今治タオル ~二本の縦糸と一本の横糸が作り出す無限の可能性~

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 愛媛県今治市はタオルの国内生産量第1位を誇る日本一のタオル生産地だ。高級なタオルのイメージがある『今治タオル』だが、その製品には近年印象的なロゴマークと“imabari towel Japan”の英語表記をよく目にする。タオル生産の長い歴史を有する今治が、海外から輸入される低価格なタオル製品に対抗して、地域を挙げてブランド戦略を進めた成果だという。そのブランド戦略とはどのようなものなのか、また輸入品と比べて今治タオルのどこが違い、何が魅力なのかを探るべく今治市を訪問した。

今治市にある四国タオル工業組合を訪問し、木村忠司専務理事にお話を伺った。

今治タオルの歴史

ima2 木村専務によると、もともと今治では綿花の栽培が盛んで綿織物の生産地だったが、大阪の泉州で起こったタオル産業に学び、タオルの生産を始めたのが120年前だという。今治は綿花生産地であるとともに、タオル生産に適した軟水が豊富である。またそのころは製造過程で漂白、染色したあとの乾燥作業は天日干しだったので、雨が少ない温暖な気候もタオル産業に合っていた。そのようにタオル生産に最適の環境だったことから、多くの企業が起こって地域を代表する産業に育っていったという。
 今治のタオル生産の最盛期はやはりバブルの頃で、1991年にピークを迎え、年間5万トンを超えていた。当時デパートで売られていたギフト用海外ブランドタオルは、ほとんど今治製だった。しかし今から10年前(2006年頃)までに、生産量はおよそ5分の1まで落ち込んだ。原因はギフト需要の激減と安い輸入製品の増大だった。生産量の減少に伴って、500社を数えた組合員は現在112社まで減っているという。それでも年間生産量11,000トン以上は、国内生産の約55%を占めており日本一である。

今治タオルプロジェクト

ima3 安い輸入品の攻勢に生産量の減少が続く状況を打破し、品質のさらなる向上と今治タオルの知名度を上げる産地のブランド化を目指すため、2006年に国の「JAPANブランド育成事業」の補助金を得て『今治タオルプロジェクト』を立ち上げた。
 「タイミングと縁と言ってよいと思いますが、このときクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんに巡り合ったのです」と木村専務がいう運命の出会いが、プロジェクトを成功に導くことになった。キリンビールやドコモ携帯のデザイン、TSUTAYAの空間デザイン、ユニクロのグローバルブランド戦略など、多くのブランディングプロジェクトで高い評価を得ていた佐藤氏のプロジェクト参加により、「白地のタオル」をキープロダクトに設定し、ima4「安心・安全・高品質」をコンセプトとすることが決まった。またタオルの品質を支える今治の太陽・海・空・水と白いタオルを象徴する赤・青・白を使い、imabariのiを象ったロゴマークが品質を保証するアイコンとなった。
 2007年当時中国製の食品における「段ボール入り肉まん」や「毒入り餃子」の事件が発生しており、日本国内で安心・安全に対する関心が高まっていた。また輸入品により疲弊した産地が頑張っている、という視点からマスコミで多く取り上げられるようになった。そのような社会的状況の中で、プロジェクトは今治タオルの知名度を上げ、注文も増えるなど、3年間で産地が変わる手応えを感じることができたという。

次に経営者と生産現場のお話を聞くため、タオル製造会社コンテックス(株)の代表取締役社長である近藤聖司氏を訪ねた。近藤社長は四国タオル工業組合の現理事長でもある。

今治タオルの特徴

ima5 「良いタオルとは何でしょうか?」いきなり最も聞いてみたかった質問をした。
 「難しい質問です。よく柔らかいタオルが良いと言われますが、柔らかくすることばかりにとらわれるとタオルの大事な機能である吸水性が落ちます。例えばウォーキングのときにホテル用の高級タオルは使いにくいですよね。その場合は薄くて抗菌などの機能性があるタオルの方が良い」。良いタオルとは、TPOやライフスタイルに合ったもので、柔らかければ良いのではないと近藤社長は考えている。
 今治タオルの特徴をお尋ねすると、「まじめに作っていることです」という意外な答えが返ってきた。タオル産業は分業化されており、どのプロセスでも全ての会社がきちっとした仕事をしていることが大事だという。それは高品質を保証するため定められている厳しい基準を関係者がしっかりと守っているということでもある。またその基準の中でも、今治タオルの特徴として、「吸水性」と「(人の身体への)安全性」には特に力を入れているという。

タオル作りに対するこだわり

ima6 経営者としてのこだわりを聞いてみた。
 近藤社長の答えは「迎合しないタオル」だった。つまりone of themにならない、他では作っていないような製品を作って、ただ販売量だけを追わない戦略だという。そのためしっかり製品を理解してくれる専門店を中心にビジネスを展開している。
 同社の工場には最新式で高速な織り機もあるが、豊田織機の古い機械もあり、大量生産でない場合は今でも使っている。シアトルの常連顧客からオーダーがあったとき、いつも使っていた古い機械が故障して、納期に間に合わすため新しい織り機で作って送ったところ、「違う。あの機械じゃないですね」というクレームがきた。見た目にはほとんど分らない「あの機械」が作る製品を好むファン。コンテックスはそういうファンを大切にしたいと思っている。「全て返品にして、機械が直ってから送り直しました」と徹底している。

タオル制作で最も大事な工程

ima7 タオル制作で最も大切な工程を聞いてみると、しばらく考えてから「プランニングです」との回答が返ってきた。
 今のタオル産業はファッション産業に近いと思っているとのことで、同社の社員110名中10名が企画を担当している。現代人のライフスタイルを研究し、それに合わせて糸を選び、織り方を変えていく。アパレルもあれば、スポーツ関係や家具とのコラボもある。使うシーンに合わせた、他にない製品を作っていくにはプランニングが何より大切だという。
ima8  お話を聞きながら、古い工場の建物を織物の本場英国マンチェスターのイメージで改築したショップ『タオルガーデン』を案内していただいた。そこにはタオルという古いイメージではくくれない、バラエティーに富んだ製品が並んでいた。

もう1つの大切な工程

ima9 コンテックス社では、製品の企画・デザインの他、使用する糸を織り機にかける前に巨大な糸巻を作る整経(せいけい)作業と織りの作業を行い、専門業者で漂白・染色をした後、戻って来た大きなタオル生地をカット・縫製し、製品を箱詰めして各顧客へ送っている。
 「今治タオルがブランディングされたことによる最大のメリットは、この業界に若い人材が集まりだしたこima10とだと思っています」という近藤社長にお願いして、工場内を見学させていただいた。製品の良し悪しを決めるもう1つの大事な工程といわれる整経工程に、入社5年目と新入の2人の若い女性が働いていた。たくさんのロールから糸を集めて巨大な糸巻を作るこの工程では、微妙な糸の張り具合(テンション)の管理が大切で、その繊細な作業は女性に向いているそうだ。

今治タオルの強み

 取材をして感じた今治タオルの強みは、地域を挙げて一定の高品質を保証していること、その上で各社がこだわりを持って自社製品の向上に努めていること、そして人気と信頼を獲得したブランドに人材が集まりだしていることだと思った。
 「タオルを形作る二本の縦糸と一本の横糸の中に、私は無限の可能性を感じています」という近藤社長の言葉に、今治タオルのさらなる発展への自信を感じた。

ima11タオルソムリエ資格制度

 今治タオルプロジェクトの取り組みの中に「タオルソムリエ資格試験制度」がある。顧客が本当に必要としているタオルをアドバイスできる専門家の養成だ。今治タオル公式ショップの本店に立ち寄り、タオルソムリエ櫻井あかりさんにお勧めのバスタオルを紹介いただいた。その結果は、もちろん純白の今治タオルをかかえて帰途に就くことになった。
 

≪取材協力≫

四国タオル工業組合
〒794-0033 愛媛県今治市東門町5-14-3
TEL:0898-32-7000
FAX:0898-32-3842
URL:http://www.stia.jp/

コンテックス株式会社
〒794-0083 愛媛県今治市宅間甲854-1
TEL:0898-23-3921
FAX:0898-23-3922
URL:http://kontex.co.jp/

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