京都で日本文化を体感《ワックジャパン》

 京都を訪れる外国人旅行者は多い。歴史ある寺社や木の温もりがある京町屋、華やかな舞妓の姿に日本文化を感じていることだろう。また世界中で人気が高まっている和食の神髄を楽しめることも京都の魅力である。だがただ見て食べるだけではなく、自ら日本文化を体験し、和食を作るとなると、なかなか機会がないのが実情だ。そこで今回は京都における日本文化体験プログラム、および一般家庭訪問による国際交流活動で定評があるワックジャパンの体験プログラムを紹介したい。

錦市場で和の食材を物色

「京の台所」と呼ばれる錦市場商店街は、1615年に徳川幕府から魚市場として営業が許されて栄えたのが始まりといわれ、400年の歴史がある。昭和2年に京都中央卸売市場ができて、卸売市場としての役割は終えたが、現在でも東西390メートルの商店街に126店舗が軒を連ね、京野菜や漬物、佃煮や乾物、豆腐や湯葉など京料理に欠かせない食材が何でも手に入る。惣菜屋や菓子店も多く、食堂もあるため観光客が試食したり、ランチやおやつを食べながら土産物を物色している。珍しい食材や色鮮やかな菓子類などが所狭しと並べられ、そこに京都の文化や食生活が狭間見られるために、外国人旅行者にも大変人気がある。店員も慣れたもので、片言の英語で商品を説明し試食を勧める。
 ワックジャパンの体験プログラムに、この錦市場商店街での買い物と、買った食材での和食料理体験がある。参加者に同行してその様子を取材した。

 インド出身でオーストラリア在住のヒマンシュ・ラカニさん(Mr. Himanshu Lakhani)とアラティ・ラカニさん(Mrs. Arati Lakhani)にお話を伺った。ラカニさん夫妻は、16日間の日程で日本を旅行中で、文化的なものが好きな夫人の希望により、京都を中心に広島、高山、伊勢・鳥羽などを回り、最後に東京から帰国するという。京都では嵐山を訪ね、舞妓ショーを見るとともに、ワックジャパンの体験プログラムを楽しんでいる。この日の錦市場商店街散策と和食料理の他にも、別の日に書道や折り紙の体験を予約している。
 ワックジャパンのガイド赤水陽子さんは、商店街の色々な店に立ち寄りながら、特に外国人が見慣れない和の食材について説明していた。漬物の種類や作り方、昆布や鰹節のうま味成分と利用法など、外国人旅行者が自分で散策するだけでは分らない情報が満載で、参加者も興味深そうに聞いていた。
 肉類などのタンパク質を始め、多くのアレルギーがあるというアラティさんは、食品に関してとても慎重で、何であるかを確認しながら試食をしていた。お気に入りは揚げると花が開いたように見える加工葛そうめんと折りに入ったにぎり寿司型の飴で、お土産に購入していた。
 ガイドの赤水さんは「この後の料理で使います」と言って、京乾物の店で削り節を買った。いったいどう使うのか、乞うご期待、という感じで。

和食料理体験

 錦市場商店街の買い物体験を終えて、参加者は和食料理体験の会場へ移動した。料理体験コースはワックジャパンの築100年の町家の台所か、別館のリフォームした町家の台所のどちらかで行われる。この日はリフォームした町屋のキッチンを使って、英語で料理を教えることができる木村万知子さんを講師として料理体験が行われた。
 料理教室に参加したのは2組。キムバーリー・カメラさん(Ms. Kimberley Camera)とクリスティン・カメラさん(Ms. Kristin Camera)の母娘はニューヨークから10日間の観光で来日。母親のキムバーリーは以前にも来日経験があり、ジブリのアニメは全部見ているという娘のクリスティンは今回が初めてだという。東京ではジブリ美術館に行って最高だったと、未だに興奮冷めやらずといった様子。もう1組はロンドンから2週間のハネムーンで来たロブ・ミラードさん(Mr. Rob Millard)とアリス・ミラードさん(Mrs. Alice Millard)の新婚カップル。京都の前に富士登山に挑戦したという。8合目で他の登山客と大部屋で雑魚寝したのは大変だったが、何より富士山頂から見たご来光は最高の思い出になったようだ。
 巻き寿司作りをメインとした料理教室は、まず鰹節についての解説から始まった。今では日本人でもその手間を省いてしまっている鰹節削りを参加者が順番に体験する。鰹節が硬くて木のようであること、削り節は魚の香りがすることなどを体感し、講師が鰹節と昆布に含まれるうま味成分について説明した。参加者が自分で削った削り節の味を確かめたあと「必要な分を全部削るのは大変なので、料理には先ほど錦市場で買った削り節を使います」と講師が削り節の袋を見せると、参加者は納得の表情で微笑んだ。
 そのあとは巻き寿司用の酢飯を作り、先ほどの削り節でとっただし汁の味見をしてから、一番難しい和風卵焼きに挑戦した。だし汁を入れた溶き卵を卵焼き用フライパンで、焼いては寄せ、油で拭いては焼き、焼いては前に焼いた卵の上に巻いていく。参加者は皆真剣な表情で交代に卵を焼き、上手く巻けると満面の笑顔で嬉しそうにしていた。ロンドンで週1回は和食を食べているというアリスとロブに、日本で食べたお気に入りの和食を聞いてみた。ロンドンの和食は寿司が中心なので、日本に来て焼き鳥のファンになったという。その彼らが今回の料理教室で最も楽しんだのが卵焼きだった。「難しかったけど、とても楽しかった」と新妻のアリスが嬉しそうに言った。
 焼き上がった卵焼き、キュウリ、カニ棒など具材が揃ったところで、いよいよ巻き寿司を作る。巻き簾の上に焼き海苔を広げ、その上に酢飯が適量ずつ盛られていった。講師の指導で、酢を混ぜたフィンガーボールの水を手に付けて、各自自分の手でご飯を海苔の上に広げ、具材を載せて巻いていく。巻き簾の持ち方、指の使い方、力の入れ方など、寿司を巻き始める瞬間に一度に必要なコツを講師が説明する。一斉に巻き始めると、4人ともとても上手く巻くことができた。ニューヨークから来たカメラ母娘は、この寿司ロール作りがとても楽しかったという。それにだし汁のことを何も知らなかったので、とても勉強になったようだ。2人とも元々和食のファンではあったが、日本で食べる和食はニューヨークで食べていたものと比べ「ずっと、ずっと美味しい」と娘のクリスティンは力を込めて言った。また錦市場での買い物体験では、ガイドが「(野菜や魚など)食べられるところは何でも食べて、何も無駄にしない」と言っていたのが印象的だったという。
 カメラ母娘もミラード夫妻もどちらもこれまでは欧米の多くの国に旅行した経験がある。「これまで行った外国でお気に入りはどこ?」と質問してみたが、2組とも躊躇なく「日本!」と答えてくれた。また全員が、日本は欧米とは全く違う文化があることが面白い、そしてその異文化を体験することが日本を旅する最大の楽しみだと教えてくれた。

着付けと茶道体験

 ワックジャパンの体験プログラムの拠点である「わくわく館」は、築100年ものの京町屋をそのまま利用しており、素敵な坪庭も含め京都の生活文化が感じられる「和の体験」に相応しい場を提供している。その「わくわく館」で着物の着付けと茶道の体験プログラムを取材した。
 ロンドン近郊から来たというティムとルーシーの2人連れは大の旅行好きだ。これまでヨーロッパは勿論、米国、ペルー、ロシア、オーストラリア、ニュージーランド、インド、中国などを旅してきた。今回は10日間の予定で日本を楽しんでいる。東京・箱根・広島と回って、このあと京都と奈良を3泊4日で回る予定だという。
 猛暑日の京都に相応しいカジュアルな格好でわくわく館にやって来たティムとルーシーは、クーラーで涼んだあとに京町屋の2階で和服に着替えた。写真撮影と茶道体験のために1階に戻ってくると、2人とも全く別人に変身していた。「少し暑いし窮屈だけど、とても伝統的で特別な雰囲気がして優雅な気持ちになるわ」とルーシーが感想を聞かせてくれた。とても小さな和の空間である坪庭に出て記念撮影をした。浴衣ではなくちゃんとした着物をしっかり着付けしているためか、見るからに品があって、なおかつ初めて着たとは思えないほど様になっていた。
 茶道体験中は同席してやたらに写真撮影はできない。茶道講師足立明日香さんから写真撮影の許可が出るのを隣の部屋で待つことにした。襖越しに聞いていると、講師は茶の歴史、栽培法、葉茶と抹茶の違い、茶の健康法上の効能、そして作法とそれが現代の日本人にも与えている影響などを洗練された英語で説明された。そのあと講師の許可を頂いて暗い茶室で数枚の写真を撮ったが、茶を点(た)てるルーシーの姿はすっかり和の雰囲気に溶け込んでいた。プログラム終了後ティムとルーシーに感想を聞くと、抹茶を飲むだけなら他の場所でも経験したが、実際にお茶を点てるのは初めての体験で良かったし、何より講師の説明がとても良かったと満足した表情で語っていた。

バリアフリーの体験施設がオープン

 加えて、2015年8月末に新たにバリアフリーの体験施設を京都国立博物館の側にオープンした。椅子式階段昇降機や多目的トイレの設置といったハード面だけでなく、提供する体験メニューやラインナップの充実、英語対応や介護サポートのできるスタッフの常勤といったソフト面を付加することで、年齢や障害の有無に関係なく日本文化体験を楽しむことができるスペースとなっている。

有限会社ワックジャパン
〒604-0812 京都市中京区高倉通り二条上ル 天守町761
TEL:075-212-9993
FAX:075-212-9994
URL:https://wakjapan.com/ja/
最寄駅:京都市営地下鉄 烏丸線・東西線 烏丸御池駅 1番出口から徒歩7分
京都市営地下鉄 烏丸線 丸太町駅 6番出口から徒歩5分

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