2026年1月23日 / 最終更新日時 : 2026年1月26日 ihcsacafe_user 全ての記事 奄美大島の自然と恵み Part Two ~黒糖焼酎と奄美の食~ 奄美大島の自然と恵み Part Two ~黒糖焼酎と奄美の食~ 印刷用PDF 初めての土地に行ったら、その土地の料理が食べたい。そして、個人的には地酒が飲みたい。記者の知人であり、奄美大島のツアー会社アマニコガイドサービスのガイドである佐藤伸一郎さんに、奄美の食を探求する1日ツアーを企画してもらった。伝統的な「島めし」、奄美地方でしか作ることができない「黒糖焼酎」、そしてその酒に合う「地魚」に巡り会った1日を写真と共にご紹介する。 自然の恵みを食べる(島めし屋かのう) ランチは佐藤さんお勧めの「島めし屋かのう」で、伝統的な「島飯」をいただいた。実は島の北と南で島飯の肉が違う。南は沖縄の影響を受けた豚肉で、北は江戸時代薩摩藩の役人をもてなしたともいわれる鶏肉だ。奄美大島の中心である奄美市では「鶏飯(ケイハン)」の看板を目にすることが多く、お土産屋で売っているのも鶏飯である。島めし屋かのうは島の南部瀬戸内町にあり、南の豚飯(ブタミシ)のランチセット「豚飯(かのうでは『トンハン』と呼ぶ)」がメインだ。 島めし屋かのうのご主人叶辰郎(かのうたつろう)さんは、「自然栽培黒糖を作る百姓」と自ら名乗り、農薬を使わず肥料もほどこさないでサトウキビや野菜・柑橘類などを作っている。また、奥様の淳子さんはご主人の作る美味しい黒糖や農作物を材料として、奄美の自然を感じられる料理に腕を振るう。 叶辰郎、淳子夫妻 ランチセットを写真で紹介すると、手前の横長の皿にある白いものが塩抜きした豚肉。豚飯の豚肉は、その昔冷蔵庫が存在しない頃に保存食であった塩漬けの豚肉を使う。塩漬け肉は猛烈に塩辛いので、何日も水に浸けて塩気を抜くそうだ。豚肉の隣が島鶏の錦糸卵とシイタケ。その左上が島の紫山芋をモチモチ食感に揚げたもので、右隣の煮物のサツマイモ同様ご主人が作った野菜だ。 右の小鉢3つが薬味で、ピンクが島ショウガ、オレンジ色に緑のラインがパパイヤ漬薄切り、そして青いレモン皮のみじん切りなど、全て辰郎さんが育てたものを淳子さんが調理している。 お膳の一番上にある丼は出汁で炊いたご飯で、これにおかずや薬味などをのせて食べる。まずおかずをそれぞれ食べて、次にご飯にのせて食べ、最後は上の写真右奥に半分写っている小鍋に入った出汁をかけて、お茶漬けのようにして食べる。自然栽培の野菜はもちろん、塩抜きした豚肉も、豚飯にかけて食べる出汁も全てが優しい味だ。出汁の味は東京のお雑煮の澄まし汁に豚のエキスを加えた感じで、これまで食べたことのないこの島の味なのだと思った。 ローゼルの果実 ローゼルの果実のガクと苞(ほう)を乾燥させて作るローゼルティー 料理だけでなく、飲物にも島の恵みがあふれている。セルフサービスのドリンクバーには、レモングラス・月桃(げっとう)・ローゼルなどハーブティーが並ぶ。ローゼルをホットで飲んでみた。お湯を入れるとピンク色に染まりだし、しばらく待つとハイビスカスの花のような濃いピンクの液体になる。奄美大島にしては涼しく、叶さん夫妻は「寒い」という11月の雨の日には、心身温まる気がするハーブティーだった。 それにもう1つ、不思議な飲物「みき」がご飯のかたわらに添えられている。奄美から沖縄、宮古、八重山諸島に至る弓状に連なる島々で、原材料や製法は異なるものの神事や祭りにおいて神様に捧げる発酵飲料だ。「みき」は「神酒(みき)」に由来すると言われている。今回いただいたのはサツマイモと米のみきに黒糖を加えたもので、植物性であるにもかかわらずヨーグルトのように乳酸菌を多く含む。つまり乳製品にアレルギーがある人や、動物由来の食品を避けている人でも乳酸菌飲料として飲むことができ、アルコール分はない。 サトウキビ畑 手刈り収穫したサトウキビ 食後に叶さんのサトウキビ畑を見せていただいた。叶さんのこだわりは、土作りに肥料は使わず、雑草やサトウキビの葉などを畑に戻すこと、一本ずつ手刈りをすること、薪を使って昔ながらの製糖方法で黒糖を作ること、旬の冬の時期(12月から4月)に全て収穫するのではなく、通年で収穫・製糖を行うことだそうだ。 叶さんが伝統的製法で造った黒糖 黒糖焼酎(西平本家) その日の午後は、佐藤さんが「黒糖焼酎アンバサダー」を務める蔵「西平本家(にしひらほんけ)」を訪問した。11月は焼酎造りの時期ではないので、実際に工程を見ることはできないが、シーズンが終わった蔵の中で静かにたたずむ機材を見ながら工程を教えていただいた。(写真は焼酎造りシーズン中のもの。西平本家提供写真) 工程の第一は「一次仕込み」で、原料米に麹菌をつけ約2日寝かせてから、酵母と共に水を加えて「一次もろみ」を作る。日本酒の酒蔵は何度も見学している私にとって、この工程は日本酒と同じなので驚かされた。酒類とは酵母が糖分をアルコールに変えたもの。なぜ黒糖をそのまま酒にしないのか? 私の素朴な疑問に西平本家生産課の中村智文(ともふみ)さんは「それではラム酒になってしまいます」と笑った。 調べてみれば、砂糖を酵母で発酵させ蒸留した強い酒がラム酒である。一方、日本の焼酎は一次仕込みで米または麦に麹菌を付着させて一次もろみを造る製法が基本となる。その一次もろみに芋を加えれば芋焼酎、黒糖を加えれば黒糖焼酎といったように各種焼酎がつくられる。驚くことに黒糖焼酎は「米麹」を使うことを条件に、酒税法で奄美群島にのみ製造が許可された焼酎だという。 二次仕込みでも麹を用いるが、発酵速度を速める工夫をしている。 黒糖を溶かして黒糖液を作る そして三次仕込み、いよいよ黒糖を溶かして作った黒糖液を投入する。「来た! 来た、来た、来た!!」という感じに急激に発酵が進む。 米を麹が糖分に変え、酵母がその糖分をアルコールに発酵させる反応より、いきなり黒糖を加えた時の方が当然猛烈に発酵する。もろみがブクブクとまるで喜んでいるように、発酵するのが目に見えるようだった。 黒糖液を加えた三次もろみ 次の工程が蒸留で、この工程が日本酒やワインなどの醸造酒と蒸留酒の違いを生み出す。十分発酵した三次もろみを蒸留機にかけて蒸留し(過熱して気体にした後、それを冷やして液体にもどし)、冷却ろ過すればアルコール濃度の高い蒸留酒(焼酎)が出来上がる。 蒸留機 ホーロータンク オーク樽貯蔵 そうして出来上がった焼酎を熟成させながら貯蔵する。貯蔵方法によって違った商品になるという。西平本家では、酒のコンセプトによって、ホーロータンクで貯蔵したり、オーク樽に貯蔵する。例えばホーロータンクを使った製品の例が『氣』(白麹仕込み)で、オーク樽を使ったものが『天孫岳(アマンディ)』である。「これは夜飲み比べなければならない」とある種の使命感(?)が湧いてきた。 西平本家生産課中村さん(写真の右側)と黒糖焼酎アンバサダーの佐藤さん(左側) 奄美の海の恵みを食べる(居酒屋むちゃかな) 郷土料理と黒糖焼酎を出す店は多いが、佐藤さんのお勧めの店の中で、焼酎の品揃いが最も良さそうな居酒屋「むちゃかな」を選んだ。ちなみに店名もひょうきんで面白いと思っていたが、実は悲劇の島唄『むちゃ加那』のヒロインの名が由来だということを後になってから知った。なにより、この店が大当たりだった。 取材した西平本家の焼酎はもちろんのこと、無いものは無いくらいに黒糖焼酎の選択肢が豊富で、奄美ならではの料理も目移りするほど。まずはその違いを確認したかった西平本家の黒糖焼酎「氣」と「アマンディ」をオーダーした。「氣(黒麴仕込み)」は、しっかりしたコクがありながら上品な香りと微かな甘みがありとても飲みやすい。オーク樽で貯蔵した「天孫岳(アマンディ)」は、深いコクがあり熟成感が強めだ。ロックでゆっくり飲むのが良いかも知れない。どちらも地魚の刺身とよく合っていて食欲がそそられた。 酒の肴(さかな)にはまず地魚を頼んだ。シケで地魚は上がっていないというある漁港関係者の話を聞いていたが、刺身盛りには地魚が並んでいた。 刺身盛りの写真上段中央がキハダマグロ、その右が肉厚で美味しいと佐藤さんも勧めるソデイカ。中段の左がエラブチ(温かい南の海にすむブダイの仲間)の酢味噌あえに海ぶどうをのせたもの、中央がクロマンダイ、その右がイシガキダイ。そして一番手前が島ダコで、シケにあまり影響されずに良く獲れるという。 奄美でエラブチと呼ばれるナガブダイは、調理前の姿を見るとカラフルでいかにも南洋の魚で北の魚に比べて若干臭みがあるという。そのため酢味噌あえが一般的で、とても美味しく感じた。クロマンダイとイシガキダイも美味しく、南洋の魚は美味しくないと思っていた私の常識が覆された。ソデイカは分厚い切り身だったがねっとりして甘く、島ダコは東京で食べるものより柔らかく、甘めの島の醤油でうま味が増す気がした。もちろん魚の調理法で、朝獲れの魚でなくてもうま味を引き出す技術を持っている店なのかもしれない。それはそれで素晴らしい居酒屋に出会ったことになる。 その他の料理は何にしようか、迷っていると店の方が「トビンニャの塩茹で」を勧めてくれた。和名をマガキガイといい、ニャは方言で貝のことだという。この巻貝はサンゴ礁の海底を爪でピョンピョン跳ね回るため、跳ぶ貝からトビンニャと呼ばれているそうだ。楊枝を使って引き出した身はわずかなものだが、食べると口の中にサンゴ礁の滋味が広がり、楊枝を持った手が止まらなくなるほどの旨味がある。おもわず2皿目も頼んだ。 もう1つお店のお勧めが「もずくの天ぷら」。見た目「キレイ」、食感「フンワリ」として、味は「サッパリ」だった。 続いて、佐藤さんの好物で奄美のつぶ味噌を使った「豚みそ」を食べた。これは、日本酒でも、黒糖焼酎でも酒が進むこと間違いない酒好きのためのツマミだ。 更に本日「島めしかのう」から始まった「豚コース」(?)の最後が「トロトロ豚足の煮物」で、実は豚足を食わず嫌いの私がしっかり脳に刻み込むほどの美味しさだった。奄美は豚の食べ方が上手だと思った。 最後に、今夜全ての料理について詳しく説明をしてくれた店員さんが、卓上での仕上げに火を付けてくれたのは「島サザエのつぼ焼き」だった。サザエの美味しさもさることながら、忘れられないのはサザエの見た目だった。これまで見てきたサザエとは違い殻にトゲがない。味だけでなく、見た目のユニークさも、知らない土地で食事をすることの楽しみの1つだろう。 奄美大島を2回にわたってご紹介した。マリンスポーツのイメージが強いところだが、今回の取材はその他の魅力を探す旅となった。太陽がサンサンと輝く夏でなくても、雨模様でも、海が時化ていても楽しめる奄美大島。文化も、自然も、食事も魅力満載の奄美大島をあなたも訪ねてみませんか? 記者は間違いなくまた行きます! 野鳥たち、特にアカショウビンがいる頃に。 ≪取材協力≫島めし屋 かのう住所:〒894-1741 鹿児島県大島郡瀬戸内町篠川173-4電話:090-8918-0259定休日:火~金曜日(農作業の都合で長期休業となることがあるので要確認) 株式会社 西平本家住所:〒894-0016 鹿児島県奄美市名瀬古田町21-25電話:0997-52-0059ホームページ:https://kokutou-shochu.com/ 島の居酒屋むちゃかな住所:〒894-0031 鹿児島県奄美市名瀬金久町4-18 ASJビル1F電話:0997-52-8505営業時間:17:00~23:00定休日:不定休ホームページ:https://www.muchakana.com/ アマニコガイドサービス運営会社:結人(ゆいんちゅ)株式会社住所:〒894-0043 鹿児島県奄美市名瀬朝仁455-10電話:0997-58-7879ホームページ:https://www.amami-occ.com/