進化する温泉郷『湯田中温泉』

湯田中温泉をご存じだろうか。1998年の長野冬季オリンピックでアルペン競技の会場となった「志賀高原」の玄関口として、また近年では雪の降りしきる中、温泉露天風呂に入るサルの愛らしい姿を見ることができる「スノーモンキーパーク」のある場所として有名な温泉地だ。冬のパウダースノーやスノーモンキー、それらを楽しんだ後の温泉はこの地域の魅力だが、夏や秋のグリーンシーズンには志賀高原でトレッキングを楽しむのも良い(グリーンシーズンの志賀高原については、≪『高原の楽しみ方』志賀高原ユネスコエコパーク≫参照)。また、北志賀高原の竜王ロープウェイ山頂には、条件が合えば眼下に雲海が広がり、時には雲海に沈む夕日を見ることができる展望所SORA terrace(ソラテラス)があり人気を博している。さらに最近は湯田中温泉に新しいタイプのカフェやレストラン、宿泊施設が増えていると聞き、訪問してその魅力を探ってみた。

幻想的な雲海を見下ろすSORA terrace

竜王マウンテンパーク

 北志賀高原にある竜王マウンテンパークは、冬には人気のスキー場として国内外のスキーヤーで賑わっているが、今回はグリーンシーズンの魅力を体験してみた。
 山麓駅から世界最大級の166人乗りロープウェイに乗り山頂へ向かった。標高1,770mの山頂駅まで約8分。ゴンドラが上って行くにつれて視界がどんどん広くなっていく。この日は雲海が出ていなかったので、近隣の斑尾山(まだらおさん)、妙高山や長野市街、小布施町などがはっきりと見えた。雲海が広がった日には、山頂駅に隣接し、急斜面に建てられたSORA terraceから、上の写真のような幻想的な世界を堪能することができる。
 7~8月の真夏でも、竜王山山頂の平均気温は18℃ほどと涼しく、テラスからの絶景を眺めながら、併設のSORA terrace caféで買ったコーヒーを味わうのは至福の時間だ。
 また竜王山は秋の紅葉でも有名で、9月下旬から10月上旬に色づき始める紅葉シーズンには、雄大な景色と紅葉、そしてタイミングによっては雲海と沈む夕日を一度に見ることもできる。
 
≪長野鉄道の終点・湯田中駅から徒歩で行ける湯田中温泉街では、地元の食材を生かした創作料理を提供するカフェやレストランが近年相次いで開店している≫ 

CHAMISE~旅人を癒すカフェ~

 CHAMISEとは江戸時代に旅人達をお茶と軽食で癒した街道沿いの茶店をイメージして名付けた。その昔茶店は旅人を癒すと同時に、道しるべの役割を担い、旅の安全に役立っていた。湯田中温泉の入口近くにあるCHAMISE Café and Spaceも、国内外の旅行者が心身を休める空間とWi-Fiなどの設備、地元産のフルーツで作るフレッシュジュース、コーヒー、フレンチトーストなどを提供している。そして旅行者が必要とする地域観光のきめ細やかな情報も発信している。湯田中温泉と志賀高原など周辺地域を旅する方はぜひ立寄っていただきたい場所だ。

HAKKO~地ビールと発酵食のレストラン~

 湯田中温泉がある長野県は、全国的にも有名な信州みそをはじめ、醤油、酒、麹、漬物など発酵食品が豊富なことで有名だ。発酵食品は塩分を取り過ぎない限り健康増進に役立つ。そんな地域に根付いた発酵食品を中心に、地元産の食材にこだわったレストランがHAKKOだ。明治時代の古民家をリノベーションした「和モダン」なビアレストランで、自慢のクラフトビールは地元産を含む20種類以上を楽しめる。味噌、醤油、酒、ヨーグルト、パン、漬物、麹、チーズなど地元の発酵食品と野菜をふんだんに使った料理が人気で、ランチは女性では食べきれないほどのボリュームだ。

 オーナーシェフの君島登茂樹さんと奥さんの祐三子(ゆみこ)さんは長野市内から通っているが、店は夜11時まで営業している。HAKKOビアレストランの食事は観光客だけでなく地元の住民にも人気があり、夜は地域の食材で作られた料理と、各地のクラフトビールの飲み比べを楽しむお客さんで賑わっている。

ボリューム満点なランチセット

≪1350年開湯の湯田中温泉には大小各種のホテル・旅館がある。その中でも最近オープンしたユニークなホステルを2つと、手すき和紙のアートランプが印象的な旅館を紹介する≫ 

禅ZEN Hostel ~和と洋が融合するホステル~

 支配人の小林竜也さんによると、2016年に築233年の歴史的建物をモダンにリノベーションした禅ホステルのコンセプトは、「和と洋の融合」だという。1階は思いっきり和風の玄関を入ると洋風なCafeスペースで、地元の人と宿泊者がコーヒーやビールを飲みながら交流するイメージで作ったという。またその奥には宿泊者専用の和風ラウンジがあり、宿泊者同士の交流の場としている。畳の部屋など和の空間は靴を脱ぐが、それ以外は靴のままでOK。

 和と洋の融合、人と人との交流をテーマに作られているだけに、日本人にも外国人旅行者にも居心地が良い空間になっている。実際に夜お酒を飲みに来た地元の日本人が、Café & Dining Barで知り合った外国人を翌日スキー場へ案内したり、けん玉など日本の遊びを自発的に教えに来たり、と交流が始まっている。
 取材中にバックパッカーのカップルがチェックインした。時計を見るとまだ午前中。支配人に尋ねると、オーナーの森田昭仁さんが自らの海外経験から、旅人の立場を考えて対応するようにとの方針で、可能な限り無料でアーリーチェックインを認めているという。

ドミトリーのベッド

真矢先生(右)と生徒の美帆さん

 バーカウンターで働く大下真矢(まや)さんに声をかけると、母親がアメリカ人の彼女はホステルのスタッフとして働くだけではなく、地元の人に英会話を教えているという。丁度レッスンに来た横澤美帆さんは、Barと真矢さんを気に入った父親の勧めで英会話を習い始めたという。英会話を習って、その次はお父さんと一緒に外国人旅行者と交流することだろう。

Hostel AIBIYA ~旅から離れられる宿~

湯田中温泉の場所を指す西澤さん夫妻

 オーナーの西澤良樹さんは、大学生のときにカナダで初めてホステルに泊まったのをきっかけに、10年間でホステルをオープンすると決意した。そして東京では外国人が多く泊まる旅館で働き、オーストラリアやニュージーランドではホステル業の修行をした。またアジアやヨーロッパを旅して回り、旅行者の気持ちを理解できるようになった。その結果西澤さんがたどり着いた理想のホステル像は「旅から離れる宿 (Escape from travel)」だった。その理想を達成するため湯田中温泉に作ったのがHostel AIBIYAだ。

 フロント前の壁に立体的な日本と長野県の地図を掲げ、旅行者に自分が一体どこにいてどこに行こうとしているか分るようにした。また反対側の壁には、「スノーモンキータウン(この町)でするべき12のこと」を日本語と英語で掲げた。それらは、例えば志賀高原でのハイキングであり、HAKKO Beer Barでの地ビールの飲み比べだ。

宿泊者用共用キッチン

寝心地にこだわったドミトリーのベッド

 1階は全て共有スペースとして、旅行者がくつろげる空間を作った。キッチンは自由に使える一方、外国人(特に欧米人)は朝食を軽く済ませるので、フルーツ、玉子、シリアル、パン、牛乳、ジュース、コーヒーなどをキッチンに用意して、食べたい人だけ食べるようにした。
 ラウンジは畳の部屋にクッションなどを配して、自由に使える空間にした。畳敷きのドミトリーもローベッドを配し、何よりも寝心地の良さを優先した。
 韓国出身でオーストラリア滞在中に出会ったという奥さんの聖美(Seongmi)さんと、旅の疲れを癒せる宿にしていきたいという。

加命迺湯 ~華灯りの宿~

 湯田中温泉の老舗旅館「よろづや」で修行した高山京平さんと奥さんの瑠梨(るり)さんが、夫婦で切り盛りする旅館「加命迺湯(かめいのゆ)」。館内を見せていただくと、あちらこちらに和紙で花をイメージするように作られたランプが、華やかな中にも幻想的な灯りを灯している。長野県在住の灯り作家菊地晃一氏が作る和紙のランプシェードが大好きだった高山さんは、「よろづや」が加命迺湯を作って任されるとき、菊地氏の和紙のアートランプで飾られる宿を提案した。菊地氏が花々など植物をモチーフに作るランプは、華やかさと柔らかな光が特徴で、このアートランプに照らし出される館内や日本庭園は非日常の空間となっている。

庭園や室内を照らし出すアートランプ

 この宿のもう1つの特徴は、食事の提供は朝食のみで、夕食は老舗旅館「よろづや」の和食か、地元のフレンチあるいはイタリアンのレストランで外食を楽しめることだ。宿泊客の好みによって好きなレストランを選べ、外で食べることによって夜の温泉街の雰囲気も楽しんでもらえる。本格的なフレンチレストランへ浴衣で行けるのも楽しい。とても新しいコンセプトの宿だと思った。

カゴに入った入浴セットは女性に大好評

 また女性に嬉しいサービスとしてカラフルな色浴衣を選ぶことができる。館内の温泉ももちろんあるが「よろづや」の文化財的価値のある桃山風呂や、街の住民の利用する外湯も入ることができるので、客室に用意された可愛らしいカゴに入った入浴セットを持って、温泉街を色浴衣で散策するのも楽しいだろう。

竜王マウンテンパーク(ロープウェイ
〒381-0405 長野県下高井郡山ノ内町夜間瀬11700
営業期間:6月3日~11月5日(年により変更有)
営業時間:9:00~19:00
TEL:0269-33-7131
HP: http://www.ryuoo.com/

CHAMISE Café and Space
〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏2997-4
営業時間:11:30-18:30
定休日:月曜日
TEL:0269-38-8989

HAKKO Beer Bar & Restaurant
〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏3010
営業時間:ランチ/11:00~15:00、ディナー/17:00-23:00(4-10月/18:30-23:00)
定休日:月曜日
TEL:0269-38-8500

禅 ZEN Hostel
〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏3031
TEL:0269-38-0755
HP: http://zenhostel.net/
宿泊費
ドミトリー:3,000円から/ベッド
2人部屋~6人部屋:6,000円~18,000円から/室

AIBIYA Hostel
〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏3032
TEL:0269-38-0926
HP: http://hostelaibiya.com/
宿泊費
ドミトリー:3,800円から/ベッド
2人部屋~4人部屋:6,300円~16,000円から/室

加命迺湯 華灯りの宿
〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏3174
TEL:0269-33-1010
HP: http://yudanaka-kameinoyu.com/
宿泊費:ホームページでご確認ください。

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