絶景の秘境鉄道 只見線

絶景の秘境鉄道 只見線

(福島県会津若松市)

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福島県会津若松市の会津若松駅から新潟県魚沼市の小出駅まで135kmあまりのローカル線が人気となっている。日本人はもちろん、海外からもこの鉄道風景を目的にたくさんの人々が訪れている。理由はご覧の通りの秘境の絶景で、新緑の季節には一面爽やかな緑の世界が広がり、秋には鮮やかな紅葉に包まれる。また冬の雪景色がさらによく似合う。2003年「雪景色のきれいなローカル線ベストテン」第1位。特に第1只見川橋梁は日本の有名な橋梁ベスト3に常にランクイン。中国最大のSNSの微博(ウェイボー)では「世界で最もロマンチックな鉄道」と紹介されているそうだ。1942年に開業、1971年に全線開通した只見線。全国でローカル線が廃止に向かう中、県や沿線自治体の強い意志があって存続している。3月の初旬、冬の終わりにこの秘境路線を訪れた。

*第1只見川橋梁を渡る只見線の3両編成の列車:動画 https://youtu.be/VtOI3vB_xcQ

 早速、第1只見川橋梁の撮影スポットに立ちカメラを構えた。深い谷の向こうに鉄橋が見え、周囲の風景と相まって雄大な景色が広がる。横にカメラを構えた地元の写真家によると、「今年は雪解けが例年より3週間以上早いですね。暖冬なんですね。」もちろん私も、多少は雪景色を期待していたが、今年はすでに雪はほとんど消えていた。それでも雄大な景色とローカル線の列車という景色は十分魅力的である。1日に6往復する只見線は撮影可能な日中の時間帯では上下線それぞれ3回と、とても少ない。7時台と9時台には2本ずつ続けて列車がやってくるので、ちょっと忙しい。鉄道の撮影では頻繁に時計とダイヤを交互ににらむことになる。撮影チャンスはほぼ一瞬で過ぎ去る。第1橋梁の手前の駅、会津西方(あいづにしかた)駅を13:03に出発した上り列車は2分後に第1橋梁を通過する。山間からおもちゃのような3両編成の列車が現れた。スピードも意外とゆっくりと、しかしガタゴトと大きな音を上げて通過していった。一瞬だが景色全体が大きく動いたように感じた。

自治体によって整備された撮影ポイント​​

 美しい只見線を撮影するポイントはいくつもある。地元の人しか知らない秘密のポイントもあるという。第1橋梁を望めるビューポイントはここ、国道252号線の会津桧原(あいづひのはら)駅と会津西方駅の間にある道の駅、「道の駅尾瀬街道みしま宿」の横にある。駐車場から整備された遊歩道を通り、こちらもきちんと整備された山道を少し登ると、3箇所のビューポイントがある。多くのカメラマンが三脚を立てたり、カメラを手に列車の通過を待つ。この日も多くの人々が来ていた。地元の写真家によると、「只見線を撮影に来る外国人はとても多いです。特に台湾からの旅行者が多いですね。」と語る。確かに見た目にははっきりとは分からないが、聞こえてくる会話は日本語ではないことが多い。海外からこんな山奥にまでたくさんの外国人がやって来ている、そのパワーと情報力には脱帽するばかりである。

道の駅尾瀬街道みしま宿

只見線の車両と震災による傷跡​​​​

 只見線の1日の乗車人数は300人程度で、使用されている車両は1980年前後に製造されたキハ40型気動車。只見ユネスコエコパークのPRを兼ねたラッピングカーが1両運行している。ユネスコエコパークとはユネスコが実施する「生物圏保存地域(Biosphere Reserves)」の日本国内の呼称で、日本国内では9件が登録されており、只見は2014年に登録された。

*会津桧原・会津西方間の山間を進むラッピングカー:動画  https://youtu.be/NxrMRA6TNe4

 会津若松側の只見川と、新潟県小出側の破間川(あぶるまがわ)の二つの川に沿って走る只見線は、平成23年3月の東日本大震災と、同年7月の新潟・福島豪雨によって鉄橋の流出や土砂崩れによる線路の崩壊など、甚大な被害を被っている。特に被害が大きかった会津川口駅・只見駅間は現在(2019年4月)でも不通となっており、バスによる代行輸送となっている。今回の撮影はこの区間のうち、特に只見川の秘境との相性が良い、会津桧原から会津中川の区間に絞った。

*第3橋梁を渡る3両編成の列車:動画  https://youtu.be/ov4PFtLog48

翌朝は一面の銀世界​​​​​​

*第4橋梁を渡る只見線の3両編成の列車:動画  https://youtu.be/k-_70dhn1-E

 翌朝、まだ薄暗い外を見ると、一面銀世界となっていた。前日はところどころに残雪が見られる程度だったが、幸運にもこの日は真っ白な世界。当地では久し振りの積雪とのこと。きっと只見線も別世界になっているはず。前の日に地元の写真家に教えてもらった撮影スポットへ向かった。見事な銀世界。モノトーンの絵画の中を緑色のラインを纏った3両の列車がゆっくりと鉄橋を渡っていく。信じがたいほど、言葉にできないほど美しい、まさにロマンチックな物語の世界である。海外からも人々を引き寄せる魅力が理解できた。

*第2橋梁を渡る2両編成の列車:動画   https://youtu.be/JowPqUHF0gk

*第1橋梁を渡る3両編成の列車:動画   https://youtu.be/RLdRI278XZI

日本の原風景​​​​

 現在開通している60kmあまりの間に20の駅が存在し、ほとんどが無人駅である。まさにのんびりと山間を進む只見線は、見ていてどこかホッとする。ここは日本の原風景なのかもしれない。只見川に沿って走る只見線と国道252号線。列車に乗って楽しむのもよし、車で移動して撮影スポットを巡るのもよし。ただし、車の運転には十分気を付けたい。ところどころにはもちろん地元の方々の日常の生活があるのだし、どこに行っても旅人は節度を保っていたいと思う。

*かねやまふれあい広場と只見川の間を通るラッピングカー この車両は只見川をイメージした青緑色をベースに、エリアの動植物を配置して「只見ユネスコエコパーク」のPRも兼ねている:動画   https://youtu.be/5hoPUUWJET0

 四季を通じて楽しむことができる只見線とその沿線。実は周辺には名湯や秘湯が数多く存在している。秘境のローカル線と秘湯の組み合わせは旅の楽しみを倍増させる。今回は只見線の入り口とも言える、柳津温泉に宿泊し、当地の人々の親切なサービスと優しさにも触れることができた。秘境の鉄道はそんな地域の魅力にも囲まれて、多くの旅行者を受け入れている。2021年度中の全線復旧が楽しみである。現在は不通になっている会津中川駅の先では破間川の隠れた絶景も見ることができるだろう。

(撮影・執筆/松本 新:SHARATA 株式会社アドワイヅ、http://www.sharata.info/

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