「豊岡鞄®」のブランド戦略や人材育成に関し、中心となっている企業や人材教育機関などを訪問し、それぞれの現場を見せていただいた。印象的だったのは、鞄作りの現場でそれぞれの会社のこだわりを持ちつつ、ブランド戦略の推進やアンテナショップの展開、職人育成の施策などで、企業の枠を超えた協力関係がしっかりしていることだった。冒頭で紹介したKITTEのアンテナショップも、豊岡鞄®認定企業16社が出資して経営している。補助金は一切ないと聞いて驚いた。アルチザンやトレーニングセンターは補助金も含む試みだが、豊岡鞄の同業者が協力しなければできない施策だと思う。2019年の新語・流行語大賞で例えれば、“ONE TEAM”に感じられて、取材後大変清々しい気持ちになった。 さらに協力関係の輪は、日本初の国産デニムを作った「デニムの聖地」岡山県の井原デニムとのコラボ(2017年)、良質なメガネ製品で世界的にも有名な福井県の鯖江めがねとのコラボ(2018年)、と他の地域ブランドにも広がっている。 兵庫県鞄工業組合の副理事長でもある(株)由利の由利昇三郎社長を訪問した際、今後の抱負をお聞きした。レディース商品のさらなる充実や、これまでにない高品質の撥水性イタリア製皮革を使った商品の開発などが話題に上ったが、最も目を輝かせて語られたのが、2020年2月にミラノで開催される世界最大規模の鞄見本市「ミペル・ザ・バッグショー(MIPEL THE BAG SHOW)」への出展の話しだった。「ミペルに出展して、ヨーロッパのバイヤーに、日本製の鞄と言えば豊岡鞄だと印象づけたい」という言葉に、経営者の世界戦略が感じられた瞬間だった。