島根県~神話と歴史と景観と~安来市

2012-07-20


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『名園と名画に心を洗われる時間』

 次に、神話の世界からは離れて、安来(やすぎ)市の足立美術館を訪ねた。創設者の足立全康氏が集めた近代・現代の日本画等のコレクション1,500点を四季折々の移ろいに合わせて展示替えをして公開している美術館だ。横山大観の作品を中心とする美術品も見事だが「庭園もまた一幅の絵画である」と、創設者自らが精魂を込めて作り上げた日本庭園は、アメリカの日本庭園専門誌で2003年から9年連続で日本一の庭園と認定されている。ミシュラン・グリーンガイドでも「三つ星」の評価を受けるその名園を紹介する。

 明るく近代的な正面玄関を入り順路に沿って進むと、すぐに京都を思わせる庭園が見えて来る。廊下の右手に苔庭、左手には茶室を包むようにしっとりと静謐(せいひつ)な茶庭。この時点でもう別の世界に一歩足を踏み込んだ気がした。しばらく苔と赤松のやさしい緑に目を休める。

 

 

 爽やかな気持ちになって先に進むと、視界を遮るもののない天井までの大きなガラスに囲まれたロビーがある。外は広大な枯山水の庭園が広がっている。これほど大きな枯山水庭は見たことがない。その存在感に圧倒されて暫したたずむ。そしてガラス窓に近づいてみたり、離れてみたり、そうかと思うと長椅子に腰かけてみたり、何故か落ち着かなくなる。いろいろと見る位置を変えてみたくなるのだ。「広大な」という感覚は、単に庭が広いというだけではなく、勝山(かつやま)を中心とした借景の山々が庭園の景観に見事に溶け込んでいるからだろう。館主は借景の山に電柱一本立てない約束をとりつけている、というこだわりようである。

 右手の方を見ると、岩肌の黄土色が印象的な亀鶴(きかく)山が見越し松の後ろに迫っている。その岩山から流れ落ちる滝は、庭園と調和するように人工的に作られたものだそうだ。創設者が愛した日本画の世界を庭園造りにおいて再現している。理念を現実のものにしていく。そこには見事な緻密さと豪快さを感じないではいられない。 

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 更に奥に進んでいくと、自然に足が止まってしまう場所がある。まさに「一幅の絵」のように切り取られた景観。窓枠や床の間の形に切り取って見る庭園は、それが枯山水であろうが、白砂青松の庭園であろうが、それらを全体として見たときと全く違った趣が感じられる。

手前の木のシルエットによるアクセントと遠近感、より強調される光と影など、自然と溶け合った庭園美とは一味違う絵画のような美しさがある。

 

 

 足立美術館最奥部には2つの異なった庭が配されている。順路左側には、豊富な湧水に赤や金色の錦鯉が気持ちよさそうに泳ぐ池庭が、枯山水や苔庭とはまた違う、うるおいのあるやすらぎを見る者の心に与えてくれる。草木の緑とともに、水が人の心にもたらす効果を実感する。

 最後に順路を右手に回り込むと、白砂に石と松を配した庭に出る。 白い砂が松を引き立て、石の絶妙な配置が陰影を与える。横山大観の名作《白沙青松》の世界を表現したものだという。池の庭も白砂青松の庭も見学者が見る場所が屋外である点が他の庭と違うところだ。最後に屋外の開放感も楽しみ、いっそう自然の恵みを感じたところで、いざ2階の展示室に入って日本画の世界を楽しむ。本当に心憎い演出だ。

 

 

 

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