日本の原風景と文化を訪ねて――高知県2

高知の食の代表―カツオのたたき

 じゃらん宿泊旅行調査「地元ならではのおいしい食べ物が多かった」部門で全国第1位の高知県は、「自然の恵みを受けた食材の宝庫」と言われる。海・山・川の豊富な四季折々の産物、さまざまな調理法による食文化は、地元民や旅行者の舌をうならせる。なかでも、本場の「カツオのたたき」は、県民食として地元民も好んで食し、これを目当てに高知に来る旅行者も多い。
 「たたき」という名称の由来には諸説ある。有力なのは、焼いて切ってから薬味やたれを上からかけ、たたいて味を染み込ませるということからきているが、今はそういうことはあまりしていない。

 高知では藁(わら)の火であぶるのが定番である。藁焼きはガスとは火力が断然違い、表面を強火で一気に焼くことができる。併せて、藁なら表面に独特の香ばしさを付けることができ、風味が増す。藁焼きでこそ、表面は香ばしく、中はしっとりした食感が楽しめるのである。皮付きのまま焼いた直後で表面が温かいうちに食べるのが、いちばんおいしい。
 カツオは、一本釣りで1匹ずつ釣り上げるものが使われる。カツオは常に泳いでいないと死んでしまう魚なので、網に掛かって死んだ状態で海中を引きずられる時間が長くなると、鮮度が著しく落ちてしまう。ほんとうのおいしさを堪能するなら、明らかに味が違ってくるので冷凍ものは避け、4月~10月の旬の時期に釣られて間もない冷蔵ものがお勧めである。

取材協力・写真提供:
黒潮工房
〒789-1301 高知県高岡郡中土佐町久礼8009-11
TEL 0889-40-1160 FAX 0889-40-1190
http://honjin.or.jp/koubou/index.php

漁師文化が今も生きる久礼の町

 高知県中土佐町の久礼(くれ)は、中世から近世にかけて四万十川流域で生産された木材や炭を搬出して繁栄してきた市街地が、漁師町と相まって形成された港町。現在も港に近いほど家屋が密集し、車両がやっと通れる幅のくねった路地がこの港町の特徴だ。国の文化財(重要文化的景観)に選定されている港と漁師町は、1時間ほど歩けば漁師の生活と息遣いが感じられる。

 現存する酒蔵では高知県最古の酒蔵を持つ「西岡酒造」の創業は江戸時代中期で、今年で234年目になる。建物は今も当時のままの状態で使われ、地元の銘酒が作られている。「昔からの味を変えずに守り続けつつも、今の時代に合った酒を造り出すことを常に意識しています」と副杜氏の島村さん。「ここのお酒の特徴は、辛口のしっかりしたお酒。ここは漁師町なのでカツオのたたきに一番合うお酒を造っています。お料理あってこそのお酒だから、食べながら飲んでもらうのに最高のものを造るようにしています」

創業当時のままの内部。見学は随時受け付けているが、事前に予約するのが確実。

 おいしいお酒を造るために不可欠の良質の水は、ここでくみ上げる地下水を使っている。海辺の蔵元であるが、四万十川の上流域から地中に染み込んだ、酒造りに最適なきれいでやわらかい大変良質の水が得られる。

昔の帳場や用具が丁寧に保存・展示されている。


取材協力:
西岡酒造店
〒789-1301 高知県高岡郡中土佐町久礼6154
TEL 0889-52-2018 FAX 0889-52-5980
http://www.jyunpei.co.jp/

地元で捕れたものをおすそ分け――久礼大正町市場

 久礼の町中で地元の台所として明治時代から営まれてきた「久礼大正町市場」には、新鮮な魚や干物、野菜、果物、総菜、魚介のどんぶり物などを売る十数軒の小さな店が立ち並ぶ。もともとは、地元でとれすぎて食べきれないものを「おすそわけ」する場として始まったといわれる。
 昼前から店が開き、その日にとれた物が所狭しと店頭に並ぶ午後2時くらいに県内外から多くの客が訪れ、にぎわいはピークとなる。常設の店舗の間には、漁師町のおばちゃんたちが折り畳みの台に、夫や息子が捕ってきた魚を広げている。客は旬の食材、魚の料理方法などを教えてもらい、会話を楽しみながら買い物ができる。陽気な笑顔、威勢の良い掛け声がアーケードに満ちている。

 活気があふれているわけを鮮魚店の田中さんに尋ねた。「提供するものがトップクラスで、何らかの特徴がないと広範な客には来てもらえません。この土地は昔から皆が食道楽で、おいしいものを食べることにものすごく貪欲で舌が肥えています。その食文化を前面に出して買っていただいています」

 さらに、魚を商うことの苦労、工夫を教えてもらった。「太平洋の新鮮な魚が買えることを知っている多くの常連のリピーターがわざわざ遠くから足を運んでくれています。地元の方が減っていくなか、よそから週に1回来てくれるお客さんのニーズを多く捕まえたら、地元の方の代わりになる。一見のお客さんばかりだと明日が読めないので、『観光』に頼ることは怖い。常連さんが口コミで他のお客さんを引っ張って来てくれる――これこそがもともとの地元の魚屋さんの商売のやり方なのです」地域の活性化のヒントとなる興味深いお話も伺った。「普通の魚屋は、地元の方がサケなどの県外の魚を求めたら、それに応じて地元外から仕入れるのだが、地元民の人口が減ると、地域の魚屋同士で競合するようになってきた。そこで、うちでは地元の魚を町外の方に売るようにシフトしてきた。ここでは廃業する漁師が続いており、これ以上減らさないように死守しないと、僕たちも売るものがなくなってしまう。『漁師がいて魚屋がいる』というワンセットで残れないと僕のような魚屋にとって意味がなくなってしまう」。

久礼大正町市場
http://taisyomachiichiba.net/

新鮮なカツオを手にする田中さん

毎週にぎわう高知市の街路市「日曜市」

奥は高知城の天守閣

 高知市の中心部には、県のシンボルである高知城の天守閣がそびえる。城から延びる大通りでは毎週日曜日に日本最大級の「日曜市」が開かれ、長さ1.3キロメートルにわたり、約430の露店が軒を連ねる。
 各地の市の多くが観光向けに特化しているが、300年以上の歴史のある高知市の日曜市では昔から「生活市」を基本として、買いに来る地元の人が生活するための物が多く扱われている。出店者のほとんどが高知県内の農家や漁業者であり、生産者自身が売っている。〝自分で作って、自分で加工して、自分で売る〟俗にいう「六次産業化」(一次、二次、三次産業を兼ねるビジネス形態)が機能し、地元の活性化に貢献している。

 とれたての野菜、果物、魚介類、金物、植木、多種多様な品が並んでいる。産地直送の物なので、値段はお手頃。お店の人は皆明るく、フレンドリーだから、気さくに声を掛けやすい。売り手と客との間で、地元の土佐弁が快活に交わされるのが耳に心地よい。

サツマイモを揚げた「いも天」は食べ歩きの定番。店には常に行列が絶えない。

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高知県民の懐かしい飲み物「冷しあめ」。生姜ベースであっさりした甘さが喉越し良い。

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大学生の案内ボランティアがいるので、このところ増えた外国人への対応も大丈夫。

 日曜市は高知県の観光名所の1つとして人気が上がってきた。市を目当てに来る観光客が増加し、にぎわいに拍車が掛かっている。新鮮なものが豊富にある早い時間帯(店の準備が整う朝6時)から地元客が集まってくる。店舗が片づけを始める3-4時以降におまけをもらえることがあり、午後の楽しみもある。
 なお、毎週火曜日、木曜日、金曜日にも市内各所で街路市があるので、曜日の合わない旅人はこちらに足を運んではいかが。

取材協力・写真提供:
高知市産業政策課
TEL 088-823-9456 FAX 088-823-9492
http://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/40/gairoititop.html

高知のおいしいものを手軽に飲食―ひろめ市場

 地元の人が普通に飲食しに集まって来ている所「ひろめ市場」は、日曜市に隣接して約60軒がひしめき合っている大規模な屋台村。郷土料理から外国の味を提供する飲食店、特産品、魚介類、地酒、衣料品などの販売店舗には、小さい子供を連れた家族や、高校生、サラリーマン、シニアなど、地元のあらゆる種類の人々がやって来て、昼も夜も活気に満ちている。内部は迷路のようになっていて、ちょっと混沌とした雰囲気もあるが、旅行者もお手軽に溶け込める、今とてもホットな場所。
 カツオのたたき、ギョーザ、てんぷら、旬に合わせて提供される地元の珍味、高知の銘酒、インドの家庭料理、、、行けば誰でも好みに合ったおいしいものに間違いなく出会える。地元の人が利用する施設なので、「地元価格」の良心的な値付けがされている。
 施設内のいたる所にある飲食の席は450。フードコートのように、それぞれお好みのものを各店舗で買って、好きな場所に持ち寄って楽しむスタイルになっている。テーブルチャージはなく、何時間いても構わない。合席が基本となるが、合席をきっかけに知らない人同士がおいしい料理とお酒で盛り上がれる。食器はスタッフが巡回して回収するので、後の面倒もない。

取材協力:
ひろめ市場
〒780-0841 高知県高知市帯屋町2-3-1
TEL 088-822-5287 FAX 088-856-5310
http://www.hirome.co.jp/

わざわざ行こう! 辺鄙なミュージアム

 独創的なアイデアと卓越した精巧さで世界最高峰の水準を誇るフィギュアメーカー・海洋堂は、海外でも幅広いファンを獲得している。その歴史とコレクションを集大成するミュージアムが4年前に高知県に開設された。創業者の父親の出身地の細い山道をたどった先の山の中に隔絶している建物は、廃校になった小学校を利用している。そこには、過疎が進む地域に新たな人の集まりと賑わいを起こすという地域住民の思いが込められている。
 海洋堂50年の歴史をひもとくことで日本の模型、プラモデル、フィギュアの進化の軌跡をたどったり、最新の製品や一流の造形師による貴重な恐竜やアニメのキャラクターなどの展示の多種多様さと膨大な数に目を見張ったりと、マニアでなくても興味の尽きない空間がここにはある。

フィギュアを使ってジオラマを制作する体験教室では、子供以上に大人が熱中することもしばしば。

取材協力・写真提供:
海洋堂 ホビー館 四万十
〒786-0322 高知県高岡郡四万十町打井川1458-1
TEL 0880-29-3355 FAX 0880-29-3356
http://ksmv.jp/

動かせるパーツを自由に組み立てるコーナーは、無限に表現できる楽しさが子供たちに大人気。

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