とパフォーマンスの融合に注目!!」
宮田直人 (MIYATA Naoto):ジャグリング 「キャストの個性も魅力です。」

進化と深化
 『ギア』では観客へのアンケートを大切にしている。上演後周りを見わたすと大多数の観客がアンケートに熱心に回答している。アンケートの回収率は平均約80%で97%以上が面白かったと答えている。劇場のキャパシティーは72人。大きな劇場と違って舞台までの距離が近く、キャストとの(ノンバーバルな)コミュニケーションも多いので、自然に自分が感じたことを伝えたくなるのかも知れない。また、その気持ちを受け取った『ギア』のキャストやスタッフも、観客からのフィードバックをできるだけ次の公演に生かそうとしている。
 『ギア』の演出家の名前はオン・キャクヨウ (On Kyakuyou)で、漢字で書けば「御客様」である。実は演出家はおらず「お客さま」のフィードバックを参考にしながらキャスト、テクニカルスタッフ、舞台スタッフ、時には制作やフロア(接客)スタッフまで参加して改善に取り組んでいる。毎回上演後にフィードバックミーティングを行い、撮影しておいた公演の動画とお客さまのアンケートを参照しながら、改善点を話し合う。今回私もフィードバックミーティングに参加させてもらうと、ダンスシーンの動画を見ながら「ここもっと熱量が欲しい!」とか、工場が暴走するきっかけとなるシーンで、「例えば、これが床に落ちて動くとか……マジックの方でどうにかできない?」と誰かが言う。とマジシャンが(関西弁で)「出来へん!!」とすかさず笑いながら突っ込みを入れた。公演の動画とミーティングの動画は、その場にいる人だけでなく全キャスト・スタッフで毎公演共有している。驚くことに、4500回を超えた今でもだ。

 このようにして『ギア』の公演は日々進化している。ドール役の兵頭さんに進化している点で最も印象深いのは?と聞いてみると「ロボロイドの動き!」と躊躇(ちゅうちょ)なく答えた。考えてみれば、マイム俳優以外のキャストはプロのパフォーマーではあるが、演技分野は素人で、機械音の音響効果に合わせぎこちなくロボットのように動くのには大変な努力がいるだろう。
 制作担当者から頂いた資料に『ギア』には関係者全員で共有する「コンセプトノート」があると書いてある。もちろん外部に見せるものではないが、各シーンに込められたコンセプトが書かれたものだ。台本のように一言一句それに従うものではなく、それに沿っていれば、各キャストが表現を変えても構わないという。コンセプトノートには例えばどんなことが書かれているのかと聞いてみると、「好奇心や遊びで人は学び成長していくこと」と、一つだけ教えてくれた。そういえば、確かにそういうシーンがあった。
 『ギア』に対して続編や別バージョンを作らないのかという声もあるそうだ。ただ『ギア』は進化することだけでなく、ロングランだからこそ、とことん細部にこだわり本質を極めることで、コンセプトノートに込められた思いを「深化」させていくことを目指しているという。

寄せた思い
 『ギア』を創り出したプロデューサーは小原啓渡 (KOHARA Keito)氏だ。小原さんには今回お会いできなかったが、資料を読むと本作品が創り出された理由が見えてくる。
 小原さんは若い時に「生きる」ということに疑問を抱き、インドを旅して聖人といわれる人を訪ね歩き、インド哲学と東洋思想を学んだ。そこで面白いのが「禅を学ばずになぜこんなところにいるか」と聖人たちに言われたという。その後帰国して禅を学んだ。東洋思想を学んだ小原さんにとっては、相反するような2つのもの、例えば明暗、動静、男女、生死は調和する1つのものという思いがあるようだ。

 また、小原さんは歌舞伎に携わっていたことがあり、『ギア』にはさまざまな要素が散りばめられている。例えば、舞台セットの中心である歯車型の回転舞台は、歌舞伎の舞台機構として18世紀に世界で初めて開発された「回り舞台」がモデルだという。歌舞伎の「歌」はない が、「舞」(ダンス)「伎」(芝居)があり、歌舞伎でも見られるアクロバティックな技や、早変わり(マジックのような一瞬の着替え)も取り入れている。また、歌舞伎では同じ演目をいろいろな役者が演じており、演じ手によって同じ演目でも違って見えることで400年以上も続いている。『ギア』もこれをロングランの仕組みとしている。

 加えて、歌舞伎にまつわるエピソードがもう一つ。中座(なかざ)という歌舞伎をやる大阪の劇場が取り壊される時、捨てられそうになっていた古い姿見(すがたみ)をもらってきたという。数々の名優が出番を待つときに使った姿見で、役者の魂が宿っているかと思い『ギア』の楽屋で使っている。人は居なくなっても「寄せた思いは残る」そのようなプロデューサーの思いは『ギア』の精神に反映していると思う。

 ただ、歌舞伎は手本にしても、音楽や衣装に日本的な要素を取り入れていない、それも『ギア』の特徴の一つである。それにも関わらず外国人に「日本的だ」と言われることが多いそうだ。「曖昧でもいい、許し合えれば」相反するものが在っても「全ては繋がっていて一つである」というような、東洋的、日本的な「バランスと調和」がギアの大切にするコンセプトだからかも知れない。

人間とは何か
 GEARとは歯車のことである。ノンバーバルシアター『ギア-GEAR-』のGEARはひとつひとつ形が違う歯車が、調和しあうことで、大きな力となることを意味しているようだ。そう聞くと私には、時計の中のさまざまな歯車がかみ合って時を刻んでいる絵が浮かぶ。そこには静かな調和が保たれている。小原プロデューサーは「言葉は時に反発を呼んでしまう」と語っている。『ギア』がノンバーバルなのも調和のためなのかも知れない。

 『ギア』は人を登場させずロボロイドとドールで人間を描こうとしているという。確かに、彼らが歯車のように絡み合うシーンや、手を差し伸べ合うシーンに、ふと気が付くと人間を感じている。
 以上少々理屈っぽいことも書いたが、今回会場で一番笑って楽しそうにしていたのは、間違いなく子供たち。理屈抜き年齢も関係なく楽しめる証拠だ。

何はともあれ、まず一度ご覧あれ!

≪ファンからのメッセージ≫
https://www.youtube.com/watch?v=ospNP–2vrI&t=4s

≪取材協力≫
『ギア』公演事務局
制作:林るみ様、キャスト・スタッフの皆様

ギア専用劇場
〒604-8082京都市中京区三条通御幸町東入弁慶石町56番地1928ビル3F
TEL: 0120-937-882/075-254-6520 (受付時間:11~19時)
『ギア-GEAR-』公式サイト:https://www.gear.ac/

4500回公演突破記念PV:https://www.youtube.com/watch?v=E19LMKXIST8

English Page →