北陸新幹線開通、温泉情緒かおる加賀温泉郷へ

温泉エッセイストの山崎まゆみさんに、北陸の情緒豊かな温泉とその楽しみ方などを紹介してもらいました。

ステンドグラスを通して差し込む光が湯船に注がれていて、何色ものガラスの色彩が温泉にうつり込む。湯船は人が2~3人入れば満杯なほどの大きさで、新鮮な無色透明な湯が注がれていました。湯に浸かり、ふと、壁を見ると九谷焼きのタイルが張られてあるではないですか。洗練されていて、風流な風が吹いてくるようです。

山代温泉「古総湯」のステンドグラス

山代温泉「古総湯」

 山代温泉には総湯は2つあります。明治時代の共同浴場を復元した古総湯の他に、主に地元の方々が通う総湯。午後2時に総湯に行ったときには、地元のおばあちゃんたちで賑わっていました。なかには浴場の中でストレッチしているおばあちゃんがいたり、まるで井戸端会議ならぬ“お湯端会議”のように、ご近所同士で話が盛り上がる様子もあり、皆さん、それぞれに愉しんでいます。
共同浴場のある温泉地では、そこで暮らす方々とお風呂を共にさせていただけるというのが一番の楽しみかもしれません。

山代温泉 総湯「菊の湯」

 加賀温泉は古都・金沢から南へ40キロほど。活火山である霊峰白山の恵みによって、粟津温泉、片山津温泉、山代温泉、山中温泉が湧く、北陸の温泉郷です。
 私の好きな山代温泉は、ヤタガラス(古事記や日本書紀などに登場する伝説の三本足の霊鳥)により発見されたといわれ、開湯1300年を誇ります。明智光秀もここで傷を癒し、与謝野晶子、泉鏡花ら文化人がよく訪れた温泉地でもあります。山代と最も縁があったのは、大正から昭和にかけて活躍した陶芸家・書家・料理家である北大路魯山人でした。旅館吉野屋の主人が魯山人に自分の別荘を提供したことで、魯山人はここで逗留(とうりゅう)し、作品作りに勤しむのです。そして、夜な夜な、白銀屋やあらや滔々庵(とうとうあん)ら旅館の主らと囲炉裏を囲み、語ったといいます。その建物は魯山人寓居(ぐうきょ)跡「いろは草庵」として現存しており、語る場となった囲炉裏もそのままの形で残っています。
 かつて、温泉宿では作家や芸術家を厚くもてなしていたという古き良き名残がここにはあります。

 また、長い歩みのある山代温泉が、よりその歴史を感じさせる街へと形を変えたのが街並みの整備でした。もともと江戸時代からあった温泉街・湯の曲輪(ゆのがわ)の建物の外観をべんがら格子(細かな木を縦と横に組み合わせ、中からはよく見えるが外からは容易に見えない建具)で統一した、情緒ある街にしたのです。どこを写真におさめても、全てが絵になる、そんな街並みなのです。地域の賑わい事業の拠点である「はづちを楽堂」内には美味しいカレーが食べられるお店もありますよ。

 それに山代温泉といえば九谷焼の里として知られていまね。江戸時代からの古九谷の窯元も残っています。いまでは九谷焼を文字盤に使った洒落(しゃれ)た腕時計もあります。地元の人に愛され、どこかハイカラな香りがするのが山代温泉で、そこに流れる空気が好きで、私は何度となく山代温泉を訪ねています。

山中温泉 「吉祥やまなか」の露天風呂

 加賀温泉郷の中では、山中温泉もいいですね。今でも芸妓さんのお座敷遊びが楽しめます。もちろん山中温泉にも地元の方の憩いの共同浴場がありますので、温泉での出会いなども愉しみです。これからの季節は鶴仙渓(かくせんけい)の緑が美しくなります。散策も素敵ですが、川床でのお茶も素敵なひとときになるでしょう。

山中温泉 「鶴仙渓」の川床

山中温泉 「山中座」

 開通したばかりの北陸新幹線で加賀温泉郷へ、出かけてみてはいかがでしょか。加賀駅ではおもてなし向上に努める地元観光産業に携わる女性たち“レディー・カガ”のお出迎えや、出店など、駅前は賑やかに私たちを迎えてくれますよ。

山代温泉観光協会
http://www.yamashiro-spa.or.jp/
山中温泉観光協会
http://www.yamanaka-spa.or.jp/

温泉旅館(旅)への持ち物

 わたしの湯めぐりの相棒は日本手ぬぐいです。いつも2本持ち歩きます。一日に何湯も巡るのですが、湯から上がり1本使い、次の場所で1本。軽くて、コンパクト。持ち運び便利なうえに渇きも早い手ぬぐいが便利なのです。
実は、江戸時代から手ぬぐいが愛用されてきました。錦絵などを見ると、男女ともに湯からあがると首から手ぬぐいをかけているんですよ。

入浴前の準備も忘れずに

 温泉入浴は癒されるものですが、思っている以上にカロリーを消費します。42度の湯に5分浸かると、10分ほど早歩きした時の消費カロリーと同等と言われるほどです。空腹だと湯あたりしてしまいます。かといって、満腹すぎても苦しくなってしまいます。ですから空腹過ぎず、満腹過ぎずというのが鉄則。
入浴前はチョコレートなど簡単にカロリー摂取できるのでおすすめします。
旅館の客室に置かれている「温泉まんじゅうとお茶」これは理にかなっているものなのですよ。

日本流の入浴のマナー

 外国の方にもぜひ日本流の入浴をマスターしていただきたいですね。
大浴場に入ると脱衣所があります。ここで服を脱ぎ、ロッカーか籠に洋服を入れてください。そして特に女性の場合は髪もまとめてください。日本では湯船に髪の毛が入ることは不潔とされています。
タオルか手ぬぐいを持ち、大浴場へ。
シャワーブースがあれば、そこで身体をよく洗ってください。シャワーがない場合は、湯船から桶でお湯をすくい、身体を洗ってください。
体を洗ってから、湯船の温泉へ。
充分に温まったら、またシャワーブースで、今度は髪を洗ったり、身体を洗ったり。
再度、温泉に入り、持参したタオルで身体を拭いて、脱衣所へ。

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