葉っぱが過疎地を救う 人々が活き活きと暮らす徳島県上勝町

過疎化と少子高齢化が進む日本。そんな中で高齢者そして移住やUターンで戻って来た若者が活き活きと暮らしている町がある。人口約1700人でそのほとんどが65歳以上の高齢者。その高齢者の中には農業で年収1000万円稼ぐ人もいるという。また若者の中には以前銀行で働いていた人や、海外の大学で学んだ知識を生かして地域を活性化したいという志の高い女性などもいる。そんな若者をも引き付ける魅力とは何かを確かめるために、徳島県のとある山間の田舎町を訪れてみた。

西蔭幸代さん

葉っぱが地域を蘇らせた

 徳島空港から車で徳島市内を通り抜け山道を行くこと約1時間30分、到着したのが四国で一番小さな町の徳島県上勝町(かみかつちょう)。過疎が進み寂れゆくこの町を、一転希望のある明るい町に変えたのが季節の葉の「つまもの」。つまものとは、日本料理に添えられる笹やもみじなどの葉っぱのこと。高品質な上勝町のつまものは、全国各地からオーダーが舞い込む人気商品で高級料亭の吉兆でも使われている。その葉っぱを栽培出荷するのは、70歳を超える元気なおばちゃんたち。

 その話を聞きつけたマスコミや全国の自治体関係者、そして海外からの視察団などがその成功の秘訣や取り組みを知るために視察に訪れている。
 そこで、この「葉っぱビジネス」の立役者、株式会社いろどりの横石知二(よこいしともじ)代表取締役社長に話を伺った.

【葉っぱビジネスの立役者横石知二さんに聞く】

横石知二さん

大阪でひらめく

 ― 葉っぱ(つまもの)ビジネスを始めたきっかけはなんですか。

 上勝町の主力産業であったみかんが、1981年2月の異常寒波で壊滅的な被害を受けてしまいました。それから、軽量野菜のホウレンソウやワケギ、そしてシイタケ等を栽培していったのですが、シイタケの原木は重くて高齢者には負担なのでそれに代わるものを考えていました。そんなとき、大阪の難波にある飲食店で、3人組の女子大生の1人が料理に添えられていた赤いもみじの葉っぱを見て、きれい、かわいい、と喜んでいいました。
 その光景をみて、“これだ 葉っぱを売ろう!”とひらめきました。

田舎の高齢者はプライドを持って生きている

― 最初から上手くいったのですか。

 大阪から帰り働いていた農協と農家の人たちに葉っぱの可能性について話をしたのですが、反対ばっかりでした。タヌキやキツネじゃあるまいし、葉っぱがお金に化けるんだったら、そこらじゅうに御殿が建つわ。と、バカにされ大笑いされました。高齢の農家の人からしてみれば、葉っぱを拾うということは恥ずかしいことで、プライドが許さなかった。
 しかし、私は次の3つの覚悟をもって働きました。「地域の人から信頼を得る」、「愚痴を吐かない」、「地域の人の所得を上げていく」。そのうち花木農家の4人からやってみてもいいよとの返事がもらえました。そこで葉っぱビジネスの元となるブランンド「彩(いろどり)」を立ち上げました。これが1987年のことです。しかし、最初、市場ではゴミ同然でまったく売れませんでした。

現場を知れば本質が分かる

― どうして売れるようになったのですか。

 ある日、彩のつまものの商品を見た料理人から、こんな葉っぱは使えないよ。ときっぱり言われました。そう、私は葉っぱを扱う現場(料理人)の意見と消費者(飲食店で食事をする人)の趣向を調べもしないでビジネスをしていたのです。
 それから現場を見ようと料亭の裏木戸から入って厨房に行き話を聞こうとしたのですが、全く相手にされませんでした。それでもしつこく聞こうとすると、ここでは言えないようなかなり危ない目にもあいました。30年前の板前さんの世界は非常に封建的で厳しいものでした。
 それではと、客として料亭に通うと、とても丁寧に説明をしてくれました。そこで見聞きした経験を農家に伝えていきました。すると葉っぱの見栄えや品質が上がり市場で値段が付き始めました。それと引き換えに、私は度重なる料亭通いで痛風になってしまいました。(笑)

田舎と高齢者にこそITが必要

― 葉っぱビジネスの成功の要因はなんでしょうか。

 現場で働く農家のおばちゃんや市場の人たちとの信頼関係を築けたことと、料亭などの現場に行って肌で感じたことを現場に反映させたことです。もう1つとても重要なのが、ITを推進したことです。コンビエンスストアのPOSシステム(販売時点情報管理)を取り入れ葉っぱの在庫と出荷管理を行い、おばちゃんたちにパソコンを使いこなしてもらったことです。パソコンは高齢者でも使えるように改良しました。おばちゃんたちはパソコンから得た情報を分析することで思考力が高まり、指先も使うので脳の働きが良くなり健康維持にも役立っています。
 この情報システムの仕組みを作ったことが大きな成功につながったと思います。

上勝町のカフェでさりげなく添えられている地産のつまもの

常に新しいことにチャレンジ

― 最後に、今後の展開をお聞かせください。

 1つは、葉っぱを海外に輸出し拡大していくことです。今年、フランスとタイに行き日本食レストランなどに売り込みをしてきました。おかげさまで、上勝町の葉っぱは、今、国際線に乗り海を渡っています。これには、おばちゃんたちに自信と誇りを持ってもらうという意味もあるのです。
 2つ目は、後継者の育成です。そのためには都会の若者たちに移り住んでもらいたいと思っています。そこで、上勝町に興味のある人には農業体験など通じて町の人との触れあう場を作りました。これを「マッチング空間」と呼んでいるのですが、お互いの相性を事前に判断するものです。
 3つ目は、「いろどり山」を作ること。町にある荒れた山々を色彩豊かな美しい山に再生させることです。
 そうすれば、春には梅や桜、秋には紅葉を見に、そしておばちゃんたちとの触れ合いを求めて国内外からたくさんの観光客が訪れるはずです。

【葉っぱで若返る生産農家の西蔭幸代(にしかげゆきよ)さん】

 大学時代に海外留学の経験もある(株)いろどりスタッフの中田朱美さんに、生産農家を案内してもらった。家に着くと笑顔で迎えてくれたのが現在78歳の西蔭幸代(にしかげゆきよ)さん。そして北海道大学大学院に留学中の中国人の劉逍(りゅうしょう)さんがこの日インターン研修生として体験に来ていた。劉さんは、大学のゼミで知り興味が湧いたので応募して来たという。

とても若々しい西蔭幸代さん

中田朱美さん

西蔭さん(左)と劉逍さん(右)

葉っぱに取り組む姿勢は真剣そのもの

 「葉っぱはこの位の大きさのものを選んで、切る位置はこの辺りね」と、ハサミと定規を使って丁寧に指導をする西蔭さん。草木の生い茂る庭の中で二人は黙々と葉っぱを摘んでいく。その真剣な姿に声をかけるのもはばかれるほどであった。

 午前10時の時報を聞くや否や、足早に家の中に戻る西蔭さん。向かった先のパソコンでは特注のマウスを動かしながら画面とにらめっこ。「農協(JA東とくしま上勝支所)から流れてくる注文を見ているの。オーダー入れたけど×が出ちゃった。先を越された。注文の落札は早い者勝ちなんです。」と悔しがる西蔭さん。まるで株のデイトレードをしているように見えた。
 パソコン操作などで困ったときは、(株)いろどりのスタッフが駆けつけて教えてくれるそうだ。このバックアップ体制が構築されているのが何よりも頼もしい。
 葉っぱビジネスにこれだけ熱心になれるのは、少しのギャンブル性とおばちゃんたちを支えてくれる関係者との絆にあるのだと思った。

注文情報を見入る西蔭さんと劉さん

やることがあれば人は前向きになれる

 「以前は繊維メーカーの会社で働きながら、みかんや栗などを栽培していたけど、今はこの仕事1本です。葉っぱは軽くて綺麗だから私みたいな高齢者でも苦労なくやっていけます。こうして劉さんのような優秀な若いインターンも手伝いに来てくれるし、生きがいを感じています」西蔭さんは実年齢よりも10歳は若く見え、本当に生き生きとしていた。
 仕事があって、人との交流がある。この「出番」と「役割」が高齢者のみならず、全ての世代の人に必要なものだと感じた。

タブレット端末を使う西蔭さん

今日採れた出荷用の葉っぱ

【ヤッホー調査隊武市卓也さんの郷土愛】

ヤッホーの声の出し方や心構えを説明する武市卓也さん

地元の大自然を観光資源に昇華

 山に囲まれた上勝町で、その自然を生かしたユニークな取り組みで脚光を浴びているのが、「上勝ヤッホー調査隊」。“ヤッホー”と山に向かって叫ぶとそれが反射して返ってくるあの山びこにもっと親しんでもらおうと、山びこに関する知識やホラ貝を吹く能力を試す「やっほー検定」を行っている。それを始めたのが、上勝町のイケメン武市卓也さん。普段は「パンツからドンペリまで」というキャッチフレーズのお店「たけいち笑店」を営みながら、カリスマヤッホー認定士としても活動している町のエンターテイナー。
 記者は旅の思い出にと軽い気持ちで武市さんの指導の下ヤッホー体験にチャレンジしてみた。

何でも揃う“たけいち笑店”
シンプルだが奥が深いヤッホー

 「山には畏敬の念を持って向き合うこと、山に向かって叫ぶことは霊的な力を持つ言霊を山に届けることなので、美しい言葉を発しなければいけません」と武市さんは説く。
 「では、山に向かって左の腰を垂直に向けて、その腰に左手を当てる。右手は口に当てて、ヤッホーを叫ぶと同時に右の腰を山に向かって水平に動かす。はい、やってみてください」
普段、めったに大きな声を出さないのと照れもあり、最初は大きな声が出ず良い山びこが返ってこなかった。
 「大きな声を出すコツは3回に分けて行うこと。最初はささやく感じで、2回目はやや大きく、最後は腹の底から出す感じで最大限の大きさで叫ぶ。そうするときれいに澄んだ山びこが返ってきます」。言われたとおりにやってみると自分でも納得のいく山びこが返ってきた。
 調子に乗り、「スキ!」と叫んでみた。すると「スキ!」と自分に返ってきた。(誰からも言われたことはないが...)。

ヤッホーのスタンダードのホーズ

意地になって吹いたホラ貝

 次に挑戦したのが、ほら貝を吹いてその音色を山々に響き渡らすこと。最初に武市さんの山々に響き渡る音色を聴いた後に何回もトライするが、プッとしか音が出ない。
 「コツは、吹き口を唇の端に付けて溜めた息に圧力をかけて吐き出す感じ」との助言を受けて何回もトライをしてみると徐々に音が出るようになってきた。唇がヒリヒリするまでやったかいがあり、最終的にはブォ~ンと音が山々に轟くようになった。ちょっと大げさだが、達成感があった。
 このヤッホーとホラ貝の体験、やる前はなめていたが、行ってみるとかなりのめり込み無心になっていた。

選ばれた人だけが吹ける黄金のほら貝

80カ所以上あるヤッホースポットの一つ「男と女のラブゲームポイント」の看板

自然を通じてみんなが幸せになる

 最後に今後の取組などを聞いてみた。
 「今の日本、いろんな要因がありますが男女がどう接していいのか分からない人が増えていると思います。だから、ちょっとしたことでもすぐにセクハラだとかのトラブルになったりします。そこには小さい時からの男女のコミュニケーション不足も影響しているように思うんです。昔、中学校の運動会ではフォークダンスがあって男女の交わりがありました。今、フォークダンスはほとんど行なわれていません。とても残念なことです」
 「こうした時代に、このヤッホーとホラ貝体験は、修学旅行や企業研修にも活用されています。プログラムには、男女がペアになってハートマークを作ったりと、人と人とが触れ合う仕掛けも入れてあります。みんな始める前は、バカにしているのですが、終わってみると、参加者同士(同僚等)の距離が近くなったとの声をよく聞きます。人間関係が良くなる効果があるみたいです」
 「地元上勝町の人そして町を訪れてくれた人みんなが楽しく幸せになるように、上勝町全体を自然のテーマパーク、ハッピーワールドにしたいと思っています」
 今年お孫さんが生まれた50歳台半ばの武市さんの顔には、ヒューマン愛と上勝町愛が漲っていた。(SM)。

【取材協力】
「株式会社いろどり」
http://www.irodori.co.jp/
上勝ヤッホー調査隊
http://ameblo.jp/kmktyahhoo/

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