加賀温泉は古都・金沢から南へ40キロほど。活火山である霊峰白山の恵みによって、粟津温泉、片山津温泉、山代温泉、山中温泉が湧く、北陸の温泉郷です。
私の好きな山代温泉は、ヤタガラス(古事記や日本書紀などに登場する伝説の三本足の霊鳥)により発見されたといわれ、開湯1300年を誇ります。明智光秀もここで傷を癒し、与謝野晶子、泉鏡花ら文化人がよく訪れた温泉地でもあります。山代と最も縁があったのは、大正から昭和にかけて活躍した陶芸家・書家・料理家である北大路魯山人でした。旅館吉野屋の主人が魯山人に自分の別荘を提供したことで、魯山人はここで逗留(とうりゅう)し、作品作りに勤しむのです。そして、夜な夜な、白銀屋やあらや滔々庵(とうとうあん)ら旅館の主らと囲炉裏を囲み、語ったといいます。その建物は魯山人寓居(ぐうきょ)跡「いろは草庵」として現存しており、語る場となった囲炉裏もそのままの形で残っています。
かつて、温泉宿では作家や芸術家を厚くもてなしていたという古き良き名残がここにはあります。
また、長い歩みのある山代温泉が、よりその歴史を感じさせる街へと形を変えたのが街並みの整備でした。もともと江戸時代からあった温泉街・湯の曲輪(ゆのがわ)の建物の外観をべんがら格子(細かな木を縦と横に組み合わせ、中からはよく見えるが外からは容易に見えない建具)で統一した、情緒ある街にしたのです。どこを写真におさめても、全てが絵になる、そんな街並みなのです。地域の賑わい事業の拠点である「はづちを楽堂」内には美味しいカレーが食べられるお店もありますよ。
それに山代温泉といえば九谷焼の里として知られていまね。江戸時代からの古九谷の窯元も残っています。いまでは九谷焼を文字盤に使った洒落(しゃれ)た腕時計もあります。地元の人に愛され、どこかハイカラな香りがするのが山代温泉で、そこに流れる空気が好きで、私は何度となく山代温泉を訪ねています。