富山の大自然と食の旨さに感動

本州の中部地方に南北に連なる3つの山脈がある。これらが俗に日本の屋根と呼ばれる日本アルプス。その中の一つ北アルプスは、西側が立山連峰、東側は後立山(うしろたてやま)連峰と呼ばれ、富山県から長野県までを結ぶ「立山黒部アルペンルート」は、世界有数の山岳観光ルートとして知られ、その雄大さ、美しさは訪れる者を魅了する。
黒部峡谷をトロッコ電車で行く秘境の旅は、秋ともなれば、美しい紅葉を求めて国内外から多くの観光客が訪れる。
豊かな大自然と美味しい食との出会いを求め富山を訪ねてみた。

みくりが池

五感が蘇る秘境の旅

 「ガルッペ」、聞き慣れない言葉であるが、ご存じだろうか。アイヌ語で魔の川を意味する。一説には、これから案内する「黒部」の語源とも言われている。「ガルッペ」が「ガルベ」そして「黒部」に。その黒部を知るために、温泉地として有名な「宇奈月(うなづき)」からトロッコ電車(黒部峡谷鉄道)に乗り終点の「欅平(けやきだいら)」へと向かった。当初、トロッコ電車は電源開発の資材を運搬するために作られたが、地元住民および観光客から黒部峡谷の景勝を見たいとの強い要望があり一般の人を乗せる観光電車になった。最初の頃は生命の保証はしないという条件で観光客を乗せていたそうだ。
 黒部峡谷は日本三大渓谷の一つで、「日本の秘境百選」にも選ばれている。車窓に飛び込んでくる荒々しい山々と原生林は神秘的でまさに秘境という言葉がふさわしい。非日常に身を置くことで、眠っていた五感が蘇ってくる。

黒部渓谷

新山彦橋

 途中下車したのが、万年雪が見られる「鐘釣(かねつり)駅」。1年中雪が解けないとされる「黒部万年雪」は百貫山(ひゃっかんやま)に降った雪が谷に堆積した雪の魂で、まるでスイーツのティラミスのよう。夏に来たら清涼感がありすがすがしいだろう。
 終点の「欅平駅」に到着したら、まずは「欅平ビジターセンター」を訪れたい。黒部の自然や開発の歴史等を知ることができる。

黒部万年雪

欅平の河原展望台

 ビジターセンターを出て下った所にある「河原展望台」からは、荒々しい姿の名剣山(めいけんざん)や黒部川本流に架かる朱塗りが鮮やかな奥鐘橋(おくがねばし)を見渡せる。また、奥鐘橋の上から眺める峡谷も絶景だ。橋を渡り切った先の歩道の頭上には、今にも口を閉じそうな「人喰岩(ひとくいいわ)」と呼ばれている岩石が覆いかぶさるように待ち構えている。通り抜けるのもちょっとしたスリルがあり面白い。その先をさらに進むと名剣温泉にたどり着く。温泉宿であるが、ここのコーヒーがこの上なく美味しい。富山の水だから美味しいのか、コーヒー豆の品質なのか、その両方なのか? どうぞお試しあれ。

奥鐘橋(おくがねばし)

人喰岩(ひとくいいわ)

大自然の恵みが富山の旨い鮨を作る

 夕食に富山湾で獲れた新鮮な鮨をつまんでみた。どれもほのかな甘みがあり大変美味しかった。甘みがあるのは新鮮という証しだ。
 どうして富山の鮨が旨いのか、カウンター越しに店主に聞いてみた。「北アルプスと立山連峰の雪解け水や雨水が豊富な養分を含んだ土壌に浸透し、富山湾に流れ込むんだ。また、富山湾は日本海側では一番深い湾で、海底からは湧水が出ている。ミネラルが豊富なんだね。この質の良い海水が富山湾の美味しい魚を作っているんだよ。暖かい対馬海流と冷たい深層水等が混ざり合う複雑な海流なので、暖流系と冷水系の魚が500種類も棲んでいる。富山湾が天然の生簀(いけす)と言われるゆえんはここにあるんだ」
 食通の間で最近話題となっているご当地ブランド「富山湾鮨」について聞いてみた。「県内約60軒の鮨店で提供されていて、1セット10貫で汁物が付いている。ネタはその日富山湾で獲れた新鮮な海の幸だから季節によりいろいろ楽しめるよ。値段は店により2,000円から3,500円。人気があるので、予約した方がいいね。うちには外国人のリピーターも来るよ」と先日、外国人とのやり取りをした英語のメモ書きを見せながら語ってくれた。その顔には、富山の食に対する愛着と自信がみなぎっていた。
 一度食べたらまた食べたくなる富山の味覚、日本人のみならず外国の美食家たちの舌もうならせているようだ。

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富山湾鮨

絵葉書そのままの立山黒部アルペンルート

 富山県南東部にある「立山」は、「富士山」、「白山(石川県と岐阜県にまたがる山)」と並ぶ日本三霊山の一つに数えられ、古くから神や霊が宿る場所として崇められてきた崇高な山だ。
 昔は限られた者だけが訪れることができたが、今では、交通機関が整備されたことにより「立山黒部アルペンルート」として、年間100万人もの観光客が国内外から押し寄せる一大観光地になっている。
 富山県側からは、立山山麓の立山駅からケーブルカーに乗り美女平(びじょだいら)へ行きバスに乗り換え、高さ20メートルに迫る雪壁に圧倒される「雪の大谷」の間を通り、標高2,450メートルの室堂(むろどう)へ。室堂から歩いて約10分の所に、青い湖面とその背後の立山の姿が美しい「みくりが池」がある。まるで絵葉書のようだ。室堂からは日本で一番高い所を走るハイブリッドバスに乗り立山直下のトンネルを抜け大観峰(だいかんぼう)へ。そこからは標高差500メートル、全長1,710メートルの距離を途中支柱が1本もいないワンスパン方式のロープウェイに乗り黒部平(くろべだいら)へ下る。途中、目の前には黒部湖と後立山連峰の雄大な景色が広がる。黒部平から黒部ダムのある黒部湖までは、豪雪対策や景観を守るため全線地下トンネル式のケーブルカーで行く。計5種類の乗物は、どれもユニークなので楽しめる。

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雪の大谷

ワンスパン方式の立山ロープウェイ

黒部ケーブルカー

立山黒部アルペンルート行程図

大自然と調和する圧巻の黒部ダム

 黒部湖駅のトンネルを出ると、黒部ダムの大きな堤防の上に出る。右側は水を溜めておく上流の黒部湖、左側は放水される下流で、高さが186メートルもあるので下を見下ろすと足がすくんでしまうくらい怖い。
 対岸のダム展望台は、絶景ポイントで美しいアーチ式ダムと立山の大パノラマが楽しめる。

ダム展望台から見た黒部ダム

 この展望台には、ダム建設当時、突破するのに困難を極めた関電トンネルの破砕帯(地下水を溜め込んだ軟弱な地層)から湧出する水が引かれている。 洗面所の蛇口をひねると氷水のように冷たい水が出てきた。こんな冷たい水を相手に作業したことにただ驚くばかりで、当時の苦労がしのばれる。
 また、ぜひ立ち寄りたいのが、ダムレストハウス3階にある「くろよん記念室」。ここでは、ダムの歴史紹介や掘削作業を再現しているろう人形が飾られている。ダムで働く男たちの苦悩を描いた記録映画「くろよん物語」は必見。
 時間があれば、黒部湖遊覧を楽しみたい。船の名前は、「ガルベ」――そう例のアイヌ語で魔の川を意味するガルッペだ。
 船は日本で最も高い標高にある黒部湖を30分かけて一周する。エメラルドグリーンの湖面から見渡す黒部湖周辺の景色は、また格別で、肌にあたる風がとても気持ち良い。

黒部湖遊覧ガルベ

ガルベからの景色

東京から2時間7分ブレイクの予感

 富山の自然美がこんなに素晴らしいとは思いもしなかった。もっと早く富山を訪れておけば良かったと、ちょっと悔やんでいる。
 来年の3月には北陸新幹線が東京駅から富山駅まで開通し2時間7分で結ばれる。旨い鮨を食べに、そして雄大な大自然に触れたくなったら、週末、新幹線に飛び乗るつもりだ。

富山観光ナビ
http://www.info-toyama.com/ (日本語)

Tourism information in Toyama
http://foreign.info-toyama.com/en/ (English)

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