“阿蘇” 火山の恵み 第2部

温泉と湧き水

火山の副産物といってすぐに思いつくのは、温泉、そして湧水ではないだろうか。阿蘇カルデラも例外ではなく、豊富な温泉と湧水に恵まれている。それらはこの土地に暮らす人々の生活を支え、憩いの場を与えるとともに、阿蘇の重要な観光資源として地域経済に貢献している。

内牧温泉街歩き

飲める温泉

 内牧温泉は古くから多くの文人も訪れた歴史ある温泉地である。特徴としては湯量の多さと泉質の豊富さが挙げられ、ほとんどのホテル、旅館が独自の源泉を持ち、源泉かけ流しの風呂を提供している。泉質も源泉の数だけ違い、すぐ隣の施設でも全く違った泉質の温泉が出ている。それがよく分かるのは、いくつかの施設の玄関前で提供している「飲める温泉」だ。記者が泊ったホテルの温泉はカルシウム・ナトリウム・炭酸水素塩などが多く、飲んでみると薄めた食塩水のような味がする。一方近くの宿の温泉を飲んでみるとわずかに鉄分を含む味がする。効能もそれぞれ違うので、体調に合った温泉を楽しむことができる。

泉質が違う2つの温泉

街歩きの楽しみ

 内牧温泉の街歩きを始めてすぐに目に留まったのが「おかみCafé」。300円で美味しいコーヒーを飲みながら、旅館の「女将さん」から街の情報を聞き出そう。どこに行ったら何が買えるか、ランチにあか牛が食べたければどこに行けばいいか、安くて美味しい居酒屋はどんな店があるかなど、内牧のことならなんでも知っている女将さんならではアドバイスが聞ける。

 女将さんから仕入れた情報で絶品スイーツの店MIYUKIに行ってみた。豊富な品揃えの中で、一目で気になった「桃のまるごとタルト」を注文。店の一角にカウンターがあるので、その場で食べられる。セルフサービスのコーヒー無料が嬉しい。サクサクのタルトの上に桃がまるごと載っていて、種の部分に上品なカスタードが詰めてある。今むいたばかりのような新鮮な桃に感動!

 甘いものも良いが酒も気になる。店構えが立派でこだわりの酒を置いていそうな「岡本酒店」で地酒を物色した。いかにも誠実そうなご主人のお勧めは、阿蘇の米で作ったこの店オリジナルの焼酎「一所懸命」だという。きっと一所懸命に作ったのだろう。そう思うと買わない訳にはいかなかった。

 その他にも、アクセサリーから陶器、Tシャツ、洋服まで売っている雑貨の「おしま屋」は女性客に人気だ。元気いっぱいの店主古田ゆかりさんのお勧めは、綿100%のポケット付ショールだという。妻が一緒にいたら買わされていただろう。(*_*;) 

ストリートアート

 「街をアートで一杯にしたい」という古田さんの案内で見に行ったのが、2012年に始まったばかりの「内牧温泉をアートで描く商店活性化事業」のブロック塀アート。熊本大学の松永拓己先生の指導で学生達が描いたストリートアートは、普通のブロック塀をキャンバスにして、温泉街の目抜き通りに活き活きとした表情を与えていた。

食に文化あり

 夜は女将さんお勧めの居酒屋「七福人」のカウンターで、土地の人たちの方言を聞きながら心地よい時間を過ごした。阿蘇の酒「れいざん」を飲みながら、つまみはお店の人のお勧めで肥後茄子のマヨネーズ焼き、馬のホルモン焼きとコーネ(たて髪の下の脂身)の刺身。肥後茄子は大きいが大味でなく瑞々しく、ホルモンはしっかりとした食感で噛むほどに味が出てくる、コーネは口の中で溶けた。どれも東京では味わえない阿蘇の食文化を感じるものだった。

肥後茄子

馬ホルモン焼きと生野菜

珍味 コーネの刺身

 美味しいものを食べてホテルに戻ったら、ホテル自慢の源泉かけ流し温泉で暑かった一日の汗を流す。いくらでも溢れだすもったいないほどの温泉に、日々の疲れが癒されていく。これこそこの土地が旅する者に与えてくれる無上の喜び、恵みだと感じた。

信楽焼の内風呂
(阿蘇ホテル)

阿蘇神社と水の湧き出る商店街

歴史ある神社

 阿蘇市一の宮町宮地にある阿蘇神社と周辺の街歩きをするにあたり、観光ボランティアガイドの吉田俊一さんに案内をお願いした。吉田さんの説明では、阿蘇神社は神武天皇(初代天皇)の孫である健磐竜命(たけいわたつのみこと)を主祭神とする神社で、およそ2300年の歴史があるとのこと。阿蘇神社の宮司は代々健磐竜命の子孫が世襲しており、現在の宮司は第92代目にあたる。
 神社建築の面では、仏閣の様式で建てられた二層式の楼門が、日本の三大楼門に数えられ国指定の重要文化財に指定されている。

楼門を解説する吉田氏

印象的な宇奈利の行進

 阿蘇開拓の祖と伝えられる健磐竜命の徳をたたえ豊作を祈る祭事として、毎年7月28日に「御田祭(おんだまつり)」が行われる。国の重要無形民俗文化財に指定されているこの神事では、4基の神輿を中心に、宇奈利と呼ばれる白装束を身にまとった女性などが田畑の間を行進し、阿蘇の夏の風物詩となっている。 

水の湧き出る土地

 阿蘇神社がある一の宮町付近では、地形的な要因で強い圧力を受けた阿蘇カルデラの伏流水が、いたる所で自噴する。ところによって自噴水の高さは2mほどにもなり、地元の生活用水や農業用水として利用されている。

自然に噴出する伏流水

水の恵みで発展する商店街

 阿蘇神社の参道は全国的にも珍しい横参道(参道が楼門から左右にのびている)になっている。楼門を出て北に参道を行くと「阿蘇一の宮門前街」がある。この門前町が豊富な湧水を使って地域活性化を行い人気だという。
 地域住民が力を合わせ、自然と共存し、子供たちのために住みよい、活気に満ちた街にするという理念のもと、地元の伝統・文化でもある湧水を使って街全体に統一感のある景観を作り出してきた。多くの店舗の店先に「水基(みずき)」と呼ばれる水飲み場を作り、潤いのある環境を作ると同時に、道行く人に自慢の美味しい水を飲んでもらうというコンセプトが今では多くの観光客を惹きつけている。

水基の数々

 一の宮門前街の楽しみは水基だけではない。地元の食材と湧水で作った料理やスイーツ、湧水を使って淹れたコーヒーなど、ここにしかない食べ物を探すグルメ散策ももう1つの魅力といえる。
 記者はランチに食べた「高菜混ぜご飯」の美味しさが忘れられず、漬物屋で阿蘇の高菜漬けを購入した。また水基巡りをする観光客に人気が高いという「馬ロッケ」を試食。注文を受けてから揚げる馬肉入りコロッケは、独特の香りとアツアツのホクホクで散策の友として最高だった。

馬肉入りの「馬ロッケ」

火山の恵み(阿蘇五岳)

 取材を終えて空港へ向かう途中、国道から南の方角を眺めると緑色に広がる田んぼの彼方に、阿蘇五岳がその姿を現していた。阿蘇の人はその山並みを仏の寝姿に例える。車を止めてカメラのシャッターを切りながら、ガイドの吉田さんの言葉を思い出した。「阿蘇の広大な田んぼを千枚田といいますが、その景色は季節によって全く違います。春田植えの前に水をはったところは湖のようで、夏はちょうど今のように青々として、秋の収穫前は黄金色になるんです」横たわる仏陀が湖に浮かぶところや、黄金の稲穂に包まれるところを心に思い描きながら、「また違う季節に来たい!」と思った。

仏の寝姿に例えられる阿蘇五岳

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